異界の天使
翼がないけれど浮いている「天使」
そんな天使がこの僕の前に現れた。
天使が上空から見下ろしながら、虚ろな目で僕を見ていた。
夕焼けが、その天使の虚ろさを、より大きく見せている。
「新たな、世界に行きませんか」
17年間、生きていて、毎日が退屈で仕方がない僕。
そんな、僕にとって、その誘いは断る理由が無かった。
「行きたい。行きます。」
そう、天使に言ってしまった。
天使は僕をみて微笑んだ。その微笑みには清らかな感情しか無いように感じた。
そして、天使が青白い光に包まれたあと、自分は知らない間に、寝ていた。
何分、何時間、ほど寝ていたのだろうか。
僕は目をこすり、周りを見る。
「・・・っ?」
そこには、白い壁と床の鉄格子の牢屋が何個も何個もあった。右も左も白い牢屋が並んでいた。
そして牢屋の中には、個室・・・たぶんトイレだろう。そして、牢屋の中に一人づつ人が入っていた。
左右の牢屋の中にいる人が自分を見ている。
牢屋の上、牢屋を番号で区別しているのだろうか、牢屋の上に何やら「数字」と‐(ハイフン)でできた番号が書いてあった。
僕がいる右側の牢屋の番号は・・・「3-233-786」
じっと周りを見ている間にアナウンスがなった。
「食事の時間です。食事の時間です。二級国民のみなさんは食事を食べてください」
そして突然、すべての牢屋に、白色のテーブルが現れ、その上に中にゲル状のものが入っている皿があり、その近くにスプーンのようなものがあった。
牢屋の中にいる人は、そのゲル状のものをスプーンのようなもので口にの中に流していった。
「これが・・・新たな世界?なにこれ?」
「そうです、新たな世界です」
後ろには天使がいた。
振り返り、天使に対して不安をぶつけるようにこう言った。
「ここは一体何なんだ、そしてあなたは一体なにものなんだ」
「ここは、新たな世界です。そして私は世界の一部です」
それは答えになっていない、言葉だった。
「どういうことだ」
「私は・・・簡単に説明しましょう。私は物理法則の一つです。」
言ってる意味が理解できなかった。
「わ、わからない」
「あなた方が住む世界で石が地球に向かって落ちるように、私は存在します。この周りのあなた方がいう牢屋はこの世界が始まったときから存在していました。」
「さっき、アラームが鳴りましたよね、それもこの世界の法則の一つです。誰かがこのアラームを鳴らしたわけではありません。この世界の摂理なのです」
いろいろ、説明されている。確かにわかることもあったが、アラームから出てくる言葉、その言葉のひとつに疑問点がわいた。
二級国民?二級国民といったよな、それはどういう意味なんだろうか。
二級国民がいるということは、一級国民もいるはずだ。
「なあ、二級国民はこの牢屋に囲まれている人のことで間違いないよな」
僕は天使に尋ねた。聞きたいことがたくさんある。
そして、文句も言いたい、この世界は僕がいた世界よりも退屈ではないか。
「そうです。間違いありません」
天使は淡々と答えた。
「じゃあ、一級国民はこの牢屋に囲まれていない人のことをいうのか、もし居るならば合わせてくれ」
天使は一瞬、黙ったあと。
「そうです。一級国民とはこの牢屋に囲まれていない人のことを言います。合わせてあげましょう、ついてきてください」
500メートル進んだ後、左に曲がり1500mほど進んだ。そこにはエレベーターがあった。
エレベーターに乗る。このエレベーターも白かった。というか鉄格子と天使と人、以外すべてが白かった。
天使はそのエレベーターを操作して101階を行先に指定した。
重力が一瞬大きくなったことを感じる。
しかし、突然、エレベーターが落ちたり、急に上がったりと不安定だった。
「・・・」
エレベーターが上昇している間、黙っていた。
エレベーターの上には一体、何があるのだろうか
緊張しながらも、期待しながら、待ってた。
エレベーターが101階につき、扉が開く。
そう、エレベーターの扉が少ししか開いてないために、外がまだ見れないときに、気づいた。
錆びた鉄のような匂い。そう、そんな匂いが、鼻孔を貫いた。
誰しも、この匂いが何の匂いか、すぐに理解できるだろう。
しかし、僕はこの匂いは一体、何の匂いなのか理解できなかった。いや、理解できたが、否定した。
