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瞬速の悪役令嬢

作者: 丸三角
掲載日:2026/02/16

悪役令嬢もの大好き、なので頑張って書いてみました

シャンデリア煌めく王城のホール、人々のざわめきと王宮楽団による優雅な調べが流れている。

今年は王太子とその婚約者、側近候補の子息達のデビュタントが重なり、例年にない華やかな夜会が開かれていた。


本日の主役、王太子ロベルト・バーブル。傲慢さが顔に出ているので、イケメンだが映像化すると絶対意地悪顔で表現される顔立ちの金髪碧眼王子様である。

王太子の横には婚約者であるエリザベス・サンドリアン公爵令嬢が....もう一度言おうエリザベス・サンドリアン公爵令嬢が立っている…のではなく、ピンクブロンドのアプリコット・カントン男爵令嬢が腕にぶら下がっている。結局、立ってない。ぶら下がるって、男爵令嬢、足腰弱いのか?

一応王太子はスタンバっているが、役者がまだ足りない。

ロベルトは、苛立たしげに自分の婚約者の登場を待ち構えていた。


「一体、いつになったらエリザベスはやってくるのだ。デビュタントだぞ。欠席する様な事はないはずだ。」


「同感です。この場に遅れるとはロベルト様の婚約者としての自覚がないのでしょうか。全く王太子妃として相応しくない。可憐なアプリコットを虐げ、会わせる顔がないのでしょうね。悪役令嬢めが。」


いやいや、あなたがエスコートもせず別の女性をぶら下げているのが原因では、と諌めてくれる側近も居らず、何なら王太子と一緒になって公爵令嬢を非難している。悪役令嬢って罵倒に使う言葉だっけ?

それこそ全く似た者同士の主従だ。うん、ざまあフラグがビンビンに立ってる。


「遅い、遅すぎる。これでは夜会が終わってしまうではないか。」


そんなに来て欲しいなら婚約者としてエスコートしてくれば良かったのに。

ロベルトの苛立ちがピークになったその時、「サンドリアン公爵令嬢のご入場」という声と共に扉が開かれた。


艶やかなプラチナブロンドを結い上げたエリザベスが一人凛と背筋を伸ばし、美しい淑女の礼をとった。


「待ちかn」


誤字ではない。ロベルトが叫ぼうとしたその瞬間、エリザベスは礼をとった前傾姿勢から瞬時にロベルトの懐に飛び込み、彼の鳩尾を打って意識を奪った。

白目を向いて崩れ落ちるロベルトの手を引きあげ、反対側にぶら下がっている男爵令嬢の首の後ろに手刀を落とす。更に後ろに控えていた側近二人には発言する余地も与えず、倒れたロベルトの肩を足場に顔面を回し蹴りして制圧した。

エリザベスの背後に影のように数名の公爵家のその手の者が続き、崩れ落ちた四名を回収。エリザベスは背後を確認もせずに登場した扉の反対側の扉から控えの間に向かった。振り向かないのは後ろの手の者を信頼している証拠だ。

この間、約5秒、常人には公爵令嬢が王太子に向かって行った様な…あれ、扉の前にいたよね、え、いない??と、多分何が起きてたか分からない内に控えの間へ関係者を退場させる事が出来た訳である。

不敬罪と指摘できる間も無かった。まぁ、一部の動体視力が良く、エリザベスが何をしたか見えた人間の背後には、手の者が貼り付いて、アレだ、見なかったことにした方がいいよと、物理的なお願いをして事なきを得た。エリザベスも凄いが手の者が優秀なのは流石、公爵家だ。


ーー


さて、テンプレofテンプレ、エリザベスは転生者である。

エリザベス、6歳、王太子ロベルトと婚約者としての初顔合わせのお茶会で前世を思い出した。

前世は日本という国のブラック企業勤務のOL、残業続きで唯一の楽しみは無料のWeb小説を読む事、記憶は定かではないが過労死か深夜帰宅時のトラックドン死からの転生らしい。

そんな前世で読んだWeb小説「断罪された悪役令嬢は絶対ざまあを成功させます」、略して「断ざま」の断罪され、復讐を遂げる主人公、エリザベスである事に気がついたのは、ロベルトの暴言からだった。


「おい、デカ女。婚約者にしてやるからには、お前は俺の家来だ。何でも言うこと聞けよ。」


王家の一人息子として甘やかされて育ったロベルトは、当時自分より背が高いエリザベスに、幼稚な方法でマウントを取ろうとした。実際はプラチナブロンドの妖精姫にのぼせ上がっていた訳だが、それを隠そうとするばかりに、より強い態度に出た。

公爵家の令嬢として大切に育てられ、善意と優しさに包まれていたエリザベスは、その暴言に前世を思い出す程のショックを受け、数十秒の頭痛からその場で気を失った。

挨拶もままらならい完全に失敗の初顔合わせだったが、まだ子供同士、結局政治的施策が優先され、婚約は決まってしまった。でないと物語は成立しないしね。


さて、前世持ちのエリザベスは、今後の死活問題として必死に物語を思い出した。

その小説、最終的にはハッピーエンドだが、物語の前半は、一方的な冤罪で断罪され、国を追われた純粋培養の公爵令嬢が、国境沿いの森で盗賊に襲われからの奴隷商人経由で娼館落ちした後、酸いも甘いも噛み分け手段を選ばず大逆転する物語だ。

