67.最後の夜 (クルト視点)
先日は大変ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。
わざわざ教えて下さった方々、本当にありがとうございました。
アーサーの活躍のお陰でなんとか命を落とさずに済んだ私達は、まだ戻りきっていない体力と魔力の回復に努めるため、そのままこの空き家で一夜を明かすことになりました。
一瞬にして消えたという魔物の残骸の事や、彼女が私に使ったという魔力の譲渡の事など聞きたいことは山ほどありますが、彼女自身も今日は心底疲れ果てている様子だったので、私はあえて深くは追及しないことに決めました。
まあ、あのディルクの様子を見れば魔力の譲渡のほうは、どんな手段を使ったか大体想像つきますけどね……。
今更この歳になって口付けのひとつやふたつどうってこともありませんが、見るからに純情そうな彼女にそんな真似をさせてしまったのかと思うと、流石の私でも申し訳なさが先にたちます。
やはりここはあえて何も聞かずにやり過ごすほうが良いのでしょう。
それにしても直系の王族以外で口移しでの魔力の譲渡が出来る人間がいるとは驚きでした。
例えこれが『魔術書に魅入られし者』の力だとしても、王族にしか出来ないとされている秘術を使えるとなれば流石に黙っている訳にもいきませんし、報告したらしたらで大変なことになること請け合いです。
私はすっかり寝入ってしまっているアーサーを横目に手紙を認めると、自分の荷物の中から緊急通信用の魔道具を取り出し、とある所へその手紙を送りました。
待つこと数分。思ったよりも早く返ってきた手紙には、アルフレッド様のご容態と現在の王宮の様子が書かれており、その文面から現在のアルフレッド様が想像以上に厳しい状態であることがわかりました。
そしてもうひとつ。私が報告した事への返事もあったのですが……。
その手紙を無言のままディルクに渡すと、ディルクは手紙を読んで険しかった表情をより一層険しくした後、ひとつ大きなため息を吐きました。──まあ、その気持ちもわからなくはありません。
アルフレッド様は何とか一命を取り止められたものの、未だに意識不明のまま。そして魔力持ちにとって生命力と密接に関わってくる魔力が一向に回復の兆しを見せないらしいのです。
普通なら安静状態になっていれば体力の回復と共に魔力も自然と回復してくるものなのですが、体力の消耗が激しすぎたのか、はたまた何か別の原因があるせいなのか、アルフレッド様の魔力は戻る気配すらなく、例の方法で魔力の譲渡を試してみても、まるで底の割れた水瓶のようにじわじわと魔力が失われ少しも溜まっていかないのだそうです。
そんな状態では意識が戻るわけもありません。
「……陛下はアーサーをお呼びなのだな」
「本当はそうすべきでないと思っていらっしゃるのでしょうけれど、そうなさらないわけにもいかないでしょうね……」
「いち個人の意思や事情よりも王族に関する事を優先するのは当たり前だ。無能な振りをなさっていてもアルフレッド様の優秀さは国の中枢を担う者なら誰もが認めていること。──この国のためにも簡単に失うわけにはいかん」
当たり前だと口にしつつも苦い表情をするディルクは、陛下から頼まれたからというだけではなく、個人的な感情でアーサーの事を気にかけているように思えます。
──斯く言う私も同じ気持ちなのですが……。
「明日の朝、アーサーが目を覚まし次第、アーサーの転移魔法で王都に戻ることに致しましょう。ただ、直接王宮に向かうにしてもなるべく目立たないよう戻らねばなりませんので、あの方にも協力していただかなければなりませんね」
私はもう一通手紙を認めると、今度は別の相手へと繋がる通信用の魔道具でそれを送りました。
相手の返事を聞く必要はありません。
「さて、我々もそろそろ身体を休めましょうか。いくら回復してもらったと云えども一応瀕死の重症を負った後ですし、明日からはまた気の抜けない王都での生活が待っていますから」
私は通信用の魔道具を鞄に仕舞うと、ぐっすりと眠っているアーサーの側にしゃがみこみ、まるで月光を編み込んだような美しい色合いの髪を撫でながら、その寝顔を眺めました。
魔術書のせいでガラリと運命が変わってしまった彼女。
名前も出自も性別さえも偽ったままこの先ずっと国の駒として生きていかねばなりません。
そして明日。本人の意思とは全く関係ないまま彼女は再び大きな転機を迎えることになるでしょう。
今はこうして触れることが出来るほど近くにいる我々も、この先その姿を本来の立場から黙って見守るしかなくなるのです。
私は名残惜しい気持ちでゆっくりと手を離すと、まだ僅かにあどけなさの残る彼女の寝顔を厭きることなく見つめ続けたのでした。
お読みいただきありがとうございます。
前回の更新後、本来ムーンライトノベルズに投稿するはずのものが、私の確認ミスで過ってこちらへ掲載されておりました。
それを読んで不快な思いをされた方もいらっしゃったと思います。
誠に申し訳ございませんでした。
ご指摘下さった皆様、本当にありがとうございました。
今後こういった間違いがないよう気を付けてまいりますので、引き続きお付き合いいただけると幸いです。




