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どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに  作者: ポンジュレ
Ⅱ 黒い石のようなもの

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2-15.

 目を開けると、星空が広がっていた。おだやかな波の音と、潮の匂い。随分と眠っていたらしい。


「……どこまで、来たんだっけかな」


 すっかり頭は冷えている。切り替えがいいのは俺の利点。地に手を置き、風を感じて。俺の流気が乱した先を読み、帰りの方向へ当たりをつける。山や森より少しわかりにくいが、まあそんなに差はない。


「人間が多すぎて、活気が散らかっている。こんなに、我がままばかりの世界で生きようとしているんだな、俺は」


 ……人のことを言えた義理か。あんなに自分を見失って。まだまだ修行が足りない。

 

 すっかり闇に馴染んだ海を背中に、青の流気【闘衣・弐】を展開する。速度にも特化したこれは、文字通りもう皆がついていけない段階。さっさと帰りたいから、こいつで飛ばす。


「記念に、足型を残して帰るぞ。また、頭を冷やしに来るかもな」


 べきりと、石畳を踏み割る音を耳にして……俺は選んだ家路を貫くように激走した。


 

 

 ───視点変更───

 

 ケイが、所在もわからぬまま夜遅くまで外出したのは、王都に来てから初めてだった。戻るなり、いつも通り食事をして、いつものように侍従にも心配りのある声をかける。しかし、主人の些細な変化を見逃すことは、〝彼ら〟にはありえなかった。

 

 試験勉強をしたいと言い、もう床に就く時間であるにもかかわらず、書庫に入り浸るケイ。幾つも本を積み上げ、静かに読みふける彼の気配を感じながら……ドメは部屋の外、扉際でじいっと立ち尽くしていた。


(坊ちゃま……何といじらしい。きっと何か、とてつもなく嫌な目に遭われたのに相違なく。もっと、私どもに八つ当たりなさってくださればよいのに。ああ、ドメは、ドメは切のうございます)


 微かに空気が揺れる。廊下の向こうでバスチァンが姿を見せ、目線を向ける。ドメは長年の呼吸から、それだけで呼ばれていることを察した。

 薄暗い執事室。一本のろうそくが、二人の顔だけを紅く浮きだたせている。バスチァンは、静かにドメを諭した。

 

「気にかかるだろうが……ケイ様も日々大人になられておる。こんな時こそいつも通りにし、ただ見守ることだ」

「理解しております」

「しかし、坊ちゃまに───ケン様、セイ様に仇なすものがいるのなら、それこそ我らの出番。いつでも動けるようにしておきなさい」

「はい。この命、いつ何時も、主人と共に───」


 

 ─────────



 窓から赤い光が差し込み、鳥がさえずり始める。

 そっと開け、書庫に新鮮な空気を取り込む。初夏を迎えつつある今でも、まだ少し肌寒い。

 

 中間試験当日は、久々の徹夜で迎えた。俗にいう一夜漬け。「授業をちゃんと理解できていれば、試験前の勉強は補足程度でいい」とは、おとんおかん二人して言った学園での心構え。その通りにしていたつもりだが、やっぱり不安は残る。

 

 何せ学力試験というのは、文字通り参照物無しの頭の中での勝負らしいから。記憶に自信がなくはないものの、関心のないことはすぐに頭から消えるのは、良くも悪くもといったところ。人の名前や顔がそうだったりする。


 バスチァンのコンビーフサンド、今朝はアクセントのしゃきしゃきレタスが脳に利く。気力は十分。では……いざゆかん、学びの証に。



 たった半日開けただけなのに、久しぶりに感じる教室。みんなピリピりした空気を発しながら、教科書やノートを読み込んでいる。

 席につくなり、ミルマリが駆け寄って来た。

 

「ケイっ。昨日はどうしたの。アガ先生に訊いたら、午後からお家の急用ができたって」

「気にかけてくれてありがとう。大したことじゃないんだ」

 

 ミルマリが眉尻を下げながら、真っすぐに俺の目を見てくる。衛兵詰所のことから心配かけっぱなしだものな。この子はいつでも俺に寄り添ってくれようとする。唯一他人の中で───あ、そうだ。


