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どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに  作者: ポンジュレ
Ⅱ 黒い石のようなもの

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2-18.

 翌朝。朝食のテーブルで、昨晩の手ごたえを思い、コンビーフサンドをいつもより味わって噛みしめた。

 

 昨晩、モスは仮面の男の追跡に成功した。男は王都内、豪商や貴族が使う高級宿に部屋を取っていたという。後はそこから〝どこへ行くか〟だ。優秀だというモスに引き続き尾行を頼み、ジェイロは付近の適当な宿へ。そして光の点滅で知らせ合う、発着信の魔道具を三人で持ち合った。


 教室では、俺の席の隣でミルマリとクッカ、チャッポが集まっていた。

 

「ケイ君、昨日はありがとう。帰りはちょっと寂しかったけど、本当に楽しかったよ」

「ほんま。あんだけ堪能したのに『おおきにごちそうさん』も言えんかったんは、尻すぼみやったで」

「ああ、急な野暮用でな。悪かったよ」


 ミルマリは机の縁を掴んで、真剣な顔つきをした。

 

 「ねえ、ケイ。独りで無理しちゃダメなんだからね。ちょっと背負いすぎてるように見えるから。あたしたちにできることがあったら、何でも言って」


 皆でウンウンと力強くうなずく。何だよ朝から。嬉し過ぎるじゃないか。

 ……そうだな。家の重圧もなく自由な俺も、この学園に来て失いたくないものが、いっぱいできた。だが、仲間にそう思わせるようじゃ、まだまだだ。さっさと背中のつまらん荷物を片付けて、身軽にならないと。



 ───放課後。

 久しぶりの大講義室にて、部活『公園(フォルム)』を再開。今日からと告知をしていなかったわりに、60名近く集まっている。顔ぶれが同じ、わりと熱心に続けてくれている生徒たちだ。休んでいる間も、気にかけて大講義室に立ち寄ってくれていたらしい。これまた嬉しい限り。


 ほぼ全員、流気を無意識な循環にまで昇華している。そろそろ、部活に新味を差し込む頃合いだな。よし───


「皆、聞いてくれ。今日は流気の応用である【畜気(ちっき)】を教えようと思う。もう一部の人は気づいていると思うが、流気を身体の任意の部分に集中させることが出来る。こんな風に」


 俺は流気を可視化させ、手先や足先でぐるぐると厚めに巻いて見せた。おお、と静かな歓声が起こる。


「普段の用途としては、手首や足首など、部分的な保護と疲労回復を優先できる。例えば書き物が多い時は肩や手首、走り込みをしている時は膝や足首といった具合だな」

「なるほど~。確かに、部分的に疲れるときってあるもんな」

「ちぇ、こないだ小論の提出の時に知ってれば……めっちゃ肩が凝ったってのに」

「へへ~、私はこれ、もう気づいてた!」


一を伝えれば十で応えるどころか、言わずとも気づく人もいてすごい。きっと俺の教え方もいいんだろう。たまには自画自賛だ。

 ちょっと気分がよくなったところで……じゃあ、自主練が退屈しないように、もうひとつネタを出しておくか。


「……で。この【畜気】を発展させたものも見せよう。【發気(ほっき)】と言って、溜めた流気を、身体から切り離す技だ」

 

 教壇の上にノートを立てかけ、大講義室の端に立つ。俺は軽く構えを取って、手の平を打ち出した。ぱあんと音を立て、ノートが彼方へ吹き飛んだ。


「───! えっ、何、今の。すごっ」

「流気が塊になって飛んでった。面白ぇ~」


 皆、一様に立ち上がる。ミルマリとクッカにはちょっと触りを披露していたが、グリオンなんて、目の前に落ちたノートを食い入るように見つめていた。武技の応用を考えて参加している人間には、さらに興味深いかもしれない。

 

「これだけだと風魔術でもできそうだが、もっと気を練ると、魔術ではできないいろんな使い道に転じられる。まずは【畜気】から。全員できたら、俺のとっておきの活用法も教えるよ」


 熱意が教壇に届くほどになってきた。いい感じに仕上がってきてるな。

 流気はいわば、精神の統一と呼吸の調律という、地味ながら奥深い鍛錬。この派手なほうを最初に見せれば、もっと食いつきがよいのはわかっていた。それでも、アガ先生も言ったように、部会活動は継続も大事な柱。うまく興味を引いて導き続けるのは、部長である俺の腕次第というわけだ。


 そして小一時間経過。

 湧き立ちつつ、めずらしくほぼ全員が居残りで励む中。俺はひと先に失礼して、ジェイロたちと合流すべく、市中へ向かうことにした。まだ魔道具の点滅はない。それが仮面の男を取り逃さずいることを祈りつつ。


