表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/43

かわいい幼なじみ 5


 教室。

 自分のクラス。

 喧騒。室内を飛び交うノイズ。

 二限目までの授業は、つつがなく終わった。

 女の子になった今でも、勉強は問題ないみたい。授業中に先生に指されたときも、わりとスラスラ答えられたから。

 オレ、もともと勉強は嫌いじゃないからね。

 テストの成績だけで言えば、上から数えるほうが早かったり。自慢じゃないけど。

 座学の授業なら、性別とか関係ないし。いつも通り正解を答えてさえいれば、怪しまれることもなく穏便に過ごせる。周りから「安定の満点解答だな」って思ってもらえる。ぜんぜん自慢じゃないけどね?

 高校って勉強デキる人が評価され始めるタイミングだよね。

 小学校だと『足の速さ』が評価基準になって、中学校だと『ちょいワル』がモテやすくなる。進学するにつれてモテ基準が変わる感じあるよね。あ、個人の感想です。

 どちらにも共通してるのは、ヒエラルキー上位になれるか。

 ちょいワルも足の速さも、カースト上位のシンボル。どっちもスクカー上位の人が持つ特質だったりするよね。地位が高いオスに心惹かれるのは、メスの生存戦略の一つなんだって。

 高校では『勉強』がカースト上位のシンボルに変わる。高校に入ったとたんに成績が評価され始めるのは、ワンチャン将来的に高学歴になるかもだからだろうね。青田刈り的なね。あ、個人の感想ですよ。

 とはいえ、ガリ勉はNG。

 ただの勉強オタクはモテません。『モテ』には清潔感とか身だしなみとか、勉強以外の要素も大切だったりするのです。

 鈴木を見れば分かるもんな。

 たしかに鈴木は運動も勉強もデキるスーパーマンだけど、みんなから慕われてるのは『親しみやすさ』があるから。

 とっつきにくい感じを醸し出すんじゃなくて、女子に「彼氏にしたい!」って思わせるから。さらっとナチュラルにイケメンしてるから女の子にモテる。どこぞの王子さまかな?

 とはいえ、勉強はデキるほうがいいと思うけど。

 何より進学に有利だし、両親も鼻高々だろうし。一部の人からやっかまれる可能性もなくはないけど、テストの成績が良ければ親も喜んでくれるわけだしさ。

 オレの場合だと、母さんに「さすが葵ね」って言ってもらえるしさ。父さんに「さすが葵だな」って言ってもらえるしさ。朋花に「さっすが、おにえちゃん!」って言ってもらえるしさ。ぜんぜん自慢とかじゃないけどね?

 ってか、途中ヘンなの混じってなかった?

 途中で『お兄ちゃん』なのか『お姉ちゃん』なのか分かんないの混ざってたような気がするけど。『おにえちゃん』なんて中途半端でフシギな呼び名が混ざり込んでたような気がするけど?

 まぁ、いっか。

 さっき先生に当てられたときみたいに、さらっと答えを当てるのって気持ちいい。

 心のなかで「どやぁ!」って出来るから気持ちいい。「ちゃんと予習・復習してるんですワテクシどやぁ!」って出来るから心地よし。腹黒し。

 それに、麻衣にも褒めてもらえるから。「さすが葵だね!」って言ってもらえる。「さすが葵だね天才だね!」って言ってもらえる。「さすが葵だね天才だね最高だね素敵だね素晴らしいねふぁんたすてぃっく!」って言ってもらえぬ。自慢になってないけどぬ?

 オレとは対照的に、唯香は泣いてたな。

 授業中、先生に当てられてギャン泣きしてたな。いつもながら意気揚々と「はい、全然わかりません!」って答えて、現国の先生がマッハで繰り出す音速チョークの餌食になってて笑った。

 オレの隣の席に座る麻衣も、口元に手を当てて笑ってた。右手で口を隠すみたいにして、くすくす控えめに微笑んでた。あらまぁ、お上品ね?

 お嬢さま然とした品のある笑い方。

 麻衣の笑い方、けっこう好き。品があって好感が持てるっていうか、鈴の音色みたいに凛とした感じが好き。

 わりと昔から好き。

 スレてない感じもだけど、夏っぽい感じが好きなのかも。

 風鈴が鳴るみたいに澄んだ声で笑うの、オレけっこう個人的に好きなんだよなぁ。『好印象な笑い方』ってあるよね。

 ってか、体罰じゃね?

 教師が生徒に向かってチョーク投げ飛ばすの、いまの時代的にはワンチャン体罰かもだよね。教育会議にかけられるかもなヤツ。

 コミカルなドラマのワンシーンには出てきそうだけど、現実でやったら教育委員会とかPTAが黙ってないヤツ。文科省のお偉いさんたちが冷や汗かくヤツだよね。こんぷらいあんす。

 まぁ、それはともかく。

 性別が変わっても、勉強はもーまんたい。

 よかったぁ、ちゃんと普段から勉強してて。ちゃんと普段から成績優秀な優等生してて。あ、ぜぇんぜん自慢じゃないんだけどねー?

