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どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。  作者: ポンジュレ
Ⅰ 両親が英雄だなんて聞いてない
13/22

1-13.

 放課後、『ケイ部(仮)』で流気を使った瞑想タイムを始めて一週間。17人中10人が循環をし始めており、残りは開孔はしているが、呼吸リズムを整えている状態だ。


「これよぉ、マジですげぇな。研究で二徹するときがあるけど、すっげー疲れにくくなったわ。極めたら六徹ぐらいいけそうだな」

「睡眠は呼吸リズムに関わるから、きちんと取るべきだぞ。ショートスリープにシフトするのもありだと思う」

「なるほど。おれ大概自分が天才だと思ってたけどよ、お前もすげえな」


 ラエルって、頭がいいなんてもんじゃないらしいんだが、この妙に人懐っこいところと口の悪さのギャップが面白い。


「……ふう。なかなか回らないなあ。難しいね」

「ほんま。キタ! 思ったら逃げてしまうねん。何とかマスターせんと、ナイスバディへの道が……」

  

 チャッポとクッカは横並びで呼吸練習をしている。親同士が知り合いだったらしい。どちらも似たような進捗状況なので、揃っていると見やすい。


 ミルマリ、グリオン、ルミナはすでに無意識に循環に入っていて、かなり優秀だ。次の段階に行けそうだが、なるべく参加者の足並みを揃えたいところだ。

 とにかく回ってからがスタート。全員できるまで責任をもってフォローしていく。


 ほどなくして……ノックの音が響き、教室の扉が開いた。


「あ、アガ先生。お疲れ様です」

「すまんケイ。見学希望者なんだが」

「構いませんよ。どうぞ入ってもらってください……───あっ!」


 全員、呼吸練習を忘れて騒然となる。


「セラフィナ様だっ」

「みなさま、部活動中に失礼いたします」


(くすぶ)ってた案件〟───まさか王女からこっちへ接触があるとは。しかしコブ付き。俺にケンカを売ってきた弟ノエルと、赤毛のガタイのいい男。


 相変わらずのオーラを放つセラフィナだが、俺を見る(みどり)の瞳が微妙に揺れている。


「生徒会より創部確認で参りました。あなたが部長ですか」

「はい、一応」

「学園長にお伺いしましたら、実地見学を強く勧められました。事前連絡もなく申し訳ございません」

「ご苦労様です。まあ、見ただけでは何をやっているかわからないと思いますが」


 もう一方の翠の瞳は、相変わらずのガン睨み。

 

「創部届の内容を読んでも意味がわからない。そもそも部活動の名前も仮だ。怪しげなことをしていないか確認するのは当然だろうっ」

「学園長が認めて、顧問の先生まで就いてるのに、怪しげであると?」

「くっ」


 ちょっと意地悪く返しただけで黙り込む。こいつ……どうも俺に何をか言わんやな態度をずっと取り続けてるが、さっぱりわからん。物語にある「シスコン」っぽいのだけはわかるが。


「ノエル。どうしてもと言うから同伴を許しましたのに。ブラドレ君、この子を連れて生徒会室へ戻ってください。わたくし一人で見学いたします」

「それはなりませんっ。私は姫の護衛ゆえっ」


 このブラドレという赤毛の男は、毎回不必要に声が大きいな。ひっくり返った虫の次に俺が苦手なタイプだ。

 

「あの~、そういうのはここに来るまでに決着をつけておいてくれないと。この部活って静寂が肝心なんで」

「この無礼者がっ。我々に意見するとはっ」

「いい加減になさいっ」


 王女(セラフィナ)がキレた。別な意味の静寂がどぉんと降りる。

 1秒が経過。周囲の様子にハッと気づくと、彼女の顔は真っ赤になった。


「───セラフィナ様、ごきげん(うるわ)しゅう」

「ルミナではありませんか。あなたもこの部活動を?」

「はい。まずは、差し出口をどうかお許しくださいませ」

 

 ルミナがそっと前に出てきて、任せろと言わんばかりに、俺にウィンクをする。


「セラフィナ様でございますなら一目瞭然と思いまして。私共はケイ様の指導で、このようなことを行っております」


 そう言ってルミナは、流気の循環をぱあっと可視化させた。

 ひと目みるなり、口に手を当てて驚くセラフィナ。

 

「まあっ、これは魔素……いえ。活力そのものが身体に沿って循環しているような」


 俺はというと、一目で分かったセラフィナと、既にここまで達していたルミナの両方に驚いた。ルミナはすっと下がり、