32.意外な告白
「ど、ど、ど、どうしましょう!!」
私に対する特別教育の成果が芳しくないことを聞き付けた王太子殿下が、特別に考えて下さったありがた迷惑な気遣いに、私は軽くどころか、結構なパニック状態に陥っていた。
そんな恐慌状態の私に、カイル様が憐れみの籠った眼差しを向けてくる。
「どうしようもこうしようも、決定事項である以上、俺から言える言葉はひとつだけだ」
聞くだけ無駄な気もするが、気休め程度にはなるかもしれないと思い、一応聞いておくことにする。
「死ぬ気で頑張れ」
予想以上になんの捻りもない言葉をいただき、私はガクッと項垂れた。
「……カイル様。他に何か無いんですか?アドバイス的なものとか」
「アドバイスは散々してきたつもりだ。それでも出来ないんだから、後はもう死ぬ気で頑張るしかないだろう?俺には何でお前が術式の仕組みを理解出来ないのかが、サッパリ理解できない」
「そうですか……」
私が聞いたのはそういう意味のアドバイスじゃないんだけどね……。
未だに独身で身持ちの固そうなカイル様に、男女の心の機敏に関するアドバイスを求めた私がバカでした。
まあ、魔術のことにしても、本物の天才には凡人の苦労などわからないだろうけどね。
「天才と凡人では脳の仕組みが違うと思うんですよね……」
思わずそうボソッと呟いたところ、すかさずカイル様から
「俺は別に天才じゃないぞ」
と、謙遜にしても嫌味にしか感じられない一言をいただいてしまった。
貴方が天才じゃなかったら、世の中の人間は皆バカばっかりってことになっちゃいますけど……。
「なんだ、その目は……?」
こっそりジト目で見ていたのがバレてたらしい。
私は慌てて真面目な表情を作ると、
「何でもありません。頑張りまーす」
とごく軽い口調で言っておいた。
「全く、お前は……」
カイル様に呆れたようにそう言われ、今度は笑って誤魔化した。
お気付きかもしれないが、私達は一ヶ月前よりもだいぶ気安い仲になっている。
カイル様は、当初の堅物で融通の利かないイメージとは違い、なかなか面倒見が良く、気さくな人だった。
環境がガラリと変わっただけでなく、全く別人として人生を歩むことになってしまった私を気にかけて、時間を見つけては教育のことだけでなく普段の生活や個人的な悩みまでアレコレ相談に乗ってくれている。
王立騎士団の中でもあらゆる面において特に優秀な者だけしか所属できないという第一師団の団長を務めるカイル様は、容姿、家柄、実力、人格、カリスマ性など、全てにおいて抜きん出た存在で、最早嫉妬するのもバカらしくなるほどの完璧な人である。
ただ、乙女心には、ものすごーく疎い。
だから、先程のように私が『どうしよう』と狼狽えていた原因にも察しが付かず、案の定、解釈は完全にズレていた。
私は、例え相手が気にも留めていなくても、自分が失恋した相手と関わることが気まずいので『どうしよう』と言っていたのだが、カイル様は、いくらやっても術式の仕組みが理解できず、ついには王族を引っ張り出すことになってしまったことに『どうしよう』と言っていたと勘違いしているらしい。
物語とかでもこういうタイプの人は仕事の時は優秀でも、恋愛関係は上手くいかないと相場が決まっている。
そういう恋愛的な気持ちの解釈においては、大人であるはずのカイル様よりも、まだ16歳の王太子殿下のほうが余程理解できているのが現状だ。
だからこそ、この嫌がらせじみた采配に繋がった訳ですが……。
「俺は本当に天才なんかじゃない。本物の天才っていうのはアルフレッド様のような方のことをいうんだ」
苦悩を滲ませたような表情で吐き出された意外な言葉に、私は耳を疑った。
カイル様は若くして公爵位に就き、王立騎士団の花形である第一師団の団長で、誰よりも高い魔力を持った国一番の魔術師だ。
これが天才じゃなかったらなんなんだと聞きたい気持ちもやまやまだったが、あまりにもカイル様の表情と口調がシリアスモードで、とてもじゃないがそんなことを言い出せるような雰囲気ではなかった。
「元々持って生まれた魔力は、俺よりアルフレッド様のほうが高かったんだ」
「え……、でも今はカイル様のほうが魔力が高いんですよね?」
「今は、な」
カイル様の複雑そうな表情を見た途端、あり得ない仮定が脳裏を過った。
今はカイル様のほうが魔力が高くなった理由──。
まさかね……。
あんな物騒なものが世の中に二つもあったら堪らない。
ところが。
「俺もお前と同じ方法で魔力を底上げしたって言ったら、どうする?」
冗談とも本気ともつかないカイル様の言葉に、私はどう反応したらいいのかわからなかった。
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