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どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに  作者: ポンジュレ
Ⅱ 黒い石のようなもの

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30/40

2-12.

 初めて見る鉄格子。しかも中から見るという刺激体験を満喫中。薄暗い石床に、(わら)が敷かれているだけ。

 俺は騒乱罪と暴行罪、二つの嫌疑でここ、衛兵詰所の牢獄に入っている。嫌疑も何もその通りで、何も言うことはない。おとんいわく「前科者」になりつつある。

 

 とにかく、うかつだった。街中は山の中とは違う。常に善人と悪人が背中合わせで、虫も殺さぬ市民と人殺しのねぐらが隣り合わせ。片方が騒ぎ立てれば、もう片方が知る。そしてそれが正しいかどうかは、法の下ににゆだねられる。殴り倒した者の勝ち、では済まないんだ。

 

「本当に、暴力って大したことが無いよなあ」


 本当に。俺は自力で牢獄を出ることは叶わず。

 最終的に釈放してもらえたのは、学園長と女王陛下の計らいだった。ミルマリとクッカが奔走してくれたらしい。あとでしっかりお礼を言わなきゃな。


 滞在時間は二時間ほど。鉄格子を斬っては【聖光】で引っ付けたりして、遊びながら反省……したような気がしてたら、すぐだった。

 手続きのため、衛兵詰所の一室へ通される。窓からは赤みを帯びた光が差し込んでいた。

 

「申し訳っ、ございませんでしたっ!」


 部屋に入るなり、いきなり土下座の衛兵長。また年長者から謝られた。いつも俺が悪いのに謝られるのが辛い。

 その隣。騎士の制服に白マントの、見慣れぬ女性もいきなり(ひざまず)いた。


「レジクス王国第一騎士団長、レザレッテと申します。陛下の代役を仰せつかり参りました。以後お見知りおきを」


 おかんが推しそうな、ショートブロンドの〝男装の麗人〟。聞けば、彼女が俺の身元を保証してくれたそうな。

 レザレッテは表情ひとつ変えず、腰の細剣(レイピア)をゆっくりと抜いた。


「ケイ様に手錠をかけるなどという無礼を働いたこの衛兵長ですが、どう処すかについては私が一任されております。では、どの辺りが良いか、ご命令を」

「ごめんなさい、何を言ってるのかわからないです」

「身体の一部を斬り落とし、それをもってして謝罪とするのです」

「いやいや。俺が悪いのに、何でそうなるん───あ、わかった。じゃあ今すぐ戻って陛下にお伝えください。衛兵長を罰するなら、もう二度と会わないって」

「な、何と仰るっ。しかしそれでは、陛下のお怒りを収める先がっ」

 

 目を丸くして、ふらふらと後ずさりするレザレッテ。やはり効いたか。

 前に会った時の、陛下のぶっ飛んだ様子、そしてこの謎の堅物。二人から鑑みるに、このカードを切るのが一番てっとり早いと悟った。こんなしょーもないことに慣れていく自分が嫌なんだが。それに……ちょっとここで融通を利かせたいこともあるし。

 

「では、この件についての裁量権を俺にください。レザレッテさんが判断できないのなら、俺が今から陛下へ直談判に行きますんで」

「少々! 少々お待ちをっ!」


 慌てながらも颯爽とマントを翻して部屋を出ていくレザレッテ。戻ってくるなり、ひと抱え程の大きな金属製の箱をドンッと机の上に置く。衛兵長に部屋を出るよう指示すると、箱からこぶし大の魔道具らしきものを取り出し、起動した。


「あ~、あー……こちらRGKS01-0001、第一騎士団長レザレッテだ。至急、女王陛下に取り次いで頂きたい」

「……確認完了。転送します。しばらくお待ちください」


 通信の魔道具だ。しかしおかしいな。おとんとおかんはもっと小さな金属板を使っていたが……仕様や範囲が違うんだろうか。

 ほどなくして、箱から聞き覚えのある声が響いた。


「レザレッテ、どうしました」

「はっ、第八衛兵詰所にてケイ様を無事〝お救い〟致しましたところ、ご本人から、この件の裁量を一任してほしいとのご希望がございまして」

「……今そこにいらっしゃるの? じゃあ代わって頂戴」


 さっと通話用の塊を手渡される。気は引けるが……俺はまたここで効果的な文言を出さなければならない。


「〝お姉さん〟、先日はお疲れ様でした」

「きゃあー! ケイぃっ。まさかお声が聞けるなんて。なんて素敵なご褒美。ああもう今日は何もしたくない」


 やはりこうなったか。レザレッテが凍り付いている。誰かに聞かれているなど一切お構いなしとは……。

 

