表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに  作者: ポンジュレ
Ⅱ 黒い石のようなもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/33

2-9.

 オリエンテーリングは体調不良者が〝数名〟に及んだことを理由に中止となった。別の野営地にいた三班は呼び戻され、俺たちのほうは先生たちから緘口令(かんこうれい)が敷かれた。

 

 帰りの客車内は、憔悴と疑心、その二色に染まっていた。ただ、知らないクラスメートは、何となく訊いてはいけない空気は察したようだ。最後列で寝かされたユスティに目をやりながら。

 

 学園に戻ってくるなり、俺はアガ先生に伴い学園長室へ。


「……なんということじゃ。それで、生徒はみな無事なんじゃな」

「はい。ユスティについてもケイが【聖光】で治療してくれているので、ひとまずは問題ないとは思います」

「あとは心のケアじゃな。それは学園としても、力の限りを尽くそう」


 学園長はアガ先生の状況報告に、ひとまず安堵の息を吐き、浮いた腰をどすんと落とした。


「して、ケイよ。おぬしの報告を聞こうかの」

「まずはこれを見て欲しいんですが。ユスティが身に着けていたものです」

「ふむ……石がはまっていたようじゃが、台座は何の変哲もない銀細工じゃの」

「そこに『玄晶』があったはずなんです。同じものを別のクラスメートが持っていたので、間違いないかと」

「な、なんじゃと」

「おいおい、ケイはユスティの異形化が、例の石が引き起こしたものだってのか」

「状況証拠からはそうとしか。ラエルはそもそも石じゃないとまで言ってました」


 俺は対峙した異形の様子と、今日までの玄晶についてわかったことを(つまび)らかに伝えた。学園長は腕を組み、じいっと思慮深いさまで俺の話を聞いてくれた。


「本当に玄晶なのか。本物であったとして人的加工や呪術付与の類はなかったか。十分以上の検証が必要じゃな。魔術院でとうに預かっていたのに、今日に至っても明確な解析が終わっておらん。その辺りとの差も気になる」

発動条件(トリガー)があるのかもしれません。ただ、ユスティが意図的にやったとは思えませんが」

「……学園長、こんなところで如何でしょうか」


 学園長の斜め後ろで書記をしていた教頭が、記録した内容を学園長へ見せる。


「うむ、よくまとまっておる。これを至急案件の封書にして、陛下の駐在員に託してくれんか」

「かしこまりました」


 教頭はてきぱきと書状の準備を終えるなり、部屋を出ていく。それを見送るなり、学園長はぐんっと肩をすくめた。


「市中の調査はワシらの出番ではないがの。出所が街となると、学生以外───内乱行為も考えられる。そうなると外出禁止を告知せねばならんが……教員への周知はさておき、生徒たちに何と説明すればよいかのう」

「緘口令なり、縛り付けるには限界があります。それでなくても生徒たちは〝踏み外す〟のが好きですし。ひとまず1-Aでは、玄晶に限らず素性のわからんものに手を出すなと強く言っておきますが……あとは学園長で全校集会のほうを」

「やれやれ、ワシこういう話をまとめるの、一番苦手なんじゃがのう」


 大人の話になってきた。学園の500人以上の安全の行方について考えるわけだから、聞いてるだけで胃が痛くなる。こう考えると、俺みたいに個人の暴力に秀でていたところで、できることはたかが知れている。それでも───

 

「アガ先生。皆に話すのを俺にやらせてもらえませんか。この件は今、生徒同士のほうが情報を持っている気がするんです」

「なるほど。確かに、オレたちの立場から説けば、何かを隠しているんじゃないかと思われがちだ。いいだろう。やってみてくれ」

「学園長は、俺にやってほしいことはないですか。もう傍観者ではいられないし。こき使ってください」


 俺がぐいぐい行くのに、もう観念した調子で肩を落とす学園長。

 

「では先ほどの、学生の間での情報収集を頼まれてくれんか。仲間たちと楽しく過ごす場で、密偵のごときことをさせるのは不本意じゃが……逆に、おぬししかできぬ役目じゃ」

「それでしたら、止められてもやりますよ。どうせ俺は踏み外しまくりなんで」

「ふっ、まったく。お前と言うやつは」


 アガ先生が俺の肩をぽんと叩く。学園長はあらためて、深々と頭を下げた。

 

「やはり、ケン様とセイ様のご子息じゃの。この老体が、おぬしが頼りがいがあるように思うのは情けない話。じゃが、何があっても全責任はワシがとる。安心してくれ」

「はは、そんな大げさな。逆に〝ジマさん〟に何かあったら、俺がおとんとおかんに怒られますからね。それなら俺が一人、山に帰れば済むことです」


 そう、いつも通りあっけらかんと言ってみたものの……以前よりは明らかに失いたくないものがあって、強がっている俺がいた。胸にくるほどに。

 

