70話補足:江戸時代は別にマグロ嫌いじゃない
【マグロ豆知識】
中世江戸時代のクロマグロといえば猫またぎ――すなわち不味い魚とも呼ばれ、特にトロの部分は捨てられていました。
というのが定説ですが、実は正しくありません。
まず、江戸とそれ以外の都市で扱いが大きく違ったことを認識する必要があります。
江戸の庶民にとってはクロマグロは遠くの海(基本は青森あたり)から輸送されてくる魚で、新鮮なものが手に入らなかったという前提があります。
(ちなみに港は神奈川でも、遠くの海でゲットしてくるため、江戸に着く頃にはすでに時間が経っていたのです)
なので『江戸の人』が腐りやすいトロを好まなかった(ありつけなかった)と言うべきなのです。
(↑がいつの間にか『江戸時代の人』に変わってしまったんですね)
そもそも関西ではキハダマグロがメインですしね。
ちなみに腐りやすい=安価だっただけで、トロは江戸庶民に親しまれた味でした。
その事情が変わったのが江戸中期。だいたい天保3年ごろ。
漁業の発達とクロマグロの回遊経路の変更によって、江戸付近でもクロマグロが漁獲できるようになったのがその理由と言われています。
そして、ここで『猫またぎ』の話が出てくるわけです。
このクロマグロ漁、始めたばっかりのせいかクロマグロが獲れる獲れる。
江戸の港はクロマグロでいっぱい! それはもう、猫も食べ飽きちゃうほどに!
そう!
以前の豆知識『猫またぎ』の意味で『まずい魚』のほかに『塩辛すぎる魚』『猫も飽きるほどにとれた魚』『おいしすぎて骨しか残らない魚』などがあると書きましたが、クロマグロにつけられた『猫またぎ』の本当の意味は『猫も食べ飽きるほどにとれた魚』なのです。
こういったところから、勘違いが勘違いを呼び、いつのまにか『江戸時代の人はクロマグロを猫またぎと呼び、不味い魚と認識していた』となっちゃったんですね。
というわけなので、この猫またぎという言葉。
クロマグロにとってはいわば『食べ飽きるほどに虐殺された』という恐怖の称号なのです。