「……」

 席に座ったまま、ジッと黙り込む。次に受ける授業のことが、オレの脳内で駆けめぐる。

 問題は三限目。

 次の科目のほうが、圧倒的に問題です。

 二限目の授業が終わるやいなや、忙しなく教室から出ていく男子たち。

 嬉しそうな顔。なにかを待ちわびたかのような表情。休み時間になったとたん校庭に繰り出す小学生くらいの男の子さながらに、澄みわたる夏の空のように晴れやかな笑みを浮かべながら教室を後にするクラスメイト。

 とたん、教室内に喧騒が広がる。

 授業中とは打って変わって、ガヤガヤと騒がしくなる室内。

 対比的な男女の表情。男子が晴れやかな顔を浮かべているのとは対照的に、クラスの女子は一様に気だるそうな表情をしている。

 まぁ、わかるけどね。

 さっき田中が「女子は外でマラソン」って言ってたし。

 汗かくだけでもイヤなのに、マラソンなんて地獄でしょ。授業が終わるやいなや、制汗スプレーぷしゅーーーっのヤツでしょ。

 まったくもう。

 時間割ちゃんと考えてよぉ。もうちょっと配慮してよぉ。

 自分の汗の匂いが気になっちゃう思春期女子のガラス細工みたいに繊細で身勝手でワガママ&めんどくさメンタリティにも配慮してよぉ。文科省さぁん。ぷんすこ。

 あ、あれれ?

 後半、ただのディスになってるな。まぁいいや。

 次々に教室を出ていくクラスメイトたち。やがてオレのもとにもルンルンとしたようすの麻衣がやってきて、手提げバッグを抱えた彼女は「葵、更衣室いこ〜」と声をかけてきた。

「う、うん……行こっか……」

 尻すぼみに返事をするオレ。

「唯香たち、もう先に行ってるよぉ」

「そ、そっか……」

 ギィっとイスを引いて立ち上がった。

 学生鞄から体操服を取り出して、折りたたみバックの中に移すオレ。半袖だけだと肌寒いと思われるので、上に羽織る長袖のジャージも忘れずに。

 体操着一式を手に持って、麻衣と一緒に教室を出る。

 

 次は、体育。


「外で運動、やだなぁ〜」

 気だるげな表情をした麻衣が、ひかえめに溜め息をもらした。はぁ〜。

「ま、麻衣は……身体うごかすの、キライ……?」

 気だるそうな表情を浮かべる麻衣に、おぼつかないながらにオレが訊ねる。

 んー、と小さく唸る麻衣。

「キライってほどじゃないけど……この時期って汗かくから、その後めんどくさ〜だよね。後処理が手間じゃない?」

 あ、後処理?

『処理』ってなんだ?

 体育が終わった後って、女子は何かするのかな。男子の知らない特別な何かがあるのかな?

 男子禁制。

 秘密の花園。

 むむ、気になります。わたくし、気になります。

 科学者さながらの生来の好奇心がグサグサです。このワタクシめに答えをお恵みください。ぎぶみー、あんさー。

「そ、そうかも〜」

 ひとまず、話を合わせるオレ。

 麻衣の言う『後処理』が何か分かってないのに、ボロが出ることを恐れて形だけの同調を示す。罪深きオレ。完全に有罪。現行犯逮捕。手錠がちゃんこ。

 ってか、言い方かわいい。

『めんどくさ〜』って言い回し、麻衣っぽくて可愛いんだけど。

 や、今それどころじゃないんだけど。

 麻衣が口をひらいた。

「ジャージ着たまま帰れるし、六限に体育あるほうがいいよねぇ」

「そ、そっか……」

 ズボラ。

 ズボラだな、麻衣。

 そういえば、たまにジャージ姿で帰ってるの見かけるな。「制服、汚れちゃったのかな?」って密かに思ってたけど、あの芋ジャー姿はズボラ女子のなせる技だったんだね。

 一般女子は着替えてから帰るもんな。

 わりと女子は「制服に着替えてから帰る」ってパターンが多い気がする(※個人の感想)。

 汗くさくても気にしないムサい男子とは違って、体育のときに流した汗を気にしてなのかもだけど。女の子のほうが匂いに敏感な傾向あるよね。

「葵はちゃんと着替えてから帰るよねー」

「そ、そうだね〜」

 テキトーに相槌を打つオレ。

 ふぅん、そうなんだぁ。

 知らないけどね。ぜんぜん知らないけどね。

「汗かいたまま帰るの、ちょっと気が引けるっていうか……」

 テキトーに話を合わせるオレ。罪深きオレ。逮捕。

「わー、女子ぃ〜。あたしも葵と同じくらい、ちゃんと女子やんなきゃかなぁ?」

 物憂げな表情を浮かべる麻衣。

 フォローを入れるつもりで、おずおずと言葉を返すオレ。

「ま、麻衣は……ちゃんと、女の子だよ……?」

「えー、そお?」と返す麻衣。「だって、あたし体育のあと制汗スプレー振るくらいしかしない系だよ?」

 なに、その新手のカテゴリ。

 新種の生き物すぎるでしょ。『制汗スプレー振るくらいしかしない系の女子』とか、ついぞ聞いたことないんですけど。どんな生き物なのです?

