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1.恋は盲目

よろしくお願い致します。

 女の子は恋をするときれいになるとか。

 女の子は誰でもお姫様になれるとか。


 そんな事は迷信だということがハッキリわかりました。



 恋は人としての正しい判断を狂わせるもの。



 ──そして、物語のようなお姫様は、選ばれた人間にしかなれないものだったのです。



 ◇◆◇◆



 目が眩むばかりに目映い豪奢な建物。

 流行りの装いを身を包み微笑み合うきらびやかな人達。


 ここは貴族が集まる社交場。


 私が今日いるこの場所は、いわゆる夜会とよばれるパーティーの会場だ。



 私の名前はロザリー・クレイストン。

 ベルク王国で伯爵位を持つ貴族の娘であり、今日デビュタントを迎える17歳の少女である。



 この日の為に特別に仕立てられたドレスを身に纏い、兄にエスコートされて社交界デビューの娘らしく少し恥じらいながら会場入りした私は、様々な方々と挨拶を交わし、無事にファーストダンスをこなすことで晴れて貴族社会の大人の仲間入り!


するはずだったのだが──。




 私が今いる場所。


 ──夜会を主催したとある公爵家の中庭の暗がりにある植え込みの陰。



 私の状況。


 ──植え込みの陰に隠れ、出来るだけ気配を殺しながらの隠密行動。



 植え込みの向こう側で睦み合う男女に見つからないようひたすら息を潜めながらも、初な乙女には少々刺激が強すぎる密かな逢瀬から目が離せないでいる。


 ……いわゆる出歯亀という状態だ。



 本来ならば今頃華やかな会場でデビュタントのファーストダンスを踊っているはずの私が、何故こんな真似をしているのか疑問に思う方もいるだろう。



 決して私が大人の秘め事に興味があった故の行動ではないことだけはハッキリ言っておく(ないわけじゃないが)。


 たまたまこの会場で、もう一度会いたいと願っていたある人物を偶然見かけた私が、自分の欲望に忠実に行動した結果がこういう状態を引き起こしただけなのだ。



 まあ、言い訳だけどね……。



 ここに至るまでの私の行動を説明すると。


 兄にエスコートされ会場入りしてすぐ、くだんの人物を発見。

 ↓

 ここで会えたのは運命かもしれないと舞い上がり、何も考えずに会場を出てフラフラとその人物の後に付いて行く。

 ↓

 そこはなんと男女の密会現場であり、あまりのショックで呆然としていたら、この場を立ち去るタイミングを完全に失ってしまう。

 ↓

 状況確認のためにやむを得ず覗き見をするはめになり、今に至るという訳だ。



 そして最悪な事に、今、植え込みの向こうで女性と睦み合っている人物こそが、私がわざわざ会場から追いかけてきた人物であり、──私の初恋の相手なのである。



 数ヵ月前偶然出会ったその人は、私が想いを告げようと決意したその日、一方的にもう会えないと言って私の前から去った私の想い人であり、泣く泣く別れたその日から夢にまで見るほど恋焦がれてきた人物でもあるのだ。



 彼は私の運命の人。


 私はそう信じて疑わなかった。



 とはいえ、そもそも普通の令嬢なら、どんな理由があるにせよ自分のデビュタントの日にこんな真似は絶対にしないだろう。


 貴族の子女にとってデビュタントというのは一生に一度の大事なイベントであり、ここでの成功が今後の人生を左右すると言われているほどの重大イベントなのだ。

 それを不意にするということは、貴族令嬢としての輝かしい未来を棒に振ることに他ならない。


 しかし今の私は自分の恋心に踊らされ、ここを訪れた本来の目的も、貴族の令嬢としての責務もキレイさっぱり忘れ、浅慮にも自分の心の赴くままに行動してしまったのである。



 その結果得たものは……。


 決定的な失恋。

 デビュタントの失敗。



 自分にとって、一生に一度のデビュタントよりも重要だと思えるほどの価値があると錯覚した故の行動が、結果全てを失わせるものに変わってしまったのだ。


 しかしその時の私は、まだその事に気付いていなかった。

 気付いていなかったというよりは、認めたくなかっただけかもしれない。


 恋は盲目。


 まさにそんな状態だ。



 それこそ周りが見えなくなるほどに冷静さを失っていた私が、この後、失恋など比じゃないほどの取り返しのつかない事態を引き起こしてしまうことになろうとは、想像もしていなかった。



 後悔先に立たず。


 私はこのありがたい言葉を後程たっぷりと身を持って思い知ることになったのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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