娘の脱ぎ散らかした制服着て学校行ったら娘の代わりにガッツリ青春脱ぎ散らかしちゃった人妻の話
人妻お母さんなら娘の制服着るのは当然だよなぁ?
「ただいまー。バイト行ってきま~す」
「もうっ。あの子ったらいつも脱ぎっぱなしで……」
まるで嵐が過ぎ去った後のように。
制服シャツやらスカートやら靴下やらが脱衣所に脱ぎ捨てられている光景に私は大きな溜息を漏らす。
「せめて靴下は洗濯カゴに入れて欲しいわ。シャツだってそのまま放置したらシワになっちゃうし……」
そもそも、シワになったら怒るのは娘の方だ。
いっそ夜までこのままにしてやろうかとも思ったが、これもキレイ好きの性分。そういうわけにもいかず――。
「いったい誰に似たのかしらね」
と、結局片づけてしまうのはやはり甘いのだろう。
母親として、女として、時にはガツンと言わなければいけない時もあるのだが、ついついタイミングを逃してしまうのだ。
「そう言えば……」
ブレザーを拾い上げつつ、ふと思う。
「私の頃はセーラー服だったから、ブレザーって憧れてたのよね」
セーラー服はブレザーに比べ、アレンジが難しい。
一方、カーディガンを合わせたりパーカーを下に着たり、色々と着飾れるのはブレザーの特権だ。
「いいなァ。私も着てみたかったなァ」
時間が緩やかに流れる土曜日の昼下がり。
夫は仕事で夜遅くまで帰ってこないし、娘もバイト。
(ごくり……)
つまり、夜まで誰の目もない。
「そうよね。脱ぎっぱなしにしている方が悪いわよね」
最初は、ほんの仕返しのつもりだった。
脱いだら脱ぎっぱなしのプチ反抗期真っ最中の娘の制服の埃をはたいて、ハンガーにかけて、シャツとスカートにアイロンをかけて、部屋まで運んであげているのか? と言う積もり積もったプチ怒りを込めて。
「ぉっ、ぉっ、ぉぉっ? 胸も、腰回りもさすがにキツい……わね」
しかし、憧れで着れるほど制服は甘くない。
十数年の年月で変化した体型が、容赦なく現実を突きつける。
「でも、もうちょっとで……入る……ん゛ん゛っ、くぅぅぅ……ぉ゛ほぉぉぉおおおおッッッ!!!!!!」
悪戦苦闘の末、ようやく身体に収まる制服一式。
「ふーっ! ふーっ! ハフーッ……!! ぜ、ぜ~~~んぶ、奥まで入ったぁ……」
さっそく鏡の前でファッションショーを行うと、案の定、目を背けたくなるほどに上半身も下半身もムッチムチのパッツパツ。
「スカートの丈、短い……。これじゃ、屈んだだけで見えちゃうじゃない」
初めこそ、羞恥心の方が勝っていた。
しかしそこは昔取った杵柄。モデル時代に培ったセクシーポーズを取るにつれ高揚感が高まっていき、実は案外サマになっていることに気付く。
「うん。私もまだ現役でいけそうね!」
その場でターンをすると、スカートのプリーツが美しくなびいて光の粉が舞う。それが決定打となった。
「よし! 学校に行こう!」
いつも娘がやっているように、片足立ちでローファーを履く。これができれば、私もまだまだ若いと言うこと。
缶バッジやぬいぐるみでデコレートされたスクールバッグを肩にかけ、いざ出発!
「行ってきます!」
今となってはもっぱら見送る側になったが、かつては見送られていた側。
べつだん返事は返ってこないが、玄関に響く大きな声に気持ちが数倍若返ったような気がした。
◇◆◇
初夏の土曜日の午後。雲ひとつないフレッシュな快晴。
新しい服を着て外出するかのような、新鮮な気持ちで歩む道のり。空気もいつもより美味しい。
思わず走りだしそうな気分。いや、すでに両足はリズムよく大きな歩幅を刻んでいた。
「いけない。もうこんな時間!」
スキップはいつしかダッシュへ。電車に遅刻をしてしまうと言う設定付きで。
急いで改札を抜け、駆け込み乗車はお止めくださいと駅員から咎められながらも、何とか滑り込みセーフ。
きっと寝坊常習犯の娘もこんな感じのドタバタな朝を送っているのだろうなと言う想像も含めて、私はひとり微笑みながら座席に収まり深呼吸。
気持ちいい疲労感が包み込む中、移りゆく車窓をゆったりと眺めていた。
それから三駅。
高校のある最寄り駅につくと、そこからまた五分ほど歩く。履き始めこそ違和感があったローファーの感覚が、もう気にならなくなっていた。
校舎に近づくにつれ、運動部の熱い掛け声や吹奏楽部の勇ましい演奏が聞こえてくる。
校門は開いたまま。
まるで歓迎しているかのようなシンフォニーと、制服を着ていると言う漠然とした安心感が、私の背中を押した。
(ああ、懐かしいな。この感覚……)
懐かしい匂いに惹かれ、私は三階建ての校舎に入る。
土曜日の放課後と言うこともあり、校内はシンと静まり返っていた。
(上履き……かかと履き潰してる。あの子、とことんだらしないわね)
下駄箱で娘の上履きに履き替え、いざ校内散策の開始だ。
校舎は大きく分けて二棟。一般教室棟と、体育館を含む特別教室棟。
かつて授業参観で訪れた記憶を頼りに、私は一般教室棟の二階へとリズムよく駆け上がる。
そして、娘の教室へと差し掛かろうとしたそのとき――。
「篠崎!」
「ドッキーーーン!」
突如、背後から私を呼びかける野太い声に全身がこわばる。
確かに私は篠崎だけど、どうして私の苗字を知っている人がいるんだろう?
