表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。  作者: ポンジュレ
Ⅱ 黒い石のようなもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/25

2-5.

「チャッポ、ちょっといいか」


 女王陛下とのひと騒動の翌日。俺は休憩時間にチャッポを連れ立って、学舎中庭の人気のないところまで来た。


「どうしたの。あまり誰何に聞かれたくない話っぽいね」

「ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」


 革袋の中から、例の黒い石を取り出し手渡す。チャッポは神妙な顔で数秒ほど眺めた。


「これ、ひょっとして『玄晶』? よく手に入ったね」

「その通り、さすがだな。で、手に取ってみて、何か感じないか」

「波動のことなら、魔力が低い僕ではちょっとわからないなあ」

「直感的でいいんだ。例えば商家の息子として、とかな」


 チャッポは玄晶を光に透かしたりしてしばらく見まわしたのち、俺に返した。

 

「う~ん。あえて言うなら、ワクワクしないね。僕は宝石の原石とか見るのが子供の時から好きなんだけど、なんかこう、いいもの! っていう感じが無い……あ、ごめん。言いすぎちゃった」

「いやいや。すっごい言い得て妙だと思うぞ。俺も言葉は違うが、同感だから。しかし……その様子だと、まだキナイア商会では取り扱っていないのか」

「うん、それがね。実は、ちょっと困ったことになってるんだ」


 眉尻を下げ、うつむき加減で話し始めるチャッポ。

 聞けば、南部の辺境領で見つかった玄晶の新鉱山三ヵ所全て、既に別の商会が採掘権を抑えてしまっていたという。


 俺たちはベンチに腰を下ろし、話を続けた。

 

「それは王国法的には独占禁止に当たるんじゃないのか」

「今回は領法が優先されるんだ。見つかった辺境領スーサは元々産業に乏しく貧しい地域でね。特産ができた時はその裁量を領主に一任するって約束が、王国と取り交わしてあったって」

「スーサにとってはいい話だな。キナイア商会としては残念だったろうが、まあ誰が悪いって話でもないし」


 チャッポは口をへの字に曲げ、不服そうにした。

 

「でも、納得いかないんだ。父さんは詳しく話してくれなかったけど、専売までの手際が良すぎるって。スーサの出入り商人じゃないらしいのに」

「商会仲間じゃないのか」

「新しく立ち上がったばかりみたいなんだけど……父さんも、こんなに不明瞭なのは腑に落ちないってこぼしてた」


 新発見と新興事業、果たしてどっちが先なのか。このタイミングで示し合わせたようで、見えるものは少ない。どうにも、ザワザワする。



 その胸騒ぎが変則的に現れたのは、チャッポと話してから二日後だった。

 

「今日は随分と少ないな」


 放課後。『公園(フォルム)』の部活で大講義室に集まったのは、なんといつもの半分ちょい。ただ、原因はだいたいわかる。

 一年生はクラスごとに順次オリエンテーリングに入っている。俺たち1-Aも明後日だし。そして再来週は中間テスト。その辺りだと思うんだが……


「単純に、セラフィナ様がお休みしてるからじゃないの?」


 ミルマリ、大正解。それ目的の人、やっぱり結構いたんだなあ。軽くショック。

 

「出入り自由の掛け持ち部とは謳ったものの、ここまで減るとちょい寂しいな」

「あたしはこれぐらいのほうが、落ち着いてできるからいいかな」

「そうか……じゃあミルマリの他、循環が安定している人たちを中心に、次の段階に行くか」

 

 ───と。静かな大講義室に、ドタドタと鈍くも慌ただしい足音が響いてきた。扉を開けて勢いよく入って来たのは、チャッポだった。


「どうしたんだ、そんなに血相を変えて」

「はあ、はあ……ケイ君っ。ちょっとこれを見てよ」


 チャッポは顔中汗でいっぱいなのもお構いなしに、ポケットから布に包んだ何かを取り出して、開けて見せた。銀細工のペンダント・トップ。その真ん中に、闇夜のように黒い石がはめ込まれている。


「綺麗に加工してあるがこれ、『玄晶』だな」

「やっぱりわかるんだね。クッカから借りてきたんだけど、くれた友達もそう言ってたって」

「友達? もらった?」


 情報がつかめなさすぎて、ついバカみたいに言葉を反復してしまった。


「あ~! 玄晶って新聞で話題のやつでしょ。見せて見せて!」

「本物なのか? おれも見たい」

「私も~」


 ミルマリのひと言を皮切りに、学年クラス関係なく、わあっとチャッポの周りに集まってきた。しかし、もみくちゃになるかと思えば、皆おとなしく遠巻きに見ている。


「それか? なんか思ったより地味だな。黒だし」

「台座はちょっと安っぽいね」

「僕これ、同じものをクラスの女子から勧められたよ。『新発見の石で、身に着けると力が湧いてくる』から試さない? って」

「クッカがもらった子と同じだ」

 

 チャッポがびっくりして食いつく。俺も気になって訊いてみた。


「その子は誰から手に入れたとか言ってなかったか」

「七番街辺りで偶然出会ったって。スーサから来た行商人だとか」

「───!?」

 

 俺とチャッポは、思わず顔を見合わした。


「ケイ君……」

「ああ。どうにも面倒くさいことになってきた気がするな」

 

「───へいへい、ちょっとご免すらぁ」


 集まった皆の後ろから、呑気な調子で誰かが分け入ってくる。ラエルだ。

 文机の上に置いたペンダント・トップを手に取るなり、眉をひそめて観察を始めた。左目に掛けた単眼鏡(モノクル)が、ぽおっと青く光っている。

 

「……へえ~。これが噂の石ねえ。随分とへんちくりんだ」

「どうだ天才。何かわかるか」

「おう。今『微視の世界(マイクロワールド)』っていう、オレ様のオリジナル魔術で見通したんだけどよ。確かに、オレが知る限りの鉱物組成じゃねえ。っていうか、〝逆〟だな」

「逆?」

「構造的に、波動を出すんじゃなくて吸うタイプってことよ。こいつ自体スカスカだからな。ただ……今ちょっと魔力を流してみたけど、吸わなかった。愛想の無ぇ石だぜ」


 ラエルはひと通り検証を終えると、ペンダントをチャッポへ返した。

 そして単眼鏡(モノクル)の位置を整えつつ、不穏なことを言い放った。


「ここにいるやつらには言っとくけどよぉ。それ、身に付けねえほうがいいぜ。こんなもんで力なんて湧かねえ。むしろオレの天才的勘から言って、〝やべえ〟」

「やべえって、何だよ」

「結論。そいつは鉱物じゃねえ。『未分類の何か(アンカテゴライズド)』だ。なのにオレ様の研究意欲をかきたてねえ。変なやつだぜ」


 ラエルはそれだけ言うと、席に戻ってまた流気の瞑想を始めた。パチパチと弾けるような、独特の気の表情を循環させながら。集まった皆も、併せて席へと戻っていく。うん、今日の参加者は全員真面目。


未分類の何か(アンカテゴライズド)……か」


 魔術院でも検証で意見が分かれていると、陛下も言っていた。王国としても判断がついていない得体のしれないものが、密やかに学園へと忍び込んでいる。


 ラエルいわく「やべえ」。なのに、パズルのピースを集めるところから始める難解なイベントに、ちょっとワクワクしている俺がいる。

 良くない方向へ転がると、後でわかったとしても───

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