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半透明の剣の効果

ポケットの中に手を入れ、その中に入っている生徒手帳を取り出す。


手帳とそのカバーの間に挟んでいたマッチと側薬を使って火を点けて、集めた枝や枯れ葉を燃やす。

そして血抜きしたイノシシの肉を焼く。


「食べれるよね?一応イノシシだし。象みたいな大きな牙があるけど」


肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。


美味しそうではあるけど……


「……リーラさん、どうぞお先に」


「キュ?」


火が嫌いなのか、少し離れた木の下で眠っているリーラの前にイノシシの肉を差し出す。

特に嫌がる様子もなく食べる。


「まあ、別にお腹すいてないし君にあげよう」


食べる気が起きないのでリーラに焼いた肉を全部あげる。


「あーあ、マッチ一本無駄にしたなぁ。……で、次は、これか」


イノシシの心臓の代わりにあった、拳くらいの大きさの結晶を見る。トランプのダイアのようなひし形のそれは、色のついたガラスみたいな見た目のくせに、落としても踏んでも割れないことは判っている。


「ま、先が尖ってるし武器に使える……かな?うん」


結晶を地面に置いて、今度は血のついた焦げ茶色の短剣を見る。


「さっきは血を吸収したように見えたんだけど……飽和してるのか、それとも……」


木でぶつけて血が出ている頭の血を、剣に少しつける。

剣は血を吸収して、色は半透明に変わる、というより戻る。

それに伴って力が少し抜けた感じがする。


今度はリーラの血で試したかったけど、剣を向けて近付いたらどこかへ逃げられてしまった。


「………………」


一人になった僕は仕方がないので、もう一度イノシシの血を剣に吸収させる。

やはり半透明から焦げ茶色に変わる。力も増えた気がする。


剣で、木を切りつける。切って切って切る。

何度か切ると木は倒れた。

やっぱり、力は上がっている。


「ふぅー……ん?」


剣の刀身の先端から半分くらい、半透明になっている。

もう一度イノシシの血をつけると補充されるように先端まで焦げ茶色になる。


「時間で減るのか、行動で減るのかも確かめないと……」


休憩として、数十分休む。


剣の色は、木を切っていた時より減ってはいなかったけど、確かにほんの少しだけ半透明に戻っていた。


「両方、か。あとはどれくらい力が上がるのかとかも知りたいな。いや、まずその前に森を出ないと……あ、その前に確かめておかないといけないことがあった」


直線上に、木が生えていない方を向き、思い切り地面を蹴る。

瞬間、景色が後ろに過ぎていった。


「うっ……」


覚悟はしていたけど、声を出さずにはいられなかった。

止まって剣の色を見ると、かなり減っていた。


「大体、五回が限界かな?」


特技。僕はそう呼ぶことにした。

イノシシなら走ることが特技なので、それを使えば色の減りも早い、そう思うことで納得した。


来た道を歩いて戻る。

イノシシの血を剣に補充し、ハンカチにも血を染み込ませ、火を消して歩く。ポケットに入らない結晶は手に持っている。


しばらく歩くと緑色のオオカミ達に出会った。

グルルル……と唸るオオカミの数は三匹。

イノシシの血で強くなってはいるけれど、自分がどこまで強いのか、オオカミがとれほど強いのかがわからないので、逃げることにした。


しかし木の多い森でイノシシの特技を簡単に使えず、だからといって野生のオオカミから逃げられるはずもなく、戦闘を余儀なくされた。


しかし案外戦ってみると、そう苦しいものではなかった。三匹のうち、一匹を運良く殺すと、他の二匹は森の奥へ逃げていった。

オオカミは仲間意識が強いものと思っていたけどそうではなかったのか、一匹狼という言葉もあるし実は群れない生き物なのかもしれない、と初めて生で見たオオカミにそういう感想を持った。


そしてこの戦いでわかったことがある。

剣は、完全に半透明でなければ他の血を吸収しないということだ。まあ、僕の血は例外としてではあるけれど。


なので一度僕の血で元に戻して、オオカミの血をつける。

確かに力は上がった感じがしたけど、イノシシの方が上がっている気がするので、さらに戻してハンカチの血をつける。

するとハンカチの血は綺麗に全部吸われてしまったので、オオカミの血をハンカチにつけておいた。


オオカミの心臓部分を見ると、やはりガラスのようなひし形の結晶があったので取っておく。体の大きさが違うので当たり前かもしれないけれど、イノシシのより少し小さかった。

オオカミのはポケットに入ったので入れる。


「……」


「?」


何か聞こえた?


「ーー!」


やはり何か聞こえる。


「キュー!」


それが聞こえたとき、目の前を葉っぱの塊が飛んでいった。


「リーラ!?」


そう思ってさっき逃げていったペットの名前を呼ぶ。

やはりそれはリーラだったらしく、空中旋回して僕の頭の上に乗る。


「キュー!キュー!」


「ちょっと、耳元であまり叫ばな、い、で……えええぇぇぇぇ!?」


ドンドンという地鳴りとともに、リーラの飛んできた方向から三、四メートルはありそうな人型の巨体が近付いてくる。


明らかな敵意を持って近付いてくるソレから半ば無意識にイノシシの特技を発動させ直線上に逃げる。

しかし、すぐ近くに木が生えており、思い切りそれにぶつかる。

痛みに悶えている間にも足音は近付いてきて、三回特技を使用すると足音はなくなった。


ふぅ、とため息をついて振り向くと……


巨体が、木で作られた不細工な棍棒を僕に向かって振りかぶっていた。

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