13.潔白の証明 その1
勝手に神扱いしていたエセルバート公爵が、私に在らぬ容疑を掛けている目の前の人物だとわかり、ただでさえ低かった私のテンションは底辺に達しようとしていた。
こうなったら一刻も早く身の潔白を証明して、この部屋を出たい。
本来なら一番身分の低い私がこの場で勝手に発言する権利はないのだが、形振り構ってなどいられなかった。
「わたくしの身元は兄によって証明されました。先程の発言からもわかるとおり、兄は身内にも厳しい人間です。わたくしが何者であるかということは最早疑う余地のない事だと思うのですが」
先程王妃様から席を薦められて私の隣に座った兄から鋭い視線が送られてきているのはわかってはいるが、ここで口を噤む訳にはいかない。
兄に詳しい事情を知られずに、夜会に戻ってデビュタントの仕切り直しをする。
もしかしたら今ならまだ間に合うかもしれない。
そう考えた私は必死だった。
「倒れていた所を助けていただいたことは感謝申し上げますが、これ以上謂れないことで拘束されるのは困ります。先程兄が申し上げたとおり、今日の夜会がわたくしのデビュタントなのです。どうか事情をお察し願えませんか?」
最初にやらかしたのは私のほうなのに今更何を言ってるのかと自分でもツッコミを入れたくなるほどの勝手な言い分ではあるが、今後の人生が掛かってるのだ。
王妃様が微妙な表情をしているのは見なかったことにしよう。
「……お前がロザリー・クレイストンであるということも、今日がデビュタントだということもわかった。しかし事が事だけに完全に容疑が晴れないうちは解放してやることは出来ない」
「そんな!」
「もし潔白が証明されたあかつきには、俺が責任を持ってお前のデビュタントをバックアップしてやるし、例え今日の事で不名誉な噂がたつようなことになったとしても、エセルバート公爵である俺とここにおられる王妃様の力で必ず何とかすると約束しよう」
「そうね。もちろんわたくしも協力させていただくわ。でも、わたくしが関わるからには普通では面白くないわ。そうねぇ。──カイル。貴方が責任を持ってエスコートして差し上げなさいな」
王妃様の提案を聞いたカイル様は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
──私はというと。
今後の保証が獲られたことよりも、カイル様が何気に私がここにいる理由をサラッと暴露してくれたことで、兄の雰囲気が益々冷たいものになったことのほうが重大な問題だ。
「エセルバート公爵。それで、この者に掛けられている容疑とは一体どのようなものなのでしょう?事の真偽はともかく、そのような容疑がかかることになった経緯によっては、お二方の手を煩わせる前にこちらのほうでその存在を抹消させていただきますのでどうぞご安心を」
少しも安心出来ない兄の言葉を聞いて、さすがに可哀想に思ってくれたのか、カイル様が眉を顰めている。
「その前に確認させてくれ。──ロザリーは魔力持ちか?」
「……いえ。そのような事実はございませんが」
兄の言葉で私に魔力が無いことが客観的にも証明された。
これでようやく解放される!
そう思った私が甘かったのか……?
カイル様は少しも納得していない様子だった。
「そのような質問をされるということは、魔法に纏わるなにかがあったということなのですね?そしてそこに愚妹がいて、エセルバート公爵が何かお疑いになる要素があったということでしょうか?」
察しの良い兄はカイル様の質問だけで話の核心をほぼ理解しているようだった。
「……さすが優秀と言われるエリオット・クレイストンだな」
「お褒めいただき光栄ですが、そうなった経緯まではさすがに想像出来ません。お話いただいても?」
カイル様がチラリと私のほうを見た。
話してもいいか?ということだろう。
再び絶対零度の視線が飛んでくることは間違いなさそうなので、出来れば兄には知られたくない。
おそらく私は懇願するような目でカイル様を見ていたのだと思う。
カイル様は物凄く困った表情をしていた。
すると、その隣でニコニコしながら話を聞いていた王妃様が新たな提案をしてきたのだ。
「だったら実際に確かめてみればいいのではなくて?」
どういう意味かわからずに、私とカイル様が同時に顔を見合わせる。
「だから。実際にしてもらったらいいと思うの」
「「え?」」
「『おまじない』」
「「は!?」」
室内に私とカイル様の声が同時に響き渡ったのだった。
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