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37.旅の定義

 王弟殿下の急すぎる提案にも関わらず、ものの一時間で準備を整えることになった私達は、あっという間に出発の時を迎えようとしていた。



 今回私の弱点克服の旅に付き合わされる事になったのは、『天才魔術師デビュープロジェクト』の一員で、私がエセルバート公爵家に来てからずっとお世話になりっぱなしの二人。


 まずは剣術の指南をしてくれているディルクさん。

 そして、魔法の指導をしてくれているクルトさんだ。


 どちらも以前はカイル様のように王立騎士団に所属していた騎士だったと聞いているだけに、こんな私の教育係を任された挙げ句、こんな思い付きの旅にまで付き合わされる羽目になったことを本当に申し訳なく思わずにはいられない。


 全く役に立たない私がいる上、絶対護らなきゃならない王族と一緒の旅なのだ。

 二人にとっては間違いなく気の抜けない旅になることは間違いない。



「準備出来ました」



 私は急な出発で慌ただしくしている師匠二人に申し訳なさを感じながら、先程よりも随分活き活きとした様子の王弟殿下にそう報告した。



「お、出来たか?必要最低限の物だけでいいからなー。余計な物は持ってくんなよ」


「はい」



 準備と言っても、私の場合は、アーサーとなった時点で自分の荷物などほぼ無いに等しいので、先程着ていたチュニックの上に、フード付きのマントを羽織っただけの旅装に、カイル様からいただいた剣と着替えを数着持っていくだけだ。


 既に旅に出るための準備を終えているらしい王弟殿下は、先程の豪華だがだらしない着こなしから一転、旅に出るための簡素な装いに変わっていた。



 こっちの服装のほうが上品に見えるって、どういうことだろう……。


 思わず王弟殿下の姿に見入ってしまった私に、当の本人から容赦ない檄が飛んでくる。



「ボーッとしてんじゃねぇ!準備出来たんならすぐに出発するぞ!!」



 口を開けばやっぱりチンピラだった王弟殿下に内心大いにがっかりしながら、私はこっそりため息を吐いた。


 懲りもせず、ちょっとだけトキメキそうになっていた単純な自分が嫌になる。



 私が軽い自己嫌悪を感じていると、王弟殿下に肩を叩かれドキリとした。



 もしかして、ため息吐いてたのバレてた……?



「そういやお前、馬くらい乗れるんだろうな?」



 そういうことではなかったことに安堵しながら、肯定の返事をする。



「はい。一応乗れますけど……」



 色んなことに不器用な私だが、実は乗馬だけは結構得意だったりするのだ。


 クレイストン伯爵家では、女の子であっても馬に乗れたほうがいいという教育方針だったため、兄達には到底敵わなかったものの、それなりのレベルで習得していた。



 ……でも、何で今その確認?


 旅の途中で乗馬の訓練でもやらされるのだろうか、と呑気に考えていたら──。



「よし、じゃあ、手が空いてんなら、自分で馬の用意もしてこい」


「え!?馬で行くんですか?!」


「は?当たり前だろ。お前まさか歩いて行くと思ってたのか?」



 ──なんと、今回の旅の移動手段は馬だったらしい。



 勿論歩いて行くなんてことは微塵も考えていなかったが、王族の旅といえば馬車で移動するのが当たり前だと思っていただけに、馬で移動すると聞かされた私の驚きは相当なものだった。


 しかも王弟殿下はかろうじて帯剣はしているものの、ほぼ手ぶら状態なのだ。

 こんな状態を見たら、もう既に馬車に荷物が積んであるんだと勘違いしても仕方ないと思う。



「いえ、馬車か何かに乗って行くと思ってました……」



 馬鹿正直にそう告げた私に、王弟殿下から呆れたような視線が向けられる。



「お前何言ってんだ?それじゃ旅じゃなくて旅行になっちまうだろうが」



 更に。



「この旅の経験全てがお前の修行なんだよ。楽してどうすんだ!

 言っとくけど、この旅は自給自足が基本な。それが嫌だったら金を自分で稼ぐこと。泊まる場所も食うものも稼いだ額で変わるからなー。毎日野宿が嫌なら精々宿に泊まれるくらい稼げるように頑張れよー」


「え!?」



 とんでもない旅の計画を聞かされ、私の目は点になる。



 どこの世界に自給自足でサバイバルな生活をしようと提案する王族がいると思うのか……。


 しかも、その言い方じゃ、まるで私が稼いでくるみたいに聞こえるんですが?

 そもそも稼ぐってどうやって?


 疑問ばかりが次々と浮かび上がってくるが、残念ながら経験不足の私では、旅をしながら働く方法というものを咄嗟に思い付くことが出来なかった。



「よーし、まずは城下町に出てお前の名前をギルドに登録するぞー。そうじゃねぇとせっかく魔物を狩っても金にはできないからな。俺は王族だからギルドには登録できねぇし、あっちの二人も諸事情により登録できねぇから、登録するのはお前だけだがな。

──言っとくけど、これはお前の修行なんだから、基本お前が頑張るしかねぇんだぞ。俺達も手伝う事くらいはするけどな」



 明るくそう言う王弟殿下に、私は何も言葉を返せずにいた。



 ギルドに登録して、魔物を討伐して稼ぐって……。

 それって最早『旅』じゃなくて、『冒険』というものでは……?



 そう思ったものの口には出せず、私は大きな不安を抱えたまま王弟殿下の仰るところの『旅』に出発することになったのだった。

お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、評価ポイント付けて下さっている方、ありがとうございます。


これからも頑張って更新していきます!

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