「ミルマリ、今度の休校日、俺の邸へ遊びに来ないか。一度うちのバスチァンの料理を誰かに振る舞ってみたいし。めちゃくちゃ美味いぞ」

「行く! いくいくいくぜーったい、行く! もう決めたからね。約束だよっ」


 二つ返事。ツインテールとお胸を豪快に振るいながらぴょんぴょんと跳ねる。いつものお礼にと、思い付きを言ってみたが……こんなに喜んでもらえるなら、もっと早く提案すればよかった。


「え、何々。ケイんとこのご飯が美味しいって? ウチも行きたい!」

「僕も気になるなあ。そうだ! みんなでお土産を持ち寄って、中間試験の打ち上げパーティをしない?」

「それ、絶対楽しいやつ。チャッポちゃんキレッキレやな。ウチも当然、選りすぐりのお菓子持って行くで」

「そ、そうだね。パーティいいかも! よ~し、試験がんばるぞ!」


 いや、今から本番なのに、頑張るぞも何もないだろ。

 パーティの話になって、ミルマリが一瞬不服そうにしたように見えたけど、気のせいか。みんなで寄って、楽しい時間をどんどん作っていかないと。でないと俺ひとりじゃ、殺伐さに歯止めが利かなくなる。

 


 HR(ホームルーム)では、アガ先生からカンニングの厳罰について説明があった。一年六回の定期試験の中で、毎年必ず一人は出るらしい。


「教員生活でずーっと言い続けてるんで、さすがに飽きてきたんだがな。いいか、やれば100%バレる。それと、やってそこそこの点数を取るよりは、やらずに悪い点のほうがずっといい。ここまで言ってもやるのは馬鹿だからな」

 

 厳しいようでいて、寛容さも感じる言葉。ただ、皆、〝誰のために成績を出すか〟で踏み外してしまうんだろう。俺にはどうしても理解はできない。背負ってるものがないって言われているしな。


 そのまま試験開始になだれ込む。一科目目は『王国語』。日常会話から古語まで、言葉遣いに詩文読解、綴りミスの訂正と。個人的に一番好きな科目で、問題と対話するようで楽しい。


 思いのほかすらすらと解答を書き終え……半時間近くを残し、ペンを置く。ふと、アガ先生と目が合うなり、ニヤリと返された。

 そういえば、流気が徹夜にいいなんて皆に話したことがあった。『公園(フォルム)』に1-Aで参加しているのは今や22名。もし今回の試験で手ごたえがあれば、いつかは全員が鍛錬してくれるかもしれない。そうなればいいと、なぜだか強く思った。


 チャイムが鳴り、答案用紙は回収。休憩に入るなり緊張がほぐれたのか、あちこちから声が上がる。


「やっべ~、全然わからなかったよ。とりあえず埋めたけどさ」

「私、昨晩早めに寝ちゃったんだよね。もっと起きて頑張ればよかった」


 お、これはおとんおかんが言ってたやつだ。『セルフ・ハンディキャッピング』───良かろうが悪かろうが、どっちに転んでも自尊心が傷つかないようにする予防線。なるほど、こういうので同調するのか。


 隣でチャッポが、残された問題用紙を見返しながらニコニコとしている。

 

「ケイ君どうだった? 僕はこの科目が好きだから、解くのが楽しかったよ」

「俺も同感。問題を考えるほうは、もっと楽しいだろうなって思った」

「でも、次の算法と明日の王国史までかな、そう思えるのは。魔学の二つ、魔術と魔素はもう、考えるだけでも憂鬱だよ~」

「なあに、文字が違う謎かけだと思えば一緒さ。俺は魔術を使わないから、そう割り切ってる」

「それ、全然気休めにならないよ」


「わかる」ことと「できる」ことは違う。学園の勉強の多くは、わかることに意欲的になれるよう、基本で留めている。で、部会活動をできることを見つける場にしているから、あれだけ数が多いんじゃないだろうか。上手く分担している気がする。


 試験が終わったら、部活のほうも力を入れて行かないと。玄晶は、まだまだ学園内に残っている。確証はないが……『公園(フォルム)』を介することは、きっと問題を未然に防ぐ方向へと繋がるはずだ。

 

 わけのわからん大人の言うことなど、聞くものか。俺は、俺ができることをやる。

 

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