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魔法少女は魔法を使えない  作者: アーナ
魔法競技大会編
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第九話

キラキラとした瞳で、未だ試合の興奮冷めやらぬ様子のカフィル君をひとまず落ち着かせ、もう一度話を聞く。私の聞き間違いでなければ従弟フォロワーにしてくれと言われた気がするがおそらく気のせいだろう。


「僕は本気です。最後の攻撃、本当にすごかったです!」


「いや、あれは攻撃手段がそれしかないからであって……。というか、多少大規模なだけであって、誰でもできるよ。」


輝く笑顔で迫ってくるカフィル君を押し戻す。


「どこが多少なのよ。」


「てゆーか、あの量一度に発動したら確実に魔力の操作ミスって暴発する。」


「二人はちょっと黙ってて。」


後ろから茶々を入れてくるカトレアと妹を制し、断りの言葉を口にする。


「私は基礎魔法しか使えないし、参考にならないと思うよ。攻撃系がやりたいなら誰か紹介するから、そっちにしておきなよ。」


知り合いで風系が得意な人だと、ダリア先輩かな。あの人、ふわふわした美人だからカフィル君と並んだら映えそう。


「僕はシトラスさんの魔法がすごいと思ったんです!シトラスさんに憧れたんです!他の人じゃありません!」


「わかる。」


「すっごいわかる。」


本気の告白に思わずたじろぐ私とその後ろで真顔でカフィル君を肯定してくる二人。

ちょっと黙っててってば。


「いや、それはうれしいけどね?私みたいな尖ったやつじゃなくて、もっとちゃんと教えられる人にしようよ。普通の魔法使いが魔法苦手です、なんて笑い話にもならないよ。」


量産級レベルの魔法使いならともかく、今や戦略級に食い込んでくるカフィル君が魔法が苦手とか言ったらマジでなんの救いもない。


「それに、私結構忙しいからあんまり面倒見てあげられないし。」


「ぐっ……!僕としては構いませんが、迷惑をかけるのは本意ではありません……。」


しゅん、とうなだれるカフィル君を見て、ちょっと可哀想かな、なんて思う。いや、忙しいのは本当だが。


「いいじゃん、取ってあげれば。」


「そーだよお姉ちゃん。こんなに頼んでるのに。人でなしー。」


「人でなしー。」


「やかましいわ。」


楽しそうに茶々を入れてくる妹の頭を軽く叩き、もう一度カフィル君の方を見る。迷惑をかけるのは本意ではないと言った通り、あまりごり押しする気はないようだ。それでも、諦め切れないのかチラチラとこちらを伺っては目をそらす、ということを繰り返している。

恋する乙女か君は。


「とにかく。悪いけど、諦めるか他を当たってくれる?紹介が欲しければ、高等部にも大学にも、それなりに顔は利くから言ってちょうだい。」


「……はい。お時間を取らせてしまってすみません。」


ぺこりと頭を下げて、友人たちのもとへ戻っていく。その背中にはそこはかとない哀愁が漂っていたが、心を鬼にして視線を剥がす。とはいえ、袖振り合うも他生の縁。振っておいて余計なお世話かとも思うが、何人か紹介するくらいはしてあげようと心の中で知り合いの顔を思い浮かべていく。


そんな私の心の動きを知ってか知らずか、スッと離れたカトレアがカフィル君に何事か話しかけているのを、私は見逃したらしい。





ともあれ、無事に幕を下ろした春の競技大会であるが、これが契機と見たのか、はたまた、もともと狙われていたのか、この後、私はしつこいほどの勧誘の嵐に見舞われていた。そのほとんどは、部活動であったり、学内のスポーツクラブのようなグループであり、すべて同じ忙しいから、という理由で断っていた。


しかし、そうもいかないものが一つ、舞い込んできていた。


魔法使いのほとんどは戦術級と呼ばれるランクに属する。この時点で、センスや才能という観点を無視して考えた場合、という注釈はつくものの、武装した警官などと張り合える程度には武力を有する。


そのため、民間や国への奉仕活動を行う義務がある。戦争時の出兵や、テロの対策などがそれにあたるのだが、平和な今、それを気にしなくてはいけないのは貴族位を持つ魔法使いや()()()()()()使()()()()のみだ。


……つまり、私である。


世界最大の魔力量を持つ私は、知名度が高く、「魔法使い」の代表、或いは広告塔としての役割を求められることも多く、様々な場面において発言権が強い。もちろん、未成年の学生であるということに配慮され、学業や生活に著しい支障が出るような事態は避けるよう組まれている。とはいえ、面倒な柵も多い。例えば、国からの依頼は断れない、とか。


王国の印章が捺された真っ白な封筒を手に頭を抱える。そんなに長くもない人生の中で幾度か手にしたこの封筒は、優美な封蝋や微かに香る雅な香とは裏腹に、なかなか面倒な案件ばかりなのだ。


