62.力の源
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
王太子殿下から思いがけない方法で魔力をわけてもらい、クルトさんの顔を道しるべに再びロイド村へと戻った私は、目の前に飛び込んできた光景に絶句した。
クルトさんの顔を思い浮かべて転移の魔法を使った筈なのに、今、目の前にクルトさんの姿はない。代わりに見えるのは、おびただしい数の魔物の死骸。土や草木がどす黒く変色するほどの血溜まり。 辺り一面濃厚な死の気配というものに覆い尽くされている状態の村で、私は必死にクルトさんとディルクさんの気配を探した。
「クルトさんッ!ディルクさんッ!」
呼び掛けても返事はない。
最悪な想定に、これが夢なのではないかとも考えたが、先程ここを去る前に『聖魔の書』の力を使って跡形もなく滅した時には感じられなかった鼻をつく異臭とこの地獄絵図のような光景が夢ではないのだということを実感させる。
もう一度、クルトさんの顔を思い浮かべて転移をしようと試みたものの、全く言葉が浮かんでこない。
どうやら魔力が不足しているらしい。
そのことを実感した途端、軽く目眩すらしてくる自分の身体が酷く疎ましかった。
──そういえば。
ここへ転移する寸前、王太子殿下からもらった『魔力回復薬』の存在を思い出した私は、早くしなければと焦るあまり、親切にも王太子殿下が教えてくれた服用の注意の事などすっかり忘れ、瓶の蓋を開けると一気にそれを飲み干した。
その結果。たちまち先程以上の酷い目眩と吐き気に襲われ、立っていることすら困難になる。
その時。
リィィーーーン……
またしてもあの音が私の頭の中に鳴り響いた。そしてそれは、魔力酔いのせいでグラグラする私の頭の中で徐々に大きくなっていく。
リィィーーン……、リィィーーン……、リィィーーン……
何かが私を呼んでいる。
それがわかっていても、生憎指一本すらも動かすことが出来ないほど身体が重く、一向に鳴りやむことがないこの耐え難いほどの大音響のせいで、この状態から逃れる術を考えることすらままならなかった。
──そんなに呼ぶなら勝手に連れていってよ……。
ほとんど自棄気味に心の中で呟くと。
私の身体は自分の意思とは関係なく、勝手にどこかに転移したのだった。
フッと身体が軽くなったと思ったら、先程まで感じていた身体の不調が嘘のように消え去り、あれほど頭の中でうるさく鳴っていた鈴の音も聞こえない。軽くなった身体を起こしてみると、視界いっぱいに大草原が広がっているという景色が見えた。
ここは、どこ……?
確実にあのロイド村ではないことだけは確かなようだ。キョロキョロと辺りを見回すと。
『おーい。ロザリー!こっち、こっち!!』
呼ばれた声に驚き、振り返ってみたものの誰の姿も見当たらない。しかも、『アーサー』ではなく、『ロザリー』と呼ばれたことに気付き、私は即座に警戒を強めた。
──今の私を見てロザリーと呼ぶ人間はいない筈なのだ。
「ねぇ、ロザリーってば、何で無視すんの?」
今度はすぐ耳許で聞こえてきた成人男性の声に驚き振り返ろうとすると、突然背後から抱き締められ、死ぬほど驚く羽目になった。
ギャーーー!!
思ってもみない触れあいに内心大慌てしている私を他所に、謎の成人男性はあっという間に私の身体を反転させ、超至近距離で向かい合う。
燃えるような赤い髪に、見る角度で色彩を変える不思議な瞳。顔立ちは文句なしにイケメンで、その存在には神々しささえも感じられる。
誰?この超絶イケメン。
全く見覚えのない顔に私がボンヤリ見惚れていると、今度は正面からガバッと抱きすくめられた。
「ギャッ!」
驚き過ぎて乙女らしからぬ声が口から漏れてしまったのが、ものすごく恥ずかしい。しかし、目の前のイケメンは全く気にしている様子もなく、私を腕の中に抱き締めたまま口を開いた。
「やっと会えたね、ロザリー。ずっと呼んでたのに全然気付いてくれないんだもん」
呼んでたっていつ?
っていうか、ここどこ?
色んな疑問が浮かんでくるが、とりあえず一番気になるのは。
「あの……、あなたは一体……?」
おずおずと尋ねると、超絶イケメンは私を抱き締めていた腕の力を緩め、満面の笑みを私に向けた。
「え? オレ? オレはね。君の力の源」
「……はい?」
全く答えになっていない回答に、首を傾げながら聞き返す。
──もしかして、イケメンの顔見ると元気出るとかそういうこと?
そんなアホなことをチラリと考えてしまった私に、超絶イケメンから衝撃の告白が。
「あ、オレ。魔術書の精霊。 君たちが『聖魔の書』って呼んでる魔術書」
何ですと!?
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