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どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。  作者: ポンジュレ
Ⅰ 両親が英雄だなんて聞いてない
3/22

1-3.

 そんなこんなで一週間が経ち、ブレイビオス王立学園の入学式当日を迎えた。


「制服、本当によくお似合いです。このような晴れ晴れしい日に立ち会えるとは……長生きするものですなあ」

「ああ、坊ちゃま。坊ちゃまは何を着ても坊ちゃまです」


 バスチァンはハンカチで目じりを押え、ドメは恍惚(こうこつ)とした表情で何言ってるかわからない。とにかく二人の見送りで、邸を後にする。気恥ずかしいけどやっぱり家族同然の二人だから嬉しい。


 歩いて5分ぐらいで学園に到着。ぶっちゃけ、邸の窓から校舎が見える距離なので。王国中から生徒が集まるから、ほとんどは通えず寮に入るそうだから。俺、恵まれ過ぎだよな。


 今日こそはあの女の子を見つけないと。三日前に学園へ制服を取りに行った時、学園長に訊いたら知ってたのには驚いた。(みどり)の瞳って言ったら、すぐに会えるって言ってたし。まあ時短が可能ならそれに越したことは無い。とにかく誠心誠意だ。覚悟はできている。



 校門にはもうわらわらと同じ制服を着た子たちであふれていた。どこか落ち着かない子に、妙に堂々とした子。いろんな人間に囲まれて、俺はこれから「普通の暮らしを頑張る」。何が普通なのかわからんまま。


「この無礼者がっ」


 ん? 何だか騒々しいな。豪華な馬車の前に立ち、何か怒ってる赤味を帯びたブロンドと、地面に伏せてビクビクとする茶色巻き毛ぽっちゃり。何があったんだろう。


「この王国四大公爵が一角スザック家公子、ギルレイ・スザックの馬車と知っての狼藉かっ」

「申し訳、ございませんっ。体調が少しすぐれず、ついふらふらと。決して狼藉をしようなどとは」

「そのような軟弱者が、よくも我が晴れ舞台を(けが)してくれたなっ。赦せん。そこへなおれっ」


 あんな長い口上をよく噛まずに言えるな。

 それよりもこれ、知ってる。「無礼討ち」っていう、貴族が気に入らなければ即KILL特権とかいうやつだ。いや待てよ。あれはおとんの小噺(こばなし)であって、俺が読んだ王国六法にはそんなのは無かったはず。


 あらら、ギルレイってやつ、剣を抜いたぞ。何を考えてるんだ、あんな罠にかかった子ウサギみたいな子に。何で周りのヤツらも止めずに見てるんだ。おかしいだろ。


「死ね。穢れた貴様をここで散らし、この(みやび)な学園の枝打ちとしてくれるっ」

「ひいい……」

 

「お前んとこの家業って、林業?」


 振りかぶる剣を止めるべく、割って入る。


「何だお前はっ! 無礼者っ」


 問答無用で斬りかかるのがすごい。そこは徹底してるんだ。

 まあとにかくこの、ゆっくり降りてくるへなちょこの剣を……


「───! なあっ」


 ほら、素手でも受け取れる。〝闘衣〟すら要らん攻撃なんて久しぶり。


「うぐぬうんっ……その手を離せっ」

「はいよ」

「うわあっ」


 力余って大コケするギルレイ。体幹はどうなってるんだ。


「こここ、このゴミがっ、赦さん、赦さんぞっ!」

「そもそも何でお前に赦されなきゃならんのか、まずそこから説明をしてくれよ」

「ぬぉああ───っ! 来たれ南方の猛炎よっ、我が刀身にその灼熱を宿さんっ……」


 なんか変な構えを取りながらブツブツ言ってる。

 へえ、刀身に炎を(まと)って……夜に振ったら綺麗だろうなあ。だがそんなもの、斬るには無意味だぞ。


「くらえいぃっ『スザック三型、猛炎両断』っっ」


 かったるい……あ、わかった。一回死なせて生き返らせよう。そうしよう。

 まずこの剣を取り上げて、


「なっ?」


 そんでもう二度とお痛ができないようにへし折って、


「あばばっ、聖剣がっ、我が家の家宝があっ」


 ほんで……手刀でこいつを斬る。


「ぐぉあああ───っ!」


 血しぶきを上げてぶっ倒れるギルレイ。エッジを立てているからそう痛くないはずだ。


「きゃあ───っ、人殺しぃーっ」

「うわあああ衛兵を、衛兵を呼べえっ」


 まあこうなることはわかっていたので、ここで小芝居だとする。

 

「ああ~皆さんご心配なく。今から3つ数えたら彼は復活するので。見ていてくださいよ~1、2の……3っ!」


『聖光』を発射して生き返らせる。ギャラリーからおお~と声があがった。小芝居は成功か。


「───はっ。い、いったい何が……ひぃっ、お、お前、私に何をしたっ」

「はい、お疲れさん。ちょっとお前、認知が歪んでる感じだったからさ。一回死んでもらったんだよ」


 飛び上がるように起き上がって後ずさりするギルレイ。うん、やっぱりメンタル弱い人間はすぐ痛みに矯正されるな。大丈夫かこの学園、こんなのを入れて。


「あ、そうそう。このヘンテコな剣、家宝なんだろ。ほら、一緒に直しといたから」

「な……さっき、確かに折れ……」

「もうちょいイイ鍛冶師を探して芯のある剣を打ってもらえよ。こんな子供の玩具を振り回すぐらいなら」

「ひ……ひぁ、ひああああ~~~っ!」


 剣を抱えたままあらぬ方向へ走り出すギルレイ。ちょっとやり過ぎたかもしれん。ま、従者が追いかけてったし、ほっとくか。

 そういやさっきの巻き毛の男子もいなくなっている。無事ならいいが……


 固まって鎮まり返るギャラリーに一礼してっと。さて、いざ学園へ。

 さっきのが普通でないことは、自分でも何となくわかるんだが……おとんはいつも言ってるから。「いかなる事情があろうとも、無抵抗な弱者に攻撃してはならん」と。それを見過ごすのは、我が家の流儀に反する。


 しかしこんなのばっかりってことは無いよな、この学園。

 まったく……この調子じゃ、おちおち入学式さえも普通に終われそうも無い。

 

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