しかし、エレベーターが開き終わったときには、否定すらできなくなった。
赤・・・、紅・・・・、朱・・・・
そこには、白色の床、白いの壁、白いの天井はすでに赤く染められていた。
もう、否定できない。これは・・・血だ。
周りには、瓦礫のようなものがり、それらも赤かった。
「ここで、一体、何が起きたんだよっ!」
僕は天使に問いを投げかける。
天使は無表情でその質問の答えを返した。
「戦争です」
戦争?いや何の戦争なんだ。
「詳しく、説明してくれ」
そして、天使は説明を始めた。
ここは、各フロワーの支配権をめぐり戦いあうフロワーであるということ。
ある、一定以上の人数を殺せばフロワーの支配権が手に入るということ。
人数に関しては、伝えられないということ。
そして、僕が天使に連れてこられたフロワーは3階であり、そこは、まだ誰にも支配されていないフロワーだということ。
他にも、誰にも支配されていないフロワーが60階近くあるということ。
フロワーの支配というのは、そこにある物理法則さえ支配できる権利であるということ。
「つまり、ここで戦ってる人たちは、そのフロワーの支配権が欲しくて戦っているということか?」
「その通りです。」
「ちょっとまて、エレベーターに乗っているときに急に上昇したり、落下したりしていたのは」
「単純に、各フロワーごとに重力が違うだけです。エレベーターが不安定ではなく、法則が不安定なのです。」
この世界はまさに退屈しない世界だった。
フロワーの支配権を得られれば、自分が飽きないように物理法則を変え永久に満足し続けることができる。
その事が、自分の頭に浮かんだ。
しかし、それに対して否定する言葉も浮かんでくるものである。
いやいや、そんな、フロワーの支配権を手に入れるために人を殺すだろ・・・。嘘だろ・・・
「ご満足いただけましたか」
「満足って、何を満足しろって言うんだ!」
大きな声で、怒鳴り散らしていた。それは、この状況で最もしてはいけない事の一つだった。
しかし、僕はそれに気づかなかった。
「すみません。でも異世界に行きたいと喋ったのはあなたです。」
その言葉が、僕の怒りを沸騰させた。
その怒りは、周りを注意する能力を失わせた。
「ふざけるな!戻せ!」
そう、叫んだとたん。目の前から矢が飛んできた。
天使が、その飛んでいる弓矢を手でつかんだ。
そのことに対して、僕は唖然とした。
飛んでいる弓を手で掴む?そんな、そんなことできるのか?
「ちっ、人形現象め」
瓦礫から隠れた、そう叫び逃げていった。
「人形現象?人形現象って何のことだ」
「私のことを指す言葉です。私の名前は決まっていないけれど、人形現象と呼ぶ人が多いです。」
他にも質問が浮かんできた。
「武器って、どうやって入手するんだ?」
「武器は、101階のランダムな場所に設置されています。武器の種類は ハリセンや弓矢、クロスボウ、拳銃、機関銃、戦車、ロケットランチャーや天然痘までいろとりどりです。」
でも、自分にとって武器の入手方法はどうでもよかった。
「帰る方法は」
「帰れません」
・・・え?そう天使は帰れないといったのだ。
「では、私はこれで」
「ちょっとまて、ずっとついて来るんじゃないのか」
「私は、単に地球にいる人生が辛くて苦しい人に、この場所まで連れてくる、それが私という現象です。それでは一級国民、さようなら」
こうして、天使は自分の目の前から消えてしまった。
僕のやること、それはこの世界で生き残るため必要な武器を探すことだった。
足音に注意して、見つからないように武器を探す。
「食料はどうするんだ。・・・聞いとけば良かった」
赤色の床を歩きながら、まだ乾いていない血があった。
この、近くに僕を殺そうとする存在がいるかもしれない、すぐにここから離れよう。
離れようとしたとき、足元に瓦礫があることに気づかず
「い・・痛いたたたた」
転んでしまった。
すぐに、瓦礫を見つけてそこに隠れる。
隠れようとした、瓦礫は隠れるのには不十分なほどに小さく心配で、しかも360度完全に隠れきれない形をしていた。
しかし、足音が誰かの足音が響かなかったため安心して、瓦礫から出よとしたとき、
「おりゃぁー」
子供の声だ、そして、その声の場所を見ると8歳ぐらいの男の子が日本刀のような刀を持って、自分を切ろうとしていた。
すぐに回避するため右へと飛んだ。
