3 現実(リアル)なんて… Ⅰ
続けて投稿です。
「マーベラス様が私に微笑んでくださったの!それで、今日も月光の君は綺麗だな、って!月光のようだ、って!」
同じようなことしか言えないのかよあの金髪野郎は。
「そうなのですか。あ、キャローレ様。」
「ん?」
「髪にクリームが。」
「あら!とって下さる?」
「かしこまりました。」
じゃねーよ!!お嬢ちゃん…もといキャローレ様の髪についたクリームを取る私。なんで異世界まで来てメイドをやらねばならんのだぁ!!つかクリーム位自分で取れ!!ゼェゼェ…。
「マイア?」
「…い、いえ、なんでもございません。…取れましたよ。どうぞお続け下さい。」
「それでね…。」
まあ、よくこんなに飽きずに喋れるよなあ。キャローレ様も。金髪野郎…もといマーベラス・ガイザー…うんたらかんたらはそんなにいいものなのか?キャローレ様のお話に適当に相槌を打ちつつ私は思考の海へと落ちていった。
因みに、完全に竹輪へと化した耳のせいで、私はキャローレ様の話を何も覚えていなかった。
「「今日もお疲れ様~。」」
同室で先輩メイドのステイラ姐さんとジュースを飲み、柿の種的なヤツとチョコレートを貪る。これは毎日の日課になっていた。ステイラ姐さんの名前は地元の言葉で流れ星という意味だそうだ。紺色の髪、金の目で美人なステイラ姐さんは確かに流れ星という名前にあっているな、と思った。
「ねえねえ、今日はどうだった?月光の君。」
「げ、月光の君って!毎回笑えるわぁ。
何も変わらずですかね?マーベラス様が、マーベラス様の、ばっかり。 夕焼けの君はどーですか?」
「夕焼けねぇ…。名前負けしてると思うのよね。アルアサーリ様。夕焼けって情熱的で強くて儚い感じがしない?」
「矛盾してますね。…まぁ、でも分からなくもないです。」
「…あんたのそういうとこ嫌いじゃない。
今日もアレグリア様に“なーにが喜びよ”とかシェーン様に“美しい?名前負けにも程があるわ”とか何とか。1人で言うもんだから聞いてるこっちが疲れるわー。本当に止めて欲しい。」
「いやいや、マーベラス様がーもなかなかですよ。そんなにあ…き…マーベラス…様はいいんですかねぇ。」
「さあ?好みじゃないもの。」
「私もです。ディーヴァ…様の方が好みです。」
「あら。恋の予感?」
「そんなことないですよー。」
「本当に~?」
「いい加減にもう寝なさい!!」
その日はメイド長の怒鳴り声を聞くまで話し込んでしまった。
翌朝。爆発した頭をせっせと直すステイラ姐さんを横目に私はまだぼーっとしていた。頭がまわらない。ギリギリに食堂へと着き、覚醒していない頭のせいで味のしない朝食を無理やり押し込むとステイラ姐さんに別れを告げてキャローレ様の元へ向かった。
「失礼しま…」
「…舞亜どうした?目が死んでるぞ。」
おい金髪野郎!普通に私の名前を呼ぶなあ!キャローレ様が固まってるじゃねーか!
「なんで後宮に?」
「なんでって、しょうがねぇだろ?コレも仕事の内だ。」
「あ、そう……ですか。」
「舞亜が敬語を使ってる…。気持ち悪いからヤメロ。」
駄目だこいつ。オンナゴコロを分かってない。
「キャローレ様。お召し物を。」
「は…い…。」
「舞亜、それが終わったら俺の執務室に来い。」
「はあ。」
「マーベラス様?」
「どうした、月光の君。」
「い、いえ何でもございません。…では。」
「ああ。」
キャローレ様はお風呂へと行ってしまった。追いかけようとする私を金髪野郎が止める。
「おい。仕事をさせろ。」
「舞亜がそんなことを言うようになるなんて!あははは!」
「なんで笑うんだよ。キャローレ様が泣いてるじゃねぇか。」
「キャローレ?ああ、月光の君、な。」
「女は道具?性欲処理のためだけ?おい、なんで名前を呼ばない?」
「ああ、そうか。まあいい。風呂は他のメイドに任せて、舞亜、お前は執務室に来い。」
これは!まさかまさかの!告白ってやつ?
な訳ねーよな。
てな訳で金髪野郎の執務室にいる。
「この国では異性の名前を呼ぶのは恋心を抱いていますっつー証なんだ。」
「は?それじゃあ。」
「大丈夫。舞亜を女として見ていない。」
「…」
少女漫画の主人公、よーく聞いてね。
そんな簡単に好きにはならねーし、なってくれねーんだよ!コレが現実だ!
ここまでお読み頂きありがとうございました。