世界で一番気持ち悪いと、ふられる男の物語
ここは、とある諸島の、とある民家の中。俺の家だ。
その家の中で、俺はお気に入りの真っ白なソファに腰掛ける。対面のソファには、友人が腰掛ける。その友人に、声を掛ける。
「なぁジョニー、今日が何の日か知ってるか?」
「聖ヴァレンタイン....か」
「そう、バレンタイン....だ」
「俺達には無縁だな」
「それはどうかな」
「え?」
「俺、今日告白するんだよ!!」
「マジで!? お前が!?」
「マジだよ! 俺だよ!」
「だれだれ? 誰に告白するの?」
「同じアルバイト先のキャサリン!」
「....ほう」
「俺がアルバイトに入って一ヶ月経った頃、職場内で誰とも話せていない俺に、優しく声掛けてくれたんだ。その頃からずっと好きだった」
「まぁ、がんばれよ」
「いやいや、おいおい、ジョニーよ....。俺が今日何の為お前を呼んだと思ってやがる」
「何だよ、何で呼んだんだ?」
「....助けてくれぇぇ......か、かっこいい告白の仕方がわからんのだぁ....」
「なるほど」
「....まずその意中の女性に、履いてるパンツをチラつかせながら外へ呼び出す。そして、掛け声(毎日君を思いながらスムージーを飲んでるよ。そんな僕と付き合ってくれ!)と叫びながら、花束をプレゼントする。」
「マジでか? お前? それかっこいいか?」
「マジだよ! 俺だよ! いやこれこの国伝統の告白だぞ?!」
「いやぁ、知らなかったなぁ」
「ちなみに、その女性からの返事で、その女性本人が身に着けてる下着を貰うと、あなたが世界で一番気持ち悪いっていう意味の、断りになるよ」
「何だそれ」
「下着を貰った男性は、その日その下着を身に着けるのがこの国の伝統だ」
「世界一ひどい伝統だな」
「ていうか何で下着プレゼントなんだ」
「私になんか関わらず、彼女が欲しいのを諦めて、その下着を身に着け、ホモの男性を誘惑しろって意味じゃない?」
「そうかなぁ」
「まぁ、何れにせよ、がんばれよな」
「おお、ありがとう」
「そうだ、花束はもう持ってるか?」
「いや? ないよ」
「じゃあ花束、買いに行くか」
そして僕はジョニーと共に花束を買いに行った。
花屋さん。数多の花が所狭しと並んでいる。
なんだか、花が苦しそうにも見える。
そういえば告白に使うのはどの花なんだろう。
「なぁジョニー、どの花がいいんだ?」
「ああ、それは赤い薔薇の花束だな」
「そうか、サンキュー」
その花束を手に取り、レジへ向かった。
花束の会計中、ふと気付いたが、ジョニーも薔薇の花束をレジに持っていった。
「なぁ、ジョニー、お前も買うのかよ?」
「ああ、大切な人へのプレゼントさ」
(ジョニー、お前は隅に置けないぜ。それがお前の良いところ、だがな....)
会計を終え、店を出る。
「じゃあアルバイト行ってくるよ」
「おお、がんばれよ。いろいろな意味で」
「ああ、ありがとなジョニー。」
「終わったらお前の家で報告会な」
「わかってるよ、また後でな」
私はアルバイト先へ向かった。
そのアルバイト先で、キャサリンに告白した。
キャサリン!毎日君を思いながらスムージーを飲んでるよ。
そんな僕と付き合ってくれ!
付き合ってくれ。
付き合ってくれ....
アルバイトを終え、帰宅。
数多の戦を終え帰ってきた我が家に、待っていたのは最愛の妻ではなく、報告を待つムサ苦しい男友達。
「おかえり、どうだった?」
「ただいま。ってここはお前の家じゃないぜ? ジョニー」
「つれねぇな、でどうだった?」
「....下着、貰ったよ....」
「そいつぁ、失敗って事か」
「ああ、ダメだった」
「でもまだ決まった訳じゃあないぜ」
「決まってるだろ!?」
「別の意味で、下着を渡したのかもしれない」
「下着プレゼントに、違う意味なんかないだろ! 恋仲でも普通下着なんて渡さないんだぜ!」
「いや諦めるな! えーっと、そうだ! 他の人からの告白の可能性があるぞ!」
「それもあり得ないね。後1時間くらいでゲームオーバー、バレンタインも終わりだよ」
「いや、諦めるな! 時間はあるんだ。最期の時まで天命を待とうじゃないか」
「!! 」
「ああ、ありがとう」
ジョニーの熱心な言葉に驚き、感動した。
「....でもよ、ジョニー。俺には他の仲の良い女性なんていないから、他の人からの告白の可能性は絶望的だぜ」
「そして女性物の下着を着用している今、他の女性はおろか、殆どの人が俺に近寄らない」
「女物の下着着けてんのか!!??」
「ああ、貰ったやつ」
「そうか、ま、まぁ....酒でも飲もう」
「ああ、ありがとう」
「いいって」
「そういえば、海外ではバレンタインに、女性からプレゼントをするらしい」
「....へぇ、そうなのか」
「なんでも手作りチョコとかあげるんだってさ」
「へぇ、でも手作りのチョコか....手作りのチョコなんか見た事無いな」
「ほら、これこれ」
「ジョニーお前....!! チョコ貰ったの!?」
「やるよ」
「いやいらねーし、それは....違うだろ。仮にも人からの貰い物だろ?」
「いやこれ俺の手作り」
「え?」
「俺の手作りなら問題ないだろ、ほら食えよ」
「え?ああ....まぁ....じゃあいただきます」
「それと、今日のお礼」
「え?」
手渡されたのは........薔薇の花束だった。
そしてジョニーは、履いているボクサーパンツを俺にチラつかせていた。
「ジョニー....なんだよこれ」
「........毎日君を思いながらスムージーを飲んでるよ。そんな僕と付き合ってくれぇぇ!!!!」
「....は?」
「....女物の下着を着けて誘惑するお前が悪いんだ」
「....なるほどね」
「返事を....くれよ....」
「うん? じゃあこれお返しの、俺のパンツ」