「───ケイ。お待ちになって」

「あ。セラフィナ様、こんにちは」


 廊下で久しぶりにセラフィナと会う。大講義室へ、明日から『公園(フォルム)』を再開する旨をわざわざ伝えに来てくれたらしい。丁寧過ぎて恐れ入る。


「聞きましたよ。中間試験、学年で一位だったとか。素晴らしいです」

「ありがとうございます。出題運がよかっただけですよ」

「ふふ、いつも奥ゆかしいですね。あと先日、母……陛下から伺いました。内々の用事でこちらへ来た時に会ったのだと」

「ええ。いろいろお聞かせ頂けて楽しかったですよ。大変元気なおかたなんで、ちょっと面食らいましたが」

 

 セラフィナも思い当たるところがあるのか、恥ずかしそうに耳が真っ赤になった。


「王城にもまた来て欲しいと、伝言の念押しをされました。お越しの時は、わたくしにも伝えてくださいね。必ず同席しますので」

「心得ました。今度は手土産でも持って行きますよ。不敬でなければ」


 軽く談笑していた、その時。

 

「───セラフィナ。何をやっているんだい」

 

 彼女を呼ぶ、おだやかな声が響く。声の先には男子生徒が三人。その真ん中、声の主と思しきすらりとした長身の男が、軽快なさまで現れた。

 

「探したよ。来週のパーティの打ち合わせをしたいと、昼に遣いを送っただろう」

「……それは学園外のことですので王城でと、返したはずですが」

「何度も言っているけど、学園(ここ)こそ関係ない。いずれこの国の頂点に立つ人間が、〝腰掛け〟を優先してどうするんだ」


 波うつ茶色の髪に手櫛(てぐし)を入れながら、呆れたように物言う男。三年生か。何だかわからんがお取込み中のようなので、俺は失礼することにしよう。


「ではセラフィナ様、俺はこれにて」

「ああ君、ちょっと待って」


 男は少し苛立ちをはらんだ声で俺を呼び止めた。


「君だろ、ノエルを決闘で打ち負かしたという平民は」

「……ああ、その平民だ。で、お前は誰なんだ」

 

 また家の名でしか見ない、しょうもない貴族。あえて無礼な態度で返した。

 

「貴様ぁ! しかも1年生の分際で」

「ははは。構うな。なかなか愉快なやつのようだ」

 

 男は腰ぎんちゃくを制し、わざとらしく乾いた笑い声を放った。

 

「では名乗ってあげよう。僕はフェルナン=ビァッコ。護国司長を担う公爵家の次期当主。そして───」


 (のたま)いながら、つかつかとセラフィナに近づくと、腰に手を回してぐっと抱き寄せた。


「彼女の婚約者だ。これで嫌でも覚えただろう?」

「───いやっ! は、放しなさいっ、無礼なっ!」

 

 セラフィナはぎゅっと眉をひそめ、フェルナンを力任せに押しのけた。彼女、婚約者がいたんだな。それ以上に、露骨に嫌そうな態度を取ったことに驚いたが。

 凍り付いた空気の中、フェルナンは薄い笑顔を崩さず。ジャケットの襟を引っ張って整え、平静を装った。

 

「そう恥ずかしがらずとも、〝王女様〟。しかし場もわきまえず、失礼を致しました。ただ、僕ら四大公爵家と王家の盟約は、お忘れなく」

「……」


 セラフィナは……見たこともない、泣きそうな顔で俺を一瞥すると、足早に去って行った。フェルナンはその後ろ姿を見送り終えるなり、微笑を引っ込めた。


「……さっさと調教しないとな。しかしまあ、ちょうどいい。君にも言っておくことがあったんだ。〝勘違いの輩〟に」


 ゆっくりと俺の前に立ち、(さげす)むように細めた目で見下ろす。


「英雄なんてものはせいぜい、寝物語や吟遊詩人の歌の中で遊んでいればいい。現実でうろうろしないでくれ。特に、統治者の周りではね」

「主語が明らかじゃないが。まあ誰のことかわかったら、伝えておくよ」

「僕は馬鹿が嫌いだからね。賢明にしておいてくれ」

 

 俺は頭を雑に下げ、場を後にする。だが、フェルナンに背中を向けた瞬間、顔が笑いと怒りで引きつりそうになった。

 やつから漂ってきた、嫌でも鼻に突く〝甘い香り〟。昨日の今日で、まさか同じにおいを持つやつが現れるとは。俺のことはある程度知っている様子だが……狙ってやったとは思えない。


 馬鹿が嫌いな馬鹿か。十中八九「敵」であるやつが、すぐ近くにいる。上手に尻尾を出してくれよ。俺が踏み潰しやすいように。

 

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