(どうしよう。絶対今回も面倒なやつだろ、これ。装丁が丁寧すぎるんだもん。)


ソファの上で封筒を見つめながら無駄な抵抗を試みること数分。

とはいえ、どれだけ眺めていても封筒が消えるわけではなく。大きく溜息をついてペーパーナイフでそれを開ける。


「……。」


美しい筆跡で書かれたそれを要約すると、調査隊に入れ、ということだった。ただし、国の研究院に所属する方ではなく、学園に所属する方である。


調査隊、魔法調査隊とも呼称されるそれは、星が降ってからこちら、急増した魔法関連の事象の調査や解決を請け負う組織である。規模も調査内容も所属組織も多岐に渡るが、有名なのは国立魔法研究院に付随するものと、我らが魔法学院のものだろう。他にも、各領が運営するものや、私立の学校が運営するものなど、幾つかの有名どころがある。


その中の一つ、国立魔法研究院は基本的には魔法に関する研究を幅広く行っており、そこに所属する調査隊はそれら研究のために素材を探してきたりする組織である。


本来は。


国立機関である以上、魔法研究院ももれなく社会への奉仕義務を負う。なにせ、所属しているのは特別職の国家公務員である。信頼度はばっちり。さらに、二度の戦争で兵器としての印象を強めてしまった魔法使いのイメージアップのためにと国が積極的に社会貢献活動の中に魔法使いを組み込んでいる。

また、星が降ってからこちら、精霊や魔法が関わっていると思しき不思議な現象は止まる所を知らず、その結果、毎日全国各地からすさまじい量の依頼が持ち込まれる。魔法を恐れる人々が敏感になっているだけの魔法が絡まない案件も多く混じってはいるとはいえ、その判断を行うのも研究院の仕事である。そんな訳で、とてもではないが捌ききれない量のそれを、他所の調査隊へ委託したり、私のような奉仕義務を持つ魔法使いへ依頼したり、もちろん自分たちが行ったり、とまあ、とんでもなく忙しい職場となっている。何度か手伝いの名目で駆り出されたことがあるが、二度とやりたくないと毎回思わされる殺人的な忙しさである。まあ、だからこそ、基本はただの学生であるはずの私すら呼び立てられるのだが。


対する学院所属のものはもっとほのぼのしている。多いのは学内で完結する依頼。すなわち学生から学生に持ち込まれるものである。大学部の生徒や研究院生、講師などが研究素材の採集を依頼として出すことが多い。とはいえ、それなりに厳しい審査を経て選ばれている隊員に対して、6区の森でこれこれという草を探してきてくれ、というのはあまりにも申し訳ないのか、簡単なものは一般生徒に任せてしまう場合も多く、遊び盛りな学生たちの良きバイトとなっている。

学外からの依頼も受け付けており、多くが魔法研究院から回されてくるものだが、その場合は原則として正規の隊員しか受諾できない。例外としては特殊な魔法技能を必要とする場合などが挙げられる。


ともかく、今までの物よりも格段に簡単な内容に首をかしげる。勿論、調査隊に依頼する、という形で私を動かすことはできるが、記録に残る上に調査隊はチームで活動する。関わるのが大人数になればなるほど、情報統制は難しくなるというもの。


(私の導姉(リーダー)も入ってるし、そのうち私も推薦されるだろうと思ってたから別にいいんだけど、一体どういうつもりなんだ?)


何か裏があるのかと思いつつも、現状からは見通せない。嫌な予感がする、などと言う理由で断れる程甘い話ではないのが辛い所だ。


ともかく、了承の旨で返信を書こうと自室へ向かう。偶にしか使わない上等なレターセットを引っ張り出して、これまた上等なペンを手に取る。

少し考えて、ありきたりな前文の後に手紙を拝領したこと、指示を受諾することを記し、短めに締める。

個人宛に来ている手紙だし、この程度でいいだろう。綺麗に畳んで宛名を書いた封筒に入れ、蝋を垂らす。杖と翼の印章が綺麗に捺された事を確認して、机の端へ置く。明日学校に行く前にでも出そう。





結論から言えば、予想通り、そんなに甘い話ではなかった。けれど、調査隊に入る事によって得られた物は大きく、私の人生に於いて大きな分岐点になった事は確かだ。

この選択は確かに正解だった。

ここで得た物は私を大きく作り替え、新しくしてくれた。


生きる意味を知った。

世界の価値を知った。


涙の理由(わけ)を知った。

挫折の味を知った。


後の人生で、この手紙を思い出す度に、私はそっと笑って溜息を吐くことになるのだ。


まったく、しょうがないなあ、と。

競技大会編は一区切りです。

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