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命の恩人の頼み事 Ⅰ

過去を見ていた。


教室の後ろの方で、数人の男子と女子が集まってなにかをしている。

いや、『なにか』ではない。なにをしているのかはわかっている。


いじめだ。


毎日、教師がいなくなったら開始されるいじめ。

蹴られたり、殴られたり、教室の外に連れていかれれば精神的なものまでさせられているのも見たことがある。

でも、そのいじめを止める者はいない。

誰も関わりたくないのだ。

怯えたようにその光景を見ている女子、ニヤニヤと傍観者を気取る男子、次の授業まで図書室で借りた本を読む僕、そんな僕を――一応クラス委員長の僕を頼るような目で見てくる生徒。

誰も自分から動こうとしない。

教師が来ないか見張っている生徒の呼び掛けでこの時間のいじめは終わる。

いつもと変わらない光景。毎時間ごとに繰り返される光景。

各自自分の席に戻り授業の用意をする。

僕も本から顔を上げ、なんとなく隣を見る。いじめられてボロボロな生徒を見る。

やっぱり、その生徒もいつもと変わらない表情で、泣いているわけでも、怒っているわけでも、悔しそうなわけでもない、全てをそういうものだと受け入れているそんな表情。

その表情を僕はいつも見ている。

兄様に殴られようが、他人に利用されようが、そういうものだと受け入れ、流している僕と同じ表情。

だから僕と同じ表情を持つそいつに興味を持った。

だから僕と同じ表情を持つ友広に興味を持ってしまった。


ミ○ミ○ミ○ミ○ミ○ミ○ミ○


目を覚ますと、ベッドの上に寝かされていた。

学校の保健室にあるような、簡易ベッド。

身体を見れば、包帯などが巻かれていて、治療されている。血塗れだった制服は着替えさせられており、白い病衣を着せられていた。


「ああ、生きているのか」


呟き、部屋を見渡す。


必要最低限の物だけが揃えられた、質素で殺風景な部屋。

人間が住んでいるのだろうか。

別に驚きはしないけど、やはりこの世界にも人間はいるのだろう。

しかし、この部屋には僕以外見当たらない。

頭の上にもリーラはいない。


ここで、この部屋を出ていくか、部屋の主が戻ってくるのを待つかを考える。

少し考えて、善意で助けたわけではないという可能性、言葉が通じない可能性、そもそも人間ではないという可能性にたどり着き、部屋を出ることにする。

靴を履こうとしたけど、そこに靴はなく木製のスリッパのようなものが置いてあったのでそれを履く。


「あ、制服」


ベッドの横に、畳まれた制服があった。

完全ではないけれど血も大分落ちて目立たない。

すぐそこに靴もあった。


「この服じゃ、ちょっと動き辛いし着替えようかな」


病衣を脱ぐ。先にズボンをはき、上を着るとき包帯を外すかどうか考えていると、心臓の辺りに刺青みたいなモノがあった。もちろん彫った記憶はない。

米印のような、見方によれば天使のようなマーク。

そのマークについて考えて、フリーズしているとドアが開く。


「ん?」「あっ」


青い髪、青い瞳の僕より上に見える少女、いや女性。軽めな布製の服装と、それに似合わない自身と同じ大きさの、不恰好な大剣を背負っている。

長い髪をひとつにまとめて背中に流し、つり目気味の目を丸くしている。

僕を見て顔を赤くし、口を開いている間抜けな顔でも美しいと思ってしまう美少女だった。


「あっ、あっ……」


叫ばれるのだろうか。

第一この女は誰だろう。助けてくれた人だろうか、言葉は通じるのだろうか、僕はどう動けばいいのだろうか。


「……ノックは、してほしかったなぁ」


なんとなく思いついた言葉はそれだった。

すると彼女は強く奥歯を噛みしめ、ちょっと声を低くしてこう言った。


「少し、話が……聞きたいことがある」


良かった。どうやら言葉は通じるらしい。


ミ○ミ○ミ○ミ○ミ○ミ○ミ○


彼女、シグレス・トーリナルさんは僕を助けてくれた人らしい。


「ありがとうございました」


とりあえず頭を下げておく。


「い、いや!頭を上げてくれ!」


両手を忙しなく揺らし、あたふたとしているトーリナルさん。感謝されることに慣れていないのか、男と喋ることに慣れていないのか……。


「わ、私からも謝らなくてはいけないことがある。不可抗力ではあるが……神印を勝手に見てしまった。すまない」


頭を下げられる。

でも、下げられても困る。なにを言っているのかも、なにを謝られているのかもわからないのだから。


「神印?でしたっけ?なんですかそれ」


「はあ?」


なにを言っているんだこいつ、みたいな目で見られた。


「えーと、ほら、僕記憶が混濁してまして、右も左もわからないんですよ」


「ではウヅキという名前は偽名か?」


「いえ、そこは覚えています。他は何も覚えていません」


「あー、まあいい、神印というのはだな……」


信じていなさそうだけど説明される。

神印とは先程の刺青みたいなモノのことらしい。

この世界の人間には身体のどこかに神印があり、神印によって加護は違うらしい。

大抵は魔法と身体能力の上昇が基本で、たまに魔法だけとか身体強化だけとかそういうのもあるらしい。

しかも、特定の神印を持つ者しか入れない国や、物凄く仲の悪い神印派閥などがあり、忌み嫌われる神印や逆に全ての者から羨望される神印もあるらしい。

故に、勝手に神印を見ることはあまりよろしくない行為らしい。


「あー別に気にしませんよ。正直よくわかりませんし」


「……一応、私は学園を首席で卒業しているんだが」


「自慢ですか?」


ちなみに彼女の歳は19らしい。僕より三つ上だ。


「違う!まあ、とりあえず記憶力には自信があるんだが、ウヅキの神印は見たことがなかった。神の名前を教えてもらえないか?」


「すみません、なにを言っているのかさっぱりわかりません。本当に」


「あ、あー、そうだったな覚えてないのか」


その話はそこで終わり、この世界のことを色々聞かせてもらった。


「ではまずギルドで冒険者になって生活することにします。ありがとうございました。なにかできることがあればなにか言ってくだ――」


「では早速頼みたい事があるのだが……」


トーリナルさんはその言葉を待っていたと言わんばかりに、にこりと笑って話し出した。


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