31.再出発
僕の名前は、アーサー・ロイド。
性別男、年齢14歳。
エセルバート公爵領の最果てにある小さな村の出身で、12歳の魔力検査で魔力持ちだということがわかった。
ところがそのことがわかって少し経った頃、村が魔物に襲われて全滅。唯一生き残った僕は、何とか自力で一番近い街にたどり着き、そこにある役所に保護を願い出た。
魔力検査の証明書を持っていたお陰ですぐに身元が保証され、国からの援助が得られることになったのだが、精神的なショックが大きかったため、一年間の療養を経て、ようやく王都にある魔法学校に入学することが決まった。
魔法学校は、各家庭の事情や在住地域の特性なども考慮して、検査を受けた翌年から15歳になるまでの間であれば、年四回ある入学時期のうち、自分のタイミングにあった時を選んで入学出来ることになっている。
王都に住んでいる貴族の子女以外は、検査の翌年に入学してくることは稀らしいので、僕の年齢が既にギリギリになってしまったことは然程気にしなくてもいいらしい。
僕は、初めて魔力持ちの人間が出たことを手放しで喜んでくれた今は亡き村の皆と両親のためにも、これからの人生、絶対に誰にも負けないほどの天才魔術師として成功を修めてみせる!
……という、もの凄くハードな過去を持ちながらも、過酷な運命に立ち向かっていこうとしている風に詐称された経歴で、人生再スタートすることになった、ロザリー・クレイストンです。
これは心に傷を持つ影のある少年ということなら、無口でも不自然ではないと、王太子殿下自ら考えて下さった設定なのだが……。
Q:何故こんな複雑な設定を採用することになったのか。
A:それは王太子殿下のアドバイスという名の絶対命令があったから。
将来天才魔術師という触れ込みで王太子殿下の側近となることが決定事項である以上、『馬鹿がバレるから、必要最小限のこと以外喋るな』ということらしい。
女だとバレるから喋るな、ということではないのが、なんか悲しい……。
さて、そんなわけで王太子殿下にまんまと嵌められてから、一ヶ月。
順調かどうかは別として、私は至って元気に、カイル様の下で魔法学校に天才として入学するための準備をしながら過ごしている。
カイル様が私の教育のために提供してくれた場所は、王都にあるエセルバート公爵邸の敷地内に建てられた、魔法訓練用の施設だった。
さすが代々高い魔力を持った優秀な魔術師を多く排出している名家だけのことはあり、そういった場所が普通に存在しているのだから驚きだ。
私はそこに併設された住まいでアーサー・ロイドという少年として生活しながら、多忙なカイル様に代わって今回の『天才魔術師デビュープロジェクト』のために秘密裏に結成された、エセルバート公爵家が誇る講師陣から、魔法学校で習う内容について教えていただいている訳なのだが……。
魔術のほうは、『聖魔の書』の呪いの恩恵で高い魔力を手に入れることができたお陰か、基礎魔法と呼ばれる、火をおこす、水を出す、風を吹かせる、光を放つ、ケガを治すなどといったものは問題なく使えるようになっている。
そこから発展させた生活魔法や、攻撃魔法もわりと順調だった。
既存する複雑な術式を使いこなすという高度魔法もそれほど苦もなく出来たと思う。
これなら王太子殿下の無茶苦茶な計画も何とかなりそうかも!
──なんて、甘いことを思っていたこともありました……。
天才は作られるものでなく、天から与えられた才能を持って生まれたからこそ『天才』なのだ。
私は所詮、突然天才の能力が使えるようになっただけの凡人に過ぎない。
その凡人の私が主役である『天才魔術師デビュープロジェクト』は、今大きな壁にぶち当たっていた。
その壁の名は──。
『術式の構築』と『剣術』。
術式の構築とは、こういう魔法があったらいいな、というものを自分で術式を考えて作り出したり、既存の術式を組合わせたりして作っていくことなのだが、私はこの術式を作り出すという作業がものすごーく苦手なのだ。
なんと私には『聖魔の書』の呪いのお陰で、こういう魔法があったらいいなと考えた時点で、呪文が勝手に頭の中に浮かんでくるというとんでもない仕様が備わっている。
しかし、残念なことにその呪文の言語は古代魔法語。
術式が出来たところで、他人の前で使うことも出来ないし、自分で過程を考えてる訳ではないので、原理を説明するということも難しい。その上、その効果と同じ術式を現代魔法語を使って新たに自力で構築していこうにも、初心者の私には難易度が高過ぎて上手くいかない。
自分で使うのならば何の問題もない素晴らしい能力だが、魔法学校で優秀さが認められるような使い方はできていないのが現状だ。
剣術については、型や動きはそれなりに理解しているし、日々稽古をこなすだけの体力は、身体強化の魔法と治癒魔法でどうにかなっている。
しかし、いざ実践となると相手の予想外の動きに対して臨機応変に対応出来なくなってしまうのだ。
こういう問題が出てくる前までは、高い魔力さえあれば、何でも万能に出来ると思い込んでいただけに、自分の応用力とセンスの無さには、頭を抱える状態が続いている。
たぶんそういうものはコツさえ掴めれば、あっという間にどうにかなるのだろうと思うのだが、そのコツを掴む方法が皆目見当がつかない状態なのだ。
こういう感覚的な問題も、『聖魔の書』の呪いの力でどうにかならないものかと考えているのだが、どうにも上手くいかない。
ちょくちょく様子を見に来てくれるカイル様も最初は苦笑い程度で済んでいたものが、ここ最近は明らかに顔色が変わってきているのがわかるので、なんだか本当に申し訳ない気持ちにさせられている。
そんなある日。
八方塞がり状態でもがいている私のところに、王太子殿下からある知らせが届いた。
その内容を予め聞かされていたらしいカイル様は、複雑な表情をしている。
私はというと、善意という名の嫌がらせとしか思えない内容が記された手紙に、思わず叫び出しそうになっていた。
どうしてこういうことするかな!?
そう口に出して言えたらどんなにスッキリするだろう……。
『全く進歩のないキミのために、もう一人天才と名高い叔父上に特別講師をお願いしておいたよ!これからはもっと死ぬ気で頑張ってね~。』
私は不満を口に出せない代わりに、そう書き記されていた王太子殿下直々のありがたい手紙を、渾身の力で握りしめてしまったのだった。
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