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どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。  作者: ポンジュレ
Ⅰ 両親が英雄だなんて聞いてない
15/22

1-15.

 演習場での決闘から2日後。セラフィナ王女から〝面会〟のお知らせ書状が届いた。

 王城からの伝令騎士がやってきたときは何事かと思ったが、友人枠でのお誘いとあってだいぶ気が楽になった。


 そして当日。バスチァンとドメに気合のセッティングを施してもらい、お迎えの馬車で登城。うちの邸ってほんっと学園と王城の真ん中ぐらいにあるんだな。作為的に感じるのは気のせいか。


 真昼に星空が降りてきたような、煌々と照らすシャンデリアの下。騎士に従い応接の間へ案内される。

 

「ようこそ、レジクシオン城へ。お会いするのを楽しみにしておりました」


 セラフィナがしずしずと現れた。爽やかなミントグリーンのドレスが、瞳の色によく合っている。


「そう言ってもらえて嬉しいです……でいいのかな、今日は」

「ふふ、面会ですからね。心得があるようで何よりです」


 お茶を用意してくれたということで客間へ。いつも二人の護衛騎士が離れる様子のないことから、「二人きりで」が事実上無理な相手だと、やっと理解する。


 そんながっつりガードを背景に。客間で香りのよい紅茶と、カラフルで香ばしい、謎の丸い焼き菓子にまずは舌鼓。


「これ、美味しいですね。俺は甘いものが苦手なんですが、ちょっと別格かも。このさっくりもっちりした独特の食感がクセになる」

「ティスリカ菓子店の『マカロン』です。王都では大変人気で、なかなか手に入らないのですけれど、今日は運がよく」


 どこで売ってるのか気になってみれば、クラスメートのクッカの実家だ。そういえばこの菓子名、どっかで聞いたことがあるんだが……まあおいといて、早速本題へ。


「こんな席で……いや、こんな席だからこそ率直に。ずっと謝罪をしようと思っていたのに、今日まで来てしまったことをまずお詫びしたく」

「まあ。謝罪をするためのお詫びって、不思議な言い回しですね。わかっていますから、手短にします。『気にしておりません。お忘れになって』」


 俺の半月以上にわたったお悩み案件は、涼やかな微笑とともに去りぬ。


「ありがとうございます。ずっと責任を取らないとって頭にもたげ続けていましたから」

「責任、ですか」

「家訓もありましたんで、これは結婚せざるを得ないなと」


 セラフィナは大きく目を見開き、(みどり)の瞳をくるくると揺らす。


「……ぷふっ」


 破顔寸前の口元から笑いが漏れる。慌てて扇を開いて隠したものの……真っ赤になった耳をのぞかせて、プルプル震えている。慌てて駆け寄ってくる侍従の人たちを制すと、深呼吸をした。


「……はあ。もう、何てことを言うのかしら。王族であるわたくしの……見たから? ……ぷぷっ。もうダメ。やっぱり無理」


 また扇を開いて中断。何でバカ受けしてるのかわからんが、打って変わって歳相応の女の子な感じで、俺的には親近感がぐっと上がった。

 護衛たちの目が怖かったが、ひとしきり落ち着いたところで再開。


「実は、わたくしのほうこそ、今日は謝罪をしたくて席を設けました。弟ノエルのことです。暴走したのも、あの件を共有したのが発端ですから」


 ああ~、やっと合点がいった。つまり俺が〝見た〟ことを許せなかったのか。シスコン極まったな。それより、そんな些細なことまで共有事項になる王族が怖すぎる。

 

「それこそ気にしなくても。決闘は最初から1ミリも負けるとは思ってませんでしたので。学園長にも責任は持つって言われてましたし」

「わたくしも母───女王からケイのことをお聞きして、当日は少し安心して迎えてはおりましたが、ノエルは知らないままにしてしまい……究極王技を放った時はさすがに心臓が冷えました」


 胸を押さえて、やさしい笑みを(たた)えながら。でも今はそれに見惚れるタイミングじゃなくて。


「いま『女王』様って言いましたが。ひょっとして、俺の両親のことを」

「ええ。真に伏して謝罪の限りを尽くさねばならないのは、わたくしどものほうなのですよ、ケイ〝様〟」


 そうか、一国の長も知っているのか。両親が(ほま)れなのは本当に嬉しい。だが……

 

「〝様〟はやめてください。俺は何もしていないから、敬うのは間違いです。それに、俺にとっての両親は、山で一緒に笑って過ごしたのが全てなんで。しかし最近は『何で黙ってたんだ』ってぶん殴ってやりたくなりますがね」

「殴っちゃう……のですか、あの救国の英雄を」

「殴ります。おかんは説教です」

「あははははっ……はっ?」


 セラフィナがついに声を出して笑った。周囲の侍従や騎士もぎょっとなってガン見しているし。気が付くなりまた耳が真っ赤になってるし。これ見てるだけで面白い。

 すうっと笑みを引き、王女らしいお顔を整えると、真っすぐに俺を見た。


「本当に不思議な人です。粗野でいて品性を欠かさず。粗雑に見せかけて繊細。粗暴に潜ませた温情。こんなに奥行きがある人物は、わたくし、今までお会いしたことがありません」

「べた褒めで嬉しいです。何より、俺を育ててくれた両親や、家族同然の侍従たちが褒められてるようで」

「その自然に身に着いた謙虚さがまた、素敵です───」


 

 

 ───(視点変更)───


 

 わずか二時間ほどだったが……セラフィナにとって、かつてない愉快な時間。ケイとの約束を果たし終えた彼女は、その余韻に(ふけ)っていた。

 

(本当に、信じられない。あんな男性がこの世にいるなんて)

 

 客間の窓から、ケイの乗った馬車が去っていくのが見える。やがて胸の奥から、何とも言えない(うれ)いがこみ上げてきた。

 

(もっと、もっと早く出会っていれば……いえ。出会ったところで、わたくしの人生の道が変わるわけでもありませんのにね)


 英雄が両親などまったく意に介さず、力強く自分の道を往く。セラフィナは、ケイの存在が只々まぶしく思えた。


 客間の扉からノックが響く。護衛騎士が開けると、女王レイアーネが息せき切って現れた。


「お母さま。どうなさったのです、そんなに慌てて」

「ケイは、もう帰ったのですか」

「はい。つい今しがた」

「んもう~っ。だめじゃないの〝セラ〟。私の公務がひと区切りつくまで、引き留めておくようにと頼んだでしょうっ」


 公的な場所で、急に「母子二人きり」の時のようなくだけた話し方をするレイアーネに、セラフィナは少し驚いた。


「申し訳ありません。どうしてもお帰りになると聞かなかったので」

「……そうね、ごめんなさい。無理を言いました」


 レイアーネは肩を落としてため息をつくと、そそくさと客間を後にした。

 

 書記から予定を聞きながら、次の公務へ足を早めるレイアーネ。しかしその心中は穏やかではない。


(くう~……せっかくケン様のご子息にお会いできるチャンスだったのにっ。16年も辛抱したのにぃ。ええい、こうなったら意地でも公務を片づけて、時間を作って……ああ、ケン様ぁ~)


 女王らしからぬ鼻息の荒さで、ずんずんと廊下を歩いていく。そのさまに、すれ違う王城職員たちは何事とばかりに引いていた。

 


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