「じゅ、充分じゃないかな……」

「そうかなぁ〜?」

 納得いかないようすの麻衣。意外と頑な。

 むいっと唇をとがらせる仕草が可愛らしい。お願いを聞き入れてもらえなくてスネる小学生くらいの女の子を思わせる。

 ほんと、充分だと思う。

 一部の男子なんて、なにもしないから。マジで何もしない。

 デオドラントスプレーはおろか、汗拭きシートすら使わないからな。体育が終わったあとの、男どもの汗くささったら……もう、ホント……。

 ワキしゅーーーっしなさいっての。

 スプレー代ケチってる場合じゃないんだっての。なんだったら、おこづかい切り崩してオレが買ったげるぞ?

 鈴木を見習いなさい。イケメンはイケメンで居続けるために、ひっそりと陰ながら努力してるんだぞ。さいしょから女子にモテるわけでも、無条件で爽やかなわけでもないんだぞ。『さわやか』は作れる。

 鼻が曲がりそうなスメル垂れ流すのやめてほしいよね。

 オレみたいに鼻のきく犬が「わふぅ……」ってテンション下がっちゃうヤツでしょ。

 スメル・ハラスメントですよ。略してスメハラ。ハラスメント業界に風穴を空ける乾坤一擲の芳しきスメルだぞ。

 ってか、オレ犬だったの?

「葵いっつも良い香りするよね〜」

「そ、そう……?」とオレは返した。

 そうなのか。知らんけど。

 だって、初めてだし。オレ、今日はじめて『葵(女版)』になったし。はじめての経験ばっかりですし。おすし。

 こくこく、と小刻みにうなずく麻衣。

「こないだ葵が教えてくれたの、あたしもネットで買ってみたよぉ」

「へ、へぇ……?」とオレは返した。

「今日、持ってきてるから。使いたいとき声かけてね?」

「う、うん。あり、がと……?」

 たどたどしく、オレは感謝の言葉を口にする。

 対照的に、にこにこと満足げに微笑む麻衣。あどけない少女のような笑顔が、罪深きオレの心にグサッと刺さる。とたん、罪悪感をグサグサと刺激される。

 な、なに買ったんだろ。

 そんで、オレは麻衣に何を教えたんだろ。気になります。

 話の流れ的には、いい香りがする『何か』なんだろうけど。『におい』に関して、男のオレが女子に教えられることあったかな。むしろ、麻衣に教えてもらいたいくらいだけど。教えて、この世界の葵。

 まぁでも、匂いには気をつけてるからね。

 女子ほどではないかもだけど、いちおう汗くさ臭には気を配ってたから。

 ほかの男子たちみたいに野ざらしじゃなくて、ちゃんと8&4的なヤツでニオイ対策してたし。どれくらい効果あるのかは謎だけど、Agが入ってる高めのヤツ使ってたし。シャボン系の香り好きだし。ね?

 ほら、オレ汗臭いの好きじゃないしさ。

 それに、オレって他人より鼻が敏感みたいだしさ。一時期、調香師さんに憧れてたときもあるしさ。あと、犬だしさ。ね?

 いや、わかるよ?

 そりゃ、もちろんオレだって別に「汗くさ男子みんな悪い」って言いたいわけじゃなくてね?

 心のなかで「汗臭テロ引き起こす男子、ひとり残らず地獄に落ちろ」なんてバイオレンスなこと考えてるわけじゃないしさ。ほ、ホントなんだからね?

 男子のなかにも清潔感あるヤツは居るし。

 みんな大好きサッカー部の鈴木くん♡みたいに、男子にも身だしなみに気をつけてるヤツは居るから。

 ただ、全体的な割合として『汗くさ率=男子>女子』だよねって話。

 汗臭スメル漂わせるサピエンスの比率でいうと、残念ながら♂のほうに不名誉な軍配があがるかなって。

 所属してるコミュニティによって、なにが『善い』とされるかが異なる。正反対と言ってもいいくらいに、男女の文化って全く違ってるよね。

 男社会だと「男のクセに匂い気にするとか(笑)」みたく『(笑)』付きで嘲笑されるパターンありかもだけど、逆に女子だと「女なのに匂いに気を遣わないなんて……」みたいにドン引きされるパターン多めだよねって話だから。

 ね、わかるっしょ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