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棋正宮奇譚〜饅頭の恨み〜  作者: ナナミ ヨシカ
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自業自得?

全く謝ろうとしない深海にまだぐちぐち言う彗月。



棋正宮内の食堂で夕食を終え、部屋に戻ってもなお、彗月は深海に饅頭を食べられた恨みをぐちぐちと言っていた。


一言謝れば許してやる気も起きるのに。


深海の聞き流す態度が彗月の怒りをさらに増長させているのだが。


大人ならけじめつけて謝れ、と彗月は枕を深海に投げつけた。


だか深海はその枕の方を見ずに、頭だけで避けて読んでいた本を閉じた。


ようやく話をちゃんとするようになったのかと、彗月は寝台に座り直した。


だが深海は戸棚から彼の予備の武器である刀の手入れ道具一式を取り出した。


それを寝台の傍にある台へ置き、刀の鞘を一気に払った。


「饅頭買うために部下に仕事押し付けて鍛錬サボるか普通」


と、半分に折った拭紙で刃を拭きながら嫌味まじりに言う。


「だって食べたかったんだもん!」


「もんって…戸棚に隠したお前の自業自得。これでこの話はおしまいな」


「ふざけるな!なんだその屁理屈!!」


饅頭の件はこれで終わりにする気など彗月には毛頭ない。


だがそれに加えてもう一つ、深海に対して気に入らないことがあった。


「ねえ、なんで刀なんか手入れしてるんだ?お前弓使いだろ」


本来深海の得意な武器は弓矢で、戦場においては弓兵隊を率い、前から突撃してくる敵を射抜いて陣を崩す役割を担っている。


敵の前線を崩し、混乱させたところへ彗月の率いる突撃部隊が斬りこむ。


そうして最前線で斬り合う彗月を弓で補助するのも深海の仕事のうちである。



なのに歩兵たちの話では、彼らに弓の指導をする傍ら、自らは刀の鍛錬をしていたのだと言っていた。


「苦手無くそうかと思ってな」

さび止めの丁子油をひき、その刀を鞘に収めた。


「苦手ねぇ…」


彗月は壁に立てかけられている島分の武器である偃月刀を振り返り、ポツリとつぶやいた。


「僕も今度、弓術やってみようかな…」


彗月は弓が苦手だ。もともと前線に立ってどんどん突っ込んでいくタイプなので、後ろから援護すること全般が苦手なのだ。


「やめておけ。お前は照準合わせもろくにできないんだから。味方も射抜きかねない」


「う」


痛いところを突かれ、傷ついたと言って寝台に寝そべる。


「後方支援は歩兵たちに任せればいいんだ。お前はお前にできることをすればいい」


階級は下でも年齢は上の深海が言うことはもっともだと思えた。


「そんなのわかってるさ」


だが苦手分野をそのままにしておくのは、戦士として、軍を預かる1人の将として不安だった。


「お前の補佐くらいできないでどうする、戦はお前1人でするものじゃないだろ」


彗月の不安を見透かしたように、やけに真剣に言う深海に驚き、こいつはいいやつなのかもと思いかけたが、饅頭の恨みはそれで晴れるわけではない。


こいつはいいやつだという考えにかぶりを振り、深海をじっとねめつけて呟いた。


「饅頭…」


「またその話かよ。俺はもう寝るぞ」


うんざりだというと、深海は燭台に息を吹きかけ、さっさと部屋の明かりを消した。

どんだけ饅頭にこだわってたんだろう…と、十数年前の私が何を考えていたのかわかりません…

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