「だいたいの経緯は、先日の学園長からの書状で察していただけるかと思いますが。この件、任せてもらえませんか。考えがありますんで」

「……わかったわ。ケイの望む通りになさって。レザレッテと代わってくださる?」

 

 秒で決着。相変わらず仕事モードと乱調モードの切り替えがはっきりし過ぎていて、ちょっと怖い。

 

「今の、聞いたわね。じゃあケイ様がもういいって言うまで、そこで補佐を務めて頂戴」

「はっ。かしこまりました。このレザレッテ、必ずお役に立ちますよう、粉骨砕身で臨みます!」

「じゃあね~ケイ! どうか彼女をこき使って頂戴。近々王城でお茶しましょうね! ぜーったい時間を作るから、待っててね!」


 通信終了。奇妙な間が部屋中を包んだあと、レザレッテは「よしなに!」とひざまずいた。

 さて。裁量権を得たところで、俺はまず、同じく投獄されていたジェイロを呼んでもらった。


「いやあ~参った参った。王都の牢獄は日当たりが悪くて寒いねえ。冬なんて投獄イコール死刑だぜあれ……って、おおボクちゃん。あんたも聴取か───んげっ!?」


 軽口を叩きながら部屋に入ってきたジェイロに、レザレッテがいきなり細剣(レイピア)の切っ先を近づけた。


「貴様、誰の許しを得てケイ様に話しかけている。処すっ」

「なな、何だ、この怖ぇ姉ちゃんは」

「ちょ、やめてください! そのおっさんは重要参考人なんですから」

「おいおい~、おれはまだ29だぜ? せめてお兄さんにしてくれ」


 染み付いたクセか、虚勢なのか。相変わらず軽妙な態度を取るジェイロだが、レザレッテは素で殺気を出す。

 

「ケイ様。ひとまず喉だけ斬って捨てて黙らせようと思うのですが」

「だから聴取するんだって、今から」


 俺の役に立つんじゃないのかよ。何でこんな尖った人ばっかりなんだ王城関係者は。


「単刀直入に言いまして。この男を釈放してやって欲しいんです、条件付きで」

「何と仰る。この男が関わる概要については、私にも周知されておりますが。言わば王国反乱罪です。この場で斬首でもおかしくありません」


 まあ確かに。玄晶という、未知でいつ暴発するのかもわからない性質のものを、貴族の子息令嬢が通う学園でバラ撒いた。どう転んでも知らなかったでは済まない。それでも───


「今は、このジェイロみたいに裏社会に目と耳が利く、手駒が必要なんですよ。学生や官憲ではできないことをやってもらう、汚れ役が」


 ふんぞり返っていたジェイロが、不服そうに俺を見る。


「おい。目の前で手駒とか汚れとか言われて、何かを引き受けるとでも思ってんのか……なあんてキレイごとは置いといて。おれたちは傭兵だ。出すもん出してくれりゃ、それなりに動くぜ?」

「こいつはやっぱり殺処分にしましょう。釈放の上に報酬など、信用のかけらもありません」

「レザレッテさん、ちょっと黙ってくれる?」

 

 俺は手のひらをぐっと突き出し、圧をかけた。


「んぐ……失礼をいたしました」

「むしろ、こいつらには金が全てだろう。このまま野に放っても、雇い主と王国、それに俺から追われるんだ。どの方向に行っても楽には死ねない。それなら報酬で釣って生かしたほうが、建設的だ」


 ジェイロはぐいっと刺しこむように、俺の目を睨みつけてきた。

 

「……ボクちゃん、マジで何モンだ? 言うことに胆が据わってて、ガキのそれじゃねえ」

「学生の皮を被った、暴力そのものだよ。お前らぐらいの傭兵や野盗やらは昔、何人も殺してるからな。生き死にの掌握だけなら、大したことじゃない」


 心音が聞こえるほど静かな間が、数秒続く。ジェイロは不敵に口端を歪めると、ふいっと目を逸らした。

 

「わぁ~かった。おれの負けだ。あんたに従うよ〝旦那〟。ただ、仕事をやるなら部下がいる。おれが言うやつだけでいいから釈放してやってくれねえか」

「いいだろう。報酬は相場がわからんから、後で提示してくれ。言い値を出そう」

「うはははは! 世間知らずか〝こっち側〟なのか、いったいどっちなんだ。面白過ぎるぜっ」


 爆笑するジェイロ。こいつの方こそ緊張もせず、大したヤツだ。思ったより使えそうだな。横で眉をひそめている堅物よりは。

 

 しかし……一気に忙しくなった。この上、来週の中間テストの勉強もしなきゃならないし。そう、学生の本分は忘れちゃいけない。でなきゃジェイロの言う〝あっち側〟に行ったまま、帰ってこられなくなる。

 

 俺は少し固まった頬を、両手のひらでほぐした。笑顔が消えないように。

 

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