復讐物のカタルシスを味わわせる為に、敵役として王太子はざまあされても当然、いや陰惨な復讐されても納得と思わせる救いようもないクズだし、エリザベスは人相と人格が変わる程の悲惨な目にあう。

悲惨、そう具体的にここで書くと青少年の規制に引っかかる様なとんでもない目に会うのだ。

前世はアラサーOLなのでR18は余裕でクリアして読んだ物語だが、今世はまだ6歳、キッズ規制適用なお子様には刺激が強過ぎる内容だ。しかも自分が体験するなんて絶対に拒否、いや受け入れられる人間がいたらお会いしたいところだ。


婚約者になった王太子ロベルトは将来クズになりそうな傲慢な子供だった。何も手を打たなければ確実に小説通りになるだろう。そしてエリザベスは考えた。

考えて、考えて、考えて、2〜3週間位は部屋に引きこもる程考えた。

そんな中で出した答えは、転生あるあるの婚約者との関係改善は王太子に依存することになりリスクが高いという事。やはり人を変えるより先ず自分からという前世の格言的な言葉を元に、人に頼らず自分を変えることの方が確実であると結論づけた。

前世は長女、家族からは名前ではなく“お姉ちゃん“と呼ばれていた長子特有の、人に頼るのが苦手な所が影響してしまった結論でもある。

取り敢えず、婚約破棄、冤罪、盗賊襲撃からの回避の為に、自分を鍛えることに特化することにした。

それに意図して人を変える成功例は洗脳ともいうし、結局そのほうがハードルが高い。

そんな結論に至ったのはいいが、鍛えるって何をどうするの?魔術使いでも聖女でもない、普通の女の子であるエリザベスはそこで一旦行き詰まった。


ーー

ロベルトとの交流会で、エリザベスは毎回その傲慢な態度に振り回された。

自分が一番になる為に、努力せず他者の所為にし、自分より優秀な者は権威で貶めるか、排除する小者ロベルト。自己鍛練を人生の指針とするエリザベスとは真逆である。

更にどん底から逆転出来る主人公エリザベスは、ポテンシャルが高く、あらゆる習い事の結果がロベルトより秀でていた。

勉強の話をすれば、人を見下す高慢な女、日常の他愛ない話をすれば、中身のない話しか出来ない馬鹿女と罵倒する。足りない頭で考えるマウント作戦に、少しでも反論すれば酷い癇癪を起し手に負えない。

エリザベスは小説の流れをひしひしと感じ、疲弊していった。


そんなある日、気晴らしにとお忍びで町歩きしていると、柄の悪い人に絡まれた。

すわ前倒しで奴隷商人登場か、と思った所でフードを被ったマント姿の人物に助けられた。

その護衛騎士でもない、謎肉ならぬ謎人物にエリザベスは公爵家の影だと直感した。公爵家の令嬢なら護衛を撒いても、そういうのいる筈だからと。

影、つまり諜報員イコールあらゆる肉体強化のスーパーエリートとみたエリザベスは、この謎人物に師事すれば未来の災厄回避になる、と思い込んだら全力投球だ。


「弟子にして下さい。」

「はあ?」

「お願いします。どうか弟子に、弟子にして下さい。他に宛がないのです。どうかっ、で、でしに、どぅえしにしてくだしゃいぃぃ。ぐずっ。おねがいしますぅ。えぐっ、えっ、えっ、ひっ、ぐげぇ、ごぼっ」


貴族の常識や元アラサーの良識を取っ払って、全力で縋り付き泣き叫び、終いにえずきながら弟子にして欲しいと訴えた。もう他に手立てはない、追い詰められたエリザベス、7歳、婚約から1年、命の訴えである。


ーー

町中で護衛対象の少女にギャン泣きで縋り付かれたアンラッキーな影の名はアルバート、家名はない。

あまりのギャン泣きに周囲の目を気にして、その場を納めようと弟子にすることに頷いてしまった。

だが、影の自分にたどり着ける筈はないと、高を括っていた。そう、そういうところが彼の残念な所、つまり脇が甘い。

なりふり構わず泣き叫んだエリザベスは、それで終わりにする様な普通の子供ではなかった。中はアラサーなんで。

すぐさま父親である公爵へ、お強請りという名の根回しをしていた。

影ってそう簡単に辿れないから影の筈、筈なのだが、既に町中でギャン泣きし、大人の見栄など振り切ったエリザベス、7歳児のラブリー容姿をフル活用する事にした。ターゲットはこの世で一番この魅力に抗えない男、父親(公爵)、楽勝である。


「お父様、お願いがあります。」


プラチナブロンドの妖精姫が大きな瞳を潤ませ縋ってくる、しかも娘が…、高齢でできた末娘であるエリザベスに元々激甘な父は、あっさりチートおねだり攻撃で落とされた。駄目な時はギャン泣き攻撃も辞さない覚悟はあったが速オチであった。