 

 俺は先に教室へ戻った。扉を開けると、29名全員一斉に俺を見て、騒然となった。


「ケイ! アガ先生と学園長のところへ行ったって、何を話してたんだ」

「あなた達の三班、何も言わないけど明らかにおかしいわよ。どうなってるの?」

 

 誰彼となく、いきなりの興奮と詰問からスタート。みんなの顔と目が、客車の中のとき以上にはっきりと分かれている。事実を知りたい、忘れたい。俺はこのどちらにも届くように、今から説明しないといけない。

 

 教壇に立つなり、誰もがぐっと息を潜める。俺はポケットからペンダント・トップを取り出して掲げた。


「先に、ちょっと聞かせてくれ。こういうものを、最近誰かからもらった人はこの中にいないか? これには付いていないが、真ん中に黒い石が入っているやつだ。人の命に関わるから、正直に教えて欲しい」

「ケイ、冗談がひどいぞ」

「率直に言う。持っているなら出してくれ。身に付けているなら、今すぐ外してくれ。ユスティみたいになりたくないなら」


 彼女の名を使って悪かったが、一番効く言い方はこれしかない。

 ひと呼吸置いて……顔色をがらりと変えた子が数名。ここから見るとよくわかる。男子はポケットから出し、女子は首に掛けているものを外した。


「ウチは家に置いてきたから、明日持ってくるわ」

「ありがとうクッカ。ユスティも入れて、このクラスだけで五人か。予想以上に多くて驚いた。すまんが、今から回収させてもらう」


 それぞれから受け取り、教壇上にまとめ終え……深く呼吸して落ち着かせる。そしてあらためて、『玄晶』について王家と学園の見解、魔術院での未検証を皆へ伝えた。ユスティについては、あえて知らない生徒には異形のことを伏せ、危うく死にかけたことまでに留めた。


「───以上が今、わかっていることの全てだ。とにかくこの石やペンダントに限らず、変わったことがあったら俺に教えて欲しい。なぜなら、学園を狙って撒かれた可能性も捨てきれないから」

 

 息を飲む、喉の音が響くほどに静まり返る。クラスのほとんどが固まった顔で俺を凝視している。一部は伏せて、頭を抱え込んでいる。異形に食われそうになった子もいたからな。無理もない。

 

 ひとり斜めに構えて空を見ていたラエルが、沈黙を破った。


「つまりよお、オレの解析は当たりだったってことだよなぁ」

「そうだラエル。この件には天才の知恵と見識がいる。是非協力してほしい」

「乗せるの上手いなおい。ちっ、しゃあねえ」


「ちょっと、よろしいかしら」

 

 ルミナがそっと手を挙げた。


「実はその『玄晶』、ディネアミス聖教会にも〝さる方〟から持ち込まれたことがありますの。でも、残念ながらその時、わたくし共で理解を得た者はおりませんでした」

「そうか。王国中枢でもいろいろやっているんだな」

「その時よりも今、あらためて思ったことがございます。ひと言、『おぞましい』ですわ。肌身に着けるなど、とんでもないほどに」

「そんな言い方、しないでよっ。私は好きで着けていたのにっ」


 さっき首から外した子が、泣きながら叫んだ。ルミナは立ち上がり、その子に向かって頭を下げた。


「言葉が足らず、お気持ちも考えず。申し訳ございませんでした。ただ、わたくしが伝えたかったのは、その玄晶を〝好くか嫌うか〟人によってはっきりわかれているという事実でございます」

「───! ルミナもそう思うのか」


 ルミナは薄く笑みを浮かべ、軽くうなずいた。

 

「選んでいるのか、選ばれているのか。いずれにせよ、人の心を乱しているのは間違いないのではと。美しさによってではなく」

「やっぱり、変だと思ってたのよね~それ。あたしもこの間見た時、ぜんっぜん手に取りたいって思わなかったもん」


 ミルマリの感想が、さらに追い打ちをかける。俺も玄晶が持つ、新発見の石であることや陛下から賜ったことなど、背景からの興味があるだけ。実際は、チャッポの言葉を借りて言う「ワクワクしない」だ。


 ───っと。

 静寂を割るように、時限のチャイムが鳴り響く。同時に皆、まるでずっと息を止めていたかのようにため息を吐き、緊張した身体を総崩れさせた。俺も教壇の椅子に、どかっと尻を落とした。


「ふう───っ……アガ先生に言って引き受けたものの、これは気疲れがハンパないな」

「ほんま。ケイ、疲れてるとこ悪いんやけどな」


 クッカがそっと俺のそばへと寄り、小声で話しかけた。


「あのな、ペンダントをくれた子が来てへんねん、学園に」

「……なん、だって?」


「人の命に関わる」───

 嫌な言葉が嫌な方向へと転がっていく。少しずつ強まっていく不穏な気配を、肌に感じながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