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森の瀕死の逃走劇 Ⅰ

迫ってくる棍棒が、なぜかゆっくりとスローモーションで迫ってくるのに、動くこともできず吹き飛ばされる。

とんでもない速度で木に叩きつけられ、大量の血が口から吐き出される。

その血が剣にかかったのか、半透明になる。


それを見て、勝つことを諦める。

隙を見つけて、逃げる方法を考える。


でも正直、イノシシの特技を使っても逃げられなかった奴から逃げられるとは思えない。


棍棒を直に受けた左腕は動かない。

なんの強化もされていない体もボロボロだ。次の攻撃を避けることすらままならないだろう。


「キュー!」


リーラの葉っぱが伸びて、僕の傷を覆うように巻きつく。治療か、止血か、どちらでも嬉しい。


ドシドシと、巨人が近付いてくるのがわかる。走ってはいない。歩いている。

僕はおぼつかない足取りで、逃げる。

逃げていると、緑色のオオカミの群れに遭遇する。


(終わった……)


そう思うと同時にやっぱり、オオカミは仲間意識が高いんだと、どうでもいいことを思ってしまう。


大きな足音と、頭の上のリーラの叫ぶような鳴き声と、オオカミ達が僕の後ろを恐れながら見ていることで、すぐ後ろに巨人がいるのがわかる。

僕は振り向かない。

前に、必死に前だけを向いて逃げる。

オオカミ達は僕には目もくれないで巨人の方へと飛びかかる。

後ろで、オオカミの悲鳴と巨人の雄叫びが聞こえてくる。そして目の前に吹き飛ばされたのであろうオオカミの無惨な死体が落ちている。


それでも逃げる。前へ前へ。

運良くオオカミ達が作ってくれた時間を無駄にせず、前へ進む。


しばらくすると、オオカミの悲鳴は聞こえなくなった。僕が逃げることに成功したのか、それともオオカミ達が全滅したのか……。


痛みに耐えきれず、木を背中に、休む。

しばらく休んでいたけど、巨人がくる気配はない。

リーラの葉っぱのお陰か、痛みは大体引いた。

リーラは、葉っぱを元に戻す。


「ゲームならこんな森、初期装備で挑むところじゃないよなぁ」


友広に借りたゲームを思い出しながら言う。

あの巨人に似ていたモンスターは、オーガというのがいた。そう呼ぶことにする。


ハンカチのオオカミの血を短剣につけ、歩き始める。


そういえばイノシシの結晶を落としたけど、気にしない。


「……方向はあってるはず。あってるはず。あってるはず……」


唱えるように呟きながら進む。

三十分くらい歩いたけれど、一向に森を抜け出せる気がしない。

同じところをぐるぐる回っているような気もしなくはない。


たまに出てくるモンスター達と戦闘しつつ進む。


「……水が欲しい」


いくら木で影ができているとしても、歩き続ければそれなりに喉が渇く。


「……水の音……川?」


願望からくる幻聴かもしれないけれど、その音を頼りに進む。

だんだんと大きく聞こえる音に足がはやくなる。

ガサガサと茂みをこえると……


オーガさんと再エンカウントした。


川があり、水を飲んでいるのかこちらには気付いていない。

逃げようとしたけど、やめる。逃げ切れる可能性は低いから。

オーガの血を吸って、戦う方が生き残る可能性が高いと判断したから。

オオカミの力を信じて、オーガの背中に剣を振りかぶって刺すが、突き刺さらなかった。やはり硬い。


背中に異変を感じたオーガは川から頭を上げ、手を払う。

もちろん、その頃には距離を取っていたため当たることはない。

棍棒はオオカミ達との戦いで失ったのか、近くにない。リーチが短くなったぶん安全だ。

オーガは拳を振り上げ殴ってくる。

早いけど、よく見れば避けれる。でも、いくら強化されているとはいえ、イノシシの力で耐えられなかった攻撃をオオカミの力で耐えるのは難しいだろう。当たれば終わりだ。

でも、こちらの攻撃が入れば……血を出して、吸収することさえできれば、互角にはなる気がする。

避ける、避ける、避ける。

避けているうちに疲れが溜まる。もとから溜まっていた疲れもあって、動きが鈍くなっているのがわかる。このままでは負ける……でも、だからといってこちらの攻撃は、オーガの頑丈な体には傷をつけるすらできない。何も、できない。

見極めをミスして、拳を喰らう。

もう今日数度目の吹き飛びを体験する。

拳は棍棒より威力が弱いのか、体が動かなくなるほどではない。骨は数本折れているだろうけれど……


立ち上がろうとして、やめる。勝てないことを悟る。

森の奥からもう一体、オーガがやって来たのが見えた。

血に染まった棍棒を持っている。

今来たオーガがさっき僕が逃げていた奴だろう。

一体でもこの有り様なのに、増えたらもう無理だ。友広風に言うなら無理ゲーだ。勝てっこない。


オーガは近付いてくる。

頭の上でリーラが「キュー!キュー!」と騒いでいる。

僕は動かない。動いたところでどうしようもないから。

そして、また死ぬのかーとか思って、ウゲツとの約束を守れないことに少し罪悪感を感じた。


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