早速父親は当主権限を行使し、影への弟子入りをお稽古事感覚で指示した。当主権限、そんな所に使っちゃだめ、と止めてくれる人はいない…

王国の四大公爵家の1つサンドリアン公爵家の当主は、表ではやり手、娘と同じプラチナブロンドのイケおじ、その容姿から絶対凍土の宰相として恐れられていた。

その真の姿は「ベスのお願いは、パパ何だって叶えちゃうよ。」という、鼻の下伸び切った絶対糖度増し増しの親バカである。

親バカでも当主、そんな当主からの指令を断れない影達は、承諾したアルバートが引き受けるべきと、満場一致で彼に押し付けた。


アルバートは10代にも30代とも見える年齢不詳の容姿、ダークブラウンの髪、榛色の瞳を持つ印象が薄い特徴のない事が特徴の青年だ。

これまでは公爵家の庭師として控えていた。そう、正に、御庭番。

お嬢様の気まぐれによるお稽古事は直ぐに飽きるだろう、と軽い気持ちで教え始めたアルバートだったが、命を賭けたエリザベスの本気と書いてマジな姿勢に段々絆されていった。

一つ教えると、もっと、もっととより高度な技を求める意欲的なエリザベスの姿勢に、アルバートが真摯に答える。そんな真面目な二人のお稽古事が本格的な訓練へ切り替わるのは比較的早い段階からだった。

ギャン泣き事件から9年、16歳のデビュタントを控える頃には、公爵令嬢の皮を被った優秀な影が誕生していた。


一方、影の訓練だけではなく高位貴族令嬢としての教育を受ける為、自然に小物王太子ロベルトと関わる時間は無くなっていった。

結局ロベルトは、努力せず、おべっか使いの類友な小物に囲まれた我儘な小説通りのクズに成長し、あざと可愛い男爵令嬢にのめり込むようになった。

対して小説と違うのは、エリザベスの影としての能力。その能力の中でも動作と攻撃が速さから「瞬速の妖精姫」という二つ名で呼ばれるまでに成長した。

小物王太子ロベルトとそのお友達アプリコットが自作自演のイジメ演出の為に、エリザベスに近づこうとしても掠るどころか姿を捉えることすら出来ない。

冤罪作りは難航した。小物が考えるような作戦は、イジメ冤罪等々どんな計画も全てお見通し。デビュタントの夜会で断罪と婚約破棄を行い、公の場で辱めるというお約束というか、え、本当?(苦笑)な計画も事前に入手していた。

結局、相手を変えることは出来なかったが、自分を変えることはできた訳だ。その点は褒めてあげたいぞ、エリザベス。

計画入手後、他にもやりようがあったのではと思うが、物理攻撃で制圧したい欲求が抑えられず、宣言前に物理制圧、秘密裏に婚約の白紙撤回に成功した。長年の鬱積からスカッとしたかったんだろうね。

そして冒頭に戻る…


ーーー

婚約破棄情報入手後、即、父親に相談したところ、娘ファーストの公爵は激昂のあまり、物理的に国家転覆をしそうな所を何とか引き留め、婚約の白紙撤回に収めることができた。何というか、すぐ物理的手段に出がちなのは血筋である。

()()穏便な白紙撤回策ではあるが、ロベルトの病気を理由とし、彼を廃太子の上で療養という名の塔幽閉に追い込んだ。絶対凍土の宰相の力は伊達ではない。

一人息子をまともに教育できなかった現王は、それなりにポンコツだったので、宰相の剛腕の前に自分の保身の為に息子を切り捨てたのだった。

そして新王太子は次の王位継承権保持者、先王弟の嫡男であるプレスト公爵となった。

ちなみにその新王太子にエリザベスの姉が嫁いでいるので、サンドリアン公爵家の娘は王太子妃であることに変わりはない。腐っても鯛、甘々親バカでもやり手な宰相、表の顔はやっぱり凄い。


ーー

婚約が白紙撤回された後のエリザベスだが、次期公爵である年の離れた兄も、ラブリー妖精姫攻撃でキッチリ落としていた。絶対糖度の父と共に「ベスは一生家にいていいよ。」と言わせるほどに。

そんな激甘家族に囲まれながら、影としての能力を更に磨き、組織の指導者にまで成長、最終的には公爵家私設機関だったものを国家的組織まで育て上げた。

そして国家組織の長として働くその隣にはアルバートが常に控えていた。

仲間の中では密かに⚪︎リコンと言われているが、一応大人になったエリザベスと釣り合いはとれた見た目ではある。あの時、街中で縋りつかれ、ギャン泣きされた縁が一生続いちゃったという事だ。


end

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娘溺愛のパパなのに6歳の時からの王子の暴言報告を影から聞いてないのはおかしいし、これだけ馬鹿王子なら色々やらかしてそうなのでもっと早くに白紙撤回させてないのもおかしいって思ったんですが、やはり物語の強…
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