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは大柄の男子。
彼はたしか、娘のクラスメイトのサッカー部主将、小峰大地くん――。
「今日こそは返事を聞かせてもらうぞ」
「返事って、なんの……」
「とぼけるなよ!」
「きゃっ!?」
戸惑う私を襲うのは、大地からの唐突な壁ドン。
「告白のだよ」
「告白ぅぅ!?」
「もしかして、好きなやついるの?」
「え、ええと。それ以前に私は既婚者……」
「キコンシャ? なにそれ機関車の親戚?」
「ほら、指輪だって――ってアレーー!? ない、指輪がないっ!」
「なにひとりで騒いでんだよ。かれこれ一週間は保留されてて、正直メシは三食しか喉を通らないし、睡眠不足で夜しか寝れないんだぞ」
「そ、それって普通じゃない?」
「頼むからはっきり言ってくれ。ダメならダメで、俺だって諦めがつくんだ」
「だ、だからね。たぶんこれは娘の恋愛問題であって、私の恋愛問題じゃないから、私が応える資格がないって言うか――」
「どういう意味だ?」
「あの、その……。あっ、UFO!!!!!!!!」
「なんだって!!!??? どこ? UFOどこ?」
「この隙に!」
大地が油断している間に、私は彼のわきの下を通り抜けて近場の女子トイレへと前転受け身で逃げ込んだ。
「はぁっ、はぁっ、ん゛はぁっ……。もうっ、いったいどういうことなの。いきなり告白されるなんて。そもそも私、茜じゃない――」
ひとまず心を落ち着かせ、洗面台で手を洗い、乱れた前髪を直そうと鏡を見たそのとき――。
「え、待って私……」
驚愕の事実が判明する。
髪の毛が黒髪ロングから茶髪ショートボブへ。身体つきも細く、顔も小さくハリがあって瑞々しい姿へと変貌を遂げていた。
「茜になってる……!!!!!! すンンっっっご、肌プリップリ!!!! ん゛おおおおお、唇ツヤッツヤ!!!!」
いったいいつから娘になっていたのだろうか?
状況が整理できず、ただただ混乱する私。
しかし、このままここで鏡を眺め続けていてもしょうがない。
外に大地がいないことを確認しつつ、私は恐る恐る廊下へ出ることにしたのだが――。
「あーっ、救世主見つけたァ!! 探してたんだよぉ!」
「へ? めしあ?」
大地とは別の、甲高い声の主に絡まれることになる。
「試合に負けそうなの!」
目の前にいたのは、バスケットボールユニフォームを着た見知らぬ女子。
「お願い。タイム取ってるからスリーポイント決めて逆転して!」
「あ、あの。私バスケなんてやったことないんだけど」
「今さらなにとぼけてるのよ。何度も危機を救ってくれた神様仏様茜様じゃない」
「ひょええええええええ!」
逃げる間もなく手を掴まれてしまった私は、そのまま体育館に強制連行されバスケットボールを投げ渡される。
「選手交代! 田中アウト、救世主篠崎イン」
「ちょ、ちょっと私本当に無理……」
「い~い? 残り時間は一秒。スリーポイントを決めたらウチのチームの勝ちだから。くれぐれも頼むわよ」
頼むと念を押されても、あんな遠いところの、しかも小さいゴールに入れるなんて、それこそ針の穴を通すようなコントロールが必要――。
バスケットボールを持つ両手が震える。
私の動揺をよそに、周りでは先ほどよりも熱気が高まり、救世主コールも強くなる。
(ううっ。視線が痛い。みんな、そんな期待を孕む目で見つめないで……イっちゃうっ! で、でもしょうがないわね。周りが私を救世主と呼ぶのなら、なるしかない。なりきるしかない救世主に!)
