#1
彼の朝は、学園の校門が閉まる五分前だという事を知らせる鐘の音を聞いてから始まる。
目を覚ました後ベッドから降り、インベントリから服を取り出し、着替え、寝間着はインベントリに放り入れる。
その後、カップに入った熱々のコーヒーとトースト。それから、机と椅子を創り出し、ゆっくりと食べる。
食べ終わった後、革靴を履き、インベントリから漆黒のロングコートを取り出し、羽織る。
学園の校門が閉まった事を知らせる鐘の音が聞こえた頃に部屋を出て、学園へ向かう。
残された空のカップと机、それと椅子は音も立てずに消えていった。
学園に着いたあと、閉まった門の前にいる警備兵に胸ポケットからカードを出しながら声をかける。
「おはよう」
「あ、おはようございます。」
警備兵は彼を見ると、門の横にある警備兵用の出入り口を開けてくれた。顔パスである。
「もう何度遅刻しないように忠告したか、、」
「あはは。まぁ、私は午後担当だから時間はいっぱいあるよ」
「つぎは遅れないでくださいねって言っても聞きませんよね」
「よくわかってるじゃないか」
そう言って彼は学園へと入っていった。
職員室に着くと、彼に呼びかける者がいた。
「アリス先生、少しいいかな?」
「何だ?ユー坊。なんか用事でも?」
「ここではその名前で呼ばないでって、、、まぁ、いい。それで用事なんだけど、ちょっと頼まれてくれないかな?」
「?どういう事だ?この大陸一の学園の学園長が一教員に頼みごとなんて」
そう、彼に呼びかけた人こそこの学園の学園長である。そしてここはこのヒミニン大陸の中で一番の名門校、ユーリスト学園だ。
「よく言うよ。先生は僕がココの生徒だった時から居たし、容姿だって全く変わらないじゃないか。というか、僕が生まれるずっと前から居たんでしょう?
だから学園の守り神なんて言われるんだよ。」
「まぁ、私が死なないのはそういうスキルだからな。仕方ない」
「“不老”ですか。」
「あー、まぁ、な。で、話ってなんだ?」
「ああ、そうでした。実は、国王が勇者召喚をしたそうなんですが、、、」
勇者召喚とはこの世界、テリアライズとは異なる世界、つまりは異世界から凄まじい能力を持った勇者と呼ばれる者を召喚するものだ。
と、伝えられているが、本当は異世界から勇者と呼ばれる者を召喚するのではない。異世界から召喚されるのはこの世界に置き換えると農民と呼ばれるごく一般人なのだ。
彼等は異世界からこの世界に来るときに神様と会い、チートと呼ばれる反則級の能力を貰って来るのだが、そんな事は召喚者本人には知る由もない。
故に召喚者達はチート能力を貰った一般人を勇者と呼ぶのだ。
勇者召喚はそうそう出来るものではない。この世界の国家魔術師50人程の膨大な魔力を使い、尚且つ、召喚者は勇者召喚を行った日から1ヶ月は魔術や魔法が使えなくなるという結構キツい縛りがあるのだ。
たしかに最近、魔王が復活したと世間を騒がしているがまだ焦る必要はない筈だ。
彼は学園長が口籠ったことに引っかかりを覚えた。
「が?」
「はい、召喚したのは良いのですが、呼び出された勇者は一人じゃなかったんです。」