「くっ、なんてことだ。」
まさか、こんなに小さな子供がこんな戦争に参加しているなんて。
この子に対して、圧倒的な体格差、運動神経がある、相手が日本刀を持っていても、明らかに勝てる戦いだ。
しかし、刃物という恐怖から体が硬直してしまい、体が思うように動かない。
「よけるなぁああ!」
「ひぃい」
今度は、左側に飛び恐ろしい、刀の攻撃を回避する。
なんだ、なんだ、これ僕がこの日本刀を持った少年に殺される。
嘘だ、いやだ、死にたくない、死にたくない、死にたくなーい
生きたい、生きたい、生きたい、生きたいよ
頭が、恐怖で満たされてると・・・体が勝手に動いていた。
すぐに近くにある、瓦礫を持ち、すぐに少年の頭に向けて投げていた。
その瓦礫が少年の頭部に直撃、即死かそれに類する何かだろう、そんなことが判断できる状況だったのに、もう一度、瓦礫を持って少年に向けて再度投げた。
それが二回だけでは止まらず、投げた、投げた、投げた。
挙句の果てには、投げることに疲れ果てていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
今まで、投げることに夢中で気づかなかった。現実を直視してしまった。
そこには、僕が殺した少年の死体があった。
「僕が、僕が、殺したんじゃない」
意味不明だった。
「僕が投げた瓦礫に勝手に当たり、勝手に死んだんだ。だから僕が殺したんじゃない」
誰に、投げかけているのか不明な言葉だった。
僕は、少年が持っていた、日本刀を持った。
「護身用、だから、いいよね」
殺した、相手にそう質問を投げた。もちろん、返事は帰ってこなかった。
僕は、考えた。いかにして生き残るか、そして瓦礫を使った要塞を作ろうと思った。
僕は、周囲の瓦礫を集め、高さ2mの壁、で中の広さが2×2メートルの大きさの要塞を作ろうとした。
瓦礫は、山のようにつもるが、壁のようにはならなかった。
女性の金切り声が遠くから聞こえてきた。
「こんな、異世界だ・・・なんでもありなんだよな。」
っとため息をつきながら、呟いた。
脳裏にさっきの少年の死体が浮かぶ。
「うぐ」
体の気持ちが悪くなった。
いかにして生き残るか、新たな発想が生まれた。
もし戦車があるとしたら、操縦できなくても、中では安全に暮らせる。
こうして、戦車を見つけるため歩き始めた。
瓦礫をかき分けながら、歩き続けた。
そして戦車では無かったが、弩を見つけた。
クロスボウは使いこなすのに、弓より練習が必要のない武器だ。
同時に矢も落ちていた。たぶん、矢が落ちていることは偶然でもなくこの世界のシステムなんだろう。
そして、クロスボウを引っ張ったら。
非常に大きな音が発生した。どうやらこれは防犯ベルにくっついていたみたいで、クロスボウを取ろうとすると防犯ベルが鳴るという仕組み担っていた。
しまった、これは罠だったか。
そう思い、全速力で駆け出した。
しかし、遅かった。
銃声が響く・・・
どうやら一発目は自分に当たらなかった。
もし、弾丸に当たってしまったら、生きていても痛みで逃げれなくなってしまい、天国逝きだろう。
その恐怖から、血中のアドレナリンがドバドバと分泌され、手足が異常な速度で動く。
この状態なら逃げれるかもしれない。
しかし、現実とは巧くできているものだ。いくら人間が早くても弾丸よりは早くは走れない、たとえそれが、オリンピック選手でも。
もう一発、銃声が響く。
弾丸が足のももに食い込む。
痛み、激痛、苦痛。
太ももしか痛くないはずなのに、なぜか全身が動けなくなる。
しかし、頭は異様な速度で思考し、どこから撃っているか、わかった。
「あ・・・、あいつ・・・」
けれども、それは遅かったかもしれない。
銃声が響いた。
それは人間において血液を送る重要な臓器、それが停止したら数分も生きてはいけない臓器・・・
心臓を貫いた。
目の前に見えた光景は、赤い床に、さらに赤色を塗る、いびつな光景。
でも、ここでは、それが当たり前。
意識が遠ざかるの感じを感じて。
やはり、退屈な世界で暮らしていた方が良かった。
こんな、絶望しかない世界よりは・・・
僕はそんなことを最後の時に思ったのだった。
この作品を最後まで読んでくれて感謝します。
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