匙を投げる。いや、バスケットボールを投げるッ!
「ぇへえぃっ」
固い決心とは裏腹の、運動オンチ特有の情けないボイスと全身全霊へっぴり腰スローイング。
バスケットボールは皆の期待と私の願いを込めながら、ゆっくりと大きな山なり軌道を描き、そして――。
スパッ!
見事、針の穴を通す。
(は、入った?)
時間が止まる。一秒ないし二秒。
そして静かに動き出す。
「しゅんごぉほおおい~おおいいお!!!!」
「ほっげぇぇぇぇぇぇぷ!!!!」
「台本と違うでごわす!!!!」
一番驚いているのは私自身だ。
さらに味方チームのみならず、敵チームからも称賛の雨あられ。
「ノールックとかやっぱり篠崎さんバスケの才能あるって。むしろ天才?」
「いやいや、怖くて目を背けてただけだから」
「投げ方だって個性的なポーズだし、憧れるわぁ」
「いえいえ、運動オンチなだけだから」
「これを機に、我がバスケ部へようこそ!」
「もうこりごりだから!」
味方チームが勝利の余韻に浸る中、私は反復横跳びを駆使して体育館から脱出した。
「あ、こらっ。私はあきらめないからね! 絶対に篠崎さんを振り向かせてみせるよ!!」
「誤解されるような言い方しないでっ」
命からがら体育館を抜け出すと、喉はもうカラカラ。
「お水、お水っ。ごくっ、ごくっ、んぐッ、ん゛ん゛っ……ぷはーーーーっ! 五臓六腑に染み渡るゥゥ……って、イヤだわ。これじゃお酒を飲んだいつもの私じゃない」
羞恥心に苛まれながら口元をぬぐっていると――、
「こらぁ、篠崎ぃぃ!」
「んぼへあ?」
大地やバスケ女子とはまったく別の、ねちっこい声の主に絡まれることになる。
「なんだァその短すぎるスカートはぁ。そんなカッコウで水を飲んだら下着が見えて校則痴女違反だろうがッ! いいか、オレは清楚系が好きなんだ。一生徒としてあるべき姿に生徒指導よろしく清楚指導してやる!」
「ひゃああああ! 赤いジャージを着たホモサピエンスが竹刀片手にこっちに向かってくる~ゥ~ゥん゛だ!!??」
「あアん!? 誰が動物園を抜け出したマウンテンゴリラの堀山だってぇぇ?」
「言ってない! ゴリラなんて言ってないから!」
「教師に暴言を吐くようなやつは清楚化だ。粛清して清楚化女子に調教だ!」
「らめっ、らめぇ゛ぇ゛ぇへへっっっ! が、学校の人間がこぞって私に求婚してくるしッ! でもごめんなさい、私には愛する夫がいるんだしッ!」
「この期に及んでギャル語使うんじゃねぇ!」
「マジついてくるのやめろし!」
もともと体力には自信がない方。
おまけに、たった今バスケで全身を酷使したばかりの状態異常、筋肉痛が絶賛発動中。
(はぁっ、はぁっ。おそらくこのゴリラは体育教師で脳筋。逃げてもいずれ追いつかれて清楚化させられちゃううううぅぅ゛ううにゅッ!)
だらしない茜にはいい薬になるとは思うが、今の私は茜であり、茜ではない。
だから、頑張る。呼吸がつらくて、目に汗が入って、足がガクガクだけど、とにかく迷路のような校舎内をドリフトして、ジャンプして、時にはロッククライミングして距離を離すしかない。
しかし悲しいかな。ガス欠のようだ。
(も、もう限界……)
近づく下品な笑み。迫るクロックスの足音。忍び寄る竹刀で手のひらを叩く乾いた音。
「ぐふふ。清楚系JK。清楚系JK……!」
きっと捕まったらあのぶっとい竹刀でお尻ペンペンされてしまうのだろう。
不意に蘇るドMの本性。滾る穢れた血。疼く子宮。実は酷いことされるのが好きなんて、娘の知らない真実を娘の身体で暴かれてしまうなんて、前代未聞のレッツ・ア・パラレル不謹慎ワールド!
「あはふわ~~~あひゃっぃゃああああ」
不意に足腰に力が入らなくなり、床ペロしそうになったそのとき――。
「こっちこっち」
ラブコメの神はまだ見捨てていなかった。
なんと目の前の教室の扉からスーッと手が伸び、こちらを手招きしているではないか。
一瞬幽霊かと思ったが、どこかで聞いたことのある声に私は助かったと言わんばかりに教室内にヘッドスライディング。
「奥に隠れてて。ゴリ山の相手は慣れてるから」
「う、うん」
彼女は、家によくお泊り会でやってくる、茜のクラスメイトで親友の河島薫子ちゃんだ。
器量がよくて頭もよい、爪の垢を煎じて娘に飲ませたいほどの世話焼き良妻系女子。
「もう大丈夫だよ」
数分後、薫子は優しく声をかけてくれる。
堀山の気配がないことを察するに、うまくやり過ごしてくれたのだろう。
「あ、ありがとう薫子」
「ん。そう言えばあんた、今日バイトだったんじゃ? 先に帰ったって聞いてたけど」
「いや、その、忘れ物を取りにね。バイトも、休みにしてもらっちゃった」
「そう……。だったらちょっと協力プレイしてよ。約束してたでしょ」
「きょうりょくぷれい?」
「告白。大地への」
「ええええ!?」
その大地に、つい先ほど告白されてしまった私がいるんだけど……。
(いや、私は茜じゃないし、厳密には私が告白されたわけじゃないけど、今は私が茜だし。ううむ)
自分でも何を言っているのか分からなくなっている。
状況を整理すると、薫子は大地のことが好きで、大地は茜のことが好き。で、茜は誰が好き?
娘から色恋沙汰の話は聞いたことがないから細かいことは分からない。でも、要するにこれが――。
(青春ってやつなんだわ!)
津波のように押し寄せる甘酸っぱい感情。と同時に、罪悪感も沸き上がる。
「で、でも私が出て行ったら余計に話がややこしいことになりそうだよ」
「えー、なんで? 茜がいるから心強いんじゃん」
「う……」
「ね?」
「わ、分かったわ。協力はする。でもね、告白は自分自身の戦いなの。だから私は遠くで見守るだけ。いい?」
「茜……。あんた、いつもアホっぽいのにどうしていきなりカッコイイこと言ってんのよ」
「誰がアンポンタンだーーーーーい!!!!」
「あっはははっは! 言ってないし! ああ、自分自身の戦いか……なんか気持ちの整理がついた気がする。当たって砕けろってね」
「砕けたら困るよ」
「冗談だって」
「頑張って」
「ん」
頑張って。
考えてみれば、随分と無責任な言葉だ。
でも、今はそれ以上の言葉が出てこない。
娘なら……もしも茜なら薫子になんて声をかけるのだろう――?
◇◆◇
薫子が目尻に涙を浮かべながら戻ってくるのを見て、私はすべてを察した。
「ダメ、だった。好きな人がいるんだって」
「そう……」
「で、相手は誰なのって聞いたけど、相手に迷惑をかけるから教えられないって。ああっ、ああいう紳士的なところに惚れたんだろうなァ……」
「う、うん。そうだね……」
「茜。ありがとね。結果は上手くいかなかったけど、あんたが背中を押してくれたから最後まで前を見て戦うことができたわ」
「薫子……」
「あー、とにかくスッキリした。ずっとモヤモヤしてて、正直ご飯は三食しか喉を通らなかったし、睡眠不足で夜しか寝れなかったんだよ」
「そ、それって普通じゃない?」
「よぉし。週末は久しぶりにドカ食い気絶部しようっと。それじゃまた来週ね、茜!」
初めこそ涙目だった薫子が、すっかり笑顔に。
やはり若い子は立ち直りが早い。あの様子なら翌日にはケロッとしてそうだ。
「さてと、私もお腹が空いたしそろそろ帰ろうかな」
不意に、心地よい風が頬を通り抜けていく。
儚くも美しい、グラウンドの片隅から西日が当たるハチミツ色の校舎をしっかりと目に焼き付けつつ――私は学校を後にするのであった。
◇◆◇
「ただいまー。バイト行ってきま~す」
「もうっ。あの子ったらいつも脱ぎっぱなしで……」
まるで嵐が過ぎ去った後のように。
制服シャツやらスカートやら靴下やらが脱衣所に脱ぎ捨てられている光景に私は大きな溜息を漏らす。
「ま、しょうがないわね。毎日あれほど忙しく青春してるんだもの。家の中では少しは大目に見てあげないと」
だらしないのを許したわけではない。
ただ、悩みひとつなさそうな娘が、娘なりの苦労を抱えているのを知ることができたから――。
「うふふっ、でも本当にいいの? 脱ぎ散らかしたままで……」
ブレザーを拾い上げた私は小悪魔のような笑みを浮かべる。
時間が緩やかに流れる土曜日の昼下がり。
夫は仕事で夜遅くまで帰ってこないし、娘もバイト。
「ちゃんと片づけないと、私がまた茜の青春を脱ぎ散らかしちゃうわよ?」
こうして、篠崎葵は再び篠崎茜となって、うたかたの青春を謳歌しちゃうのである。
娘の代わりに人妻お母さんがイベントフラグ回収・実行する話を作りたくて書きました。
人妻だけど娘の同級生と恋愛してもいいよね!
その後、娘とはだいぶもめましたとさ。




