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17.嫌な予感

 結局、その日の内に無罪放免とはならなかった私は、逃亡や裏工作を防ぐため、このままエセルバート公爵邸に留まることになってしまった。


 家に戻りたいのはやまやまだったのだが、家族に在らぬ疑いがかからないためには仕方がない。


 兄を見てわかるように私の家族には娘や妹可愛さに下手な庇いだてや口裏合わせをしようという甘い考えの人間はひとりもいないのだが、他人がどう見るのかということは別問題だ。



 王妃様は一旦話がついたところで、国王陛下と内密に事の次第を話し合う必要があるといって、急いで王宮へと戻られた。


 まさか『恋のおまじない』を使ったくらいで王様にまで話がいくことになるとは思ってもみなかっただけに、軽率な行動が重大な結果を招いてしまう可能性もあるのだということを、身を持って学習したかたちになってしまった。



 私の身元の証明と事情説明に立ち会っていた次兄のエリオットは、父や長兄にこの事を報告し、クレイストン伯爵家としての今後の対応を決めると言って、急いで邸へと戻っていった。


 明日の図書館での検証には次兄も立ち会うつもりらしいが、私にはその立ち会いの件よりも、これから行われる話し合いによる家の決定を聞かされることのほうが余程恐ろしい。


 図書館への出入り禁止とか言われたらどうしよう……。


 明日の検証で私の無実を証明することは当たり前の事として、家に戻った後に待ち受けている家族への対応を考えると頭が痛い。


 とりあえず明日は色んな意味で勝負の一日だ。



 そう考えてさっさとベッドに潜り込んだ私は、知らないお宅で緊張して眠れない、なんて殊勝なことはなく、あっという間に眠りに落ちたのだった。



 ◇◆◇◆



 翌日。


 私はものすごく不機嫌そうなカイル様と共に図書館へとやって来た。


 図書館から少し離れた場所で公爵家の馬車から降り、険悪な雰囲気のまま徒歩で目的地へと向かう。


 検証に立ち会う予定の次兄とは現地集合となっていたため、図書館前で合流することになっていたのだが──。



 ……誰?


 先に到着していたらしい兄は、独りではなかったのだ。


 隣にいるカイル様をチラリと見上げると、驚いたような表情をしている。


 ということは予定外の人ということか……。



 私は既に待っている二人からまだ離れた場所にいることをいいことに、失礼にならない程度に兄の隣に立っている若い男性を観察した。


 朱金の髪に藍色の瞳。


 近付いていくにつれ、その男性が随分と整った顔をしているのがわかった。そして思っていたよりも随分と若そうだということも。

 もしかしたら、歳は私とそんなに変わらないかもしれない。



 次兄と一緒に行動する私と変わらない歳の男性……?


 そう考えたところで、私は彼が何者であるかということを考えるのをやめた。


 ……嫌な予感しかしない。


 できることならこの予想が外れていてくれることを切に願うばかりなのだが……。



「やあ、カイル。なんか大変なことになってるんだって?」



 何故か笑いを堪えながら声を掛けてきた男性に、カイル様が無表情になった。



「……おはようございます。フェリクス殿下」



 まったく……私の予感はこんな時ばかりよく当たる。


 どうやら目の前にいるこのお方は、このベルク王国の王太子殿下で間違いないらしい。



 私の予想は大当たり。しかも王都の乙女の憧れであり、雲の上の存在であるはずの本物の王子様と会えたというのに、少しも嬉しい気持ちが沸いてこない。


 まあ、状況が状況だけに能天気に喜んでいたらおかしいのだが。



 王太子殿下は早くもげんなりしている私のほうに視線を向けると、とうとう笑いが堪えきれなくなったのか、私の顔を見て小さく吹き出した。


 失礼な。



「ごめん、ごめん。キミがロザリー?王族に仇なそうとした挙げ句、カイルと互角に渡り合おうだなんて無謀な真似をしたって聞いたからどんな子が来るかと思ったら、結構どころかすっごく普通だから面白くなっちゃって、つい」



 王太子殿下は一旦笑いを納めると、うんうんと頷きながら、無遠慮に私の全身を観察している。


 私は素知らぬ振りで王太子殿下に対して自己紹介をすることにした。



「お初に御目にかかります。クレイストン伯爵家の末娘で、そこにおりますエリオットの妹のロザリーでございます」



 公爵家が用意してくれた紺色のワンピースのスカート部分を軽く持ち上げ、淑女の礼をとる。


 気がそぞろになっているせいか、視線を下に落とした際に目に入った紺色を見て、つい余計なことを考えてしまった。



 そういえば、カイル様の髪の色って紺色だったよね。まさか意図的に合わせたとか言わないよね……?


 事情を知らない侍女達が変に余計な気を利かせたのではないかと考えてうんざりしてしまう。


 嫌な想像をしてしまったことで、笑顔がひきつってしまった感は否めないが、私はなんとか無難に王太子殿下への挨拶をこなした。


 しかし、王太子殿下は私の挨拶など全く興味がなかったらしく、ウンともスンとも言わないばかりか、ずっと何かを考え込んでいるようだった。



 ……なんだろう。この感じ。やっぱり嫌な予感しかしない。



「ねえ、本当にエリオットと血が繋がってる?全然似てないんだけど」



 生まれてこの方、飽きるほど言われてきた言葉を、今更こんなタイミングで王子様から言い出されるとは思わなかった。

 ため息を吐きそうになるのを必死に堪えながら、なんとか笑顔を作り出してみる。

 未熟者ゆえ、またしても多少ひきつってしまったのはご愛敬だと思ってもらいたい。



「一応、同じ父母のもとに生まれた兄妹で間違いございませんが」


「へぇー。そうなんだー」



 こんなに関心がなさそうな相槌、久しぶりに聞いた気がする。



 ああ、やっぱり……。最悪だ。嫌な予感しかしないのは気のせいなんかじゃないらしい。




お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、評価ポイント付けてくださった方、本当にありがとうございましたm(__)m

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