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2-2.

 昼休み。お腹を限界まで空かせた食べ盛りが、切れかけの活力を燃やし尽くして群がる食堂。


「なん……だと」


 今日の学食メニュー、Aランチに『コンビーフポテト』と書いてある。こんなもの、一択じゃないか。

 チャッポとミルマリが半分呆れながら笑っている。


「ケイ君の目の色がすごい」

「ほんっとに好きねコンビーフ。あたしはしょっぱ過ぎてちょっと苦手かな~」

「ふっ、働き者は常に塩分が必要なのさ」


 ……って、おとんもよく言っていたが、その度におかんやバスチァンから健康談義を受けていたのを思い出した。

 テーブルに着いて、あらためて今日の〝逸品〟を眺める。皮つきのゴロゴロしたポテトにコンビーフが絡まっているのを見るにつけ、口の中の唾液腺が決壊する。


 いつものおかず交換を終えつつ、毎日よくネタが続くなっていうぐらいにランチタイムの雑談に花が咲く。


「───へえ例の地震で出た石、『玄晶』って名がついたのか」

「見つかってまだ一週間、流通前に調べてる段階なんだけど、魔素との親和性がかなりあるんじゃないかって」


 新しい鉱石の発見に、魔術院は上へ下への大騒ぎだとは聞いていた。魔術は日常生活から戦争まで、あらゆる利便に直結する。ひいては経済にも影響するわけで───チャッポの様子からしても、キナイア商会がどれほど期待を寄せているかがわかる。


「また鉱石に合わせた魔術特性を覚えなきゃいけないのだけ、面倒だなあ」

「俺が魔術を覚えない理由、わかるだろ」

「魔術の技能度は貴族の場合、家格にも関係してくるから。仕方なくやらなきゃってのもあるんだよね。僕の家は商家だからまだ気持ちが楽だけど」

 

 仕方なく……か。

 チャッポだけじゃない。この学園では───特に貴族の子息令嬢は、自分たちが選んで採る道に「家」というものが漏れなくついてくる。個人の好き嫌いや得手不得手に関係なく。俺がみんなと話していて(つまず)く部分はだいたいそこだ。それを面倒と感じているから、余計に。

 

 ミルマリが珍しく心ここにあらずな調子で、パスタをフォークで巻き続けている。

  

「今朝のHR(ホームルーム)で、オリエンテーリングと中間試験の話が出たじゃない。学生らしくなってきた! って思う反面、落ち着かない~」

「俺はどっちも初めての人生イベントなんで、楽しみにしているが」

「ケイ君は本当に動じないね。でも僕たちAクラスはみんなピリピリしてると思うよ」

「何でだ」

「オリエンテーリングは人間力、中間試験は学習力を判断されるんだ。特に試験の結果は年次のクラス替えに関わるからね」

「クラス替え……そうか。俺たちって入学試験で一番上だったな」

「そ。学園での結果は将来にすっごく関係する。だからみんな水面下ではキープするのに必死なんだよ」


 俺、なんっにも考えていなかった。

 ミルマリにはバレているが、俺はそもそも筆記試験も無で入学している。最悪、つまんなくなったら山に帰ればなんて思っていたし。今これ声に出したら全員から総スカンだろうな。


 いやいや。俺もふわふわしているばかりじゃダメだな。せっかくできた「仲間たち」を無下にしないようにしなくては。

 

 

「───あ、生徒会。セラフィナ様だっ」


 彼女の翠の瞳が、俺を捉える。軽く会釈をすると、俺の方へ歩み寄ってきた。


「ごきげんよう、ケイ。わたくし、しばらく『公園(フォルム)』をお休みいたします。王城の行事と中間試験が続いておりまして」

「お忙しそうですね。ウチは出入り自由ですからお気遣いなく。あ、自主練は欠かさないように」

「うふふ。心得ております。そちらもオリエンテーリングがあるでしょうから、ご無理のないように」


 小さな笑い声を置き、にこやかに去っていくセラフィナ。その直後、周囲から何とも言えない視線の圧がかかる。

 

「相変わらず目立つから、衆人環視の中でしゃべるのは気が引ける」

「さっきの話で言えば、学園が課す全てをクリアしてる頂点集団だから。憧れと指標だよ」

「でも、セラフィナ様って話すとちょっととぼけた感じがして、それでまた親近感が湧くのよね~」


 部活『公園(フォルム)』が王女交流会みたいになっている側面もあるんだが、それもひとつの方向性。何せ自由だから、そこから何かが派生するのを考えるのは楽しい。


 セラフィナが戻り終えたところに、見覚えのある眼鏡をかけた女子がいるのに、三人とも気が付いた。


「ユスティだ。入れたんだね、生徒会に。さすが入学試験の筆記、満点の才媛」

「きっとあの眼鏡、答えが見える魔道具よ」

「ミルマリの毒舌がすごい」

「だってケイのことを妙に敵視してるんだもん。ケイの敵はあたしの敵っ」

「でも……何だか、前にも増して表情が硬いね」

「父親の顔に泥を塗らないようにって、気負いがすごいからじゃない? 代々法の番人である名家だし」

 

 父親は法典院───王国法を司るところの偉いさん。

 生徒会は力とコネ両方が成り立たないと入れないって言われているが、彼女は兼ね備えた人材ということか。同時に、二人して言う「家」を背負いこんでいる。


 ユスティにはどれほどのプレッシャーがあるのか、知る由もないが……どこか壊れそうなのだけは気にかかる。腹が立つことがあったものの、別に彼女のことは嫌いじゃない。感情と事実を切り分けるのは得意だし。


 ただ、彼女が俺のことを嫌いだっていうのはわかる気がする。こっちはひたすら自由だから。そして、おとんとおかんが何者であろうとも、俺は俺。

 



 色々思うところがありつつも、好物で胃を満たし、ご機嫌で教室へ戻る。そこへ、クラスメートが駆け寄ってきた。


「ケイ。ついさっき教頭先生が来て、至急、大演舞場に来てくれって」

「大演舞場? ありがとう。何だろういったい」


 教頭先生が呼びに? この脈絡のない登場、以前にもあったような。

 入学初日の見学で、グリオンとやりあったところだな。あんまりいい思い出が無い場所にわけもわからず、ただ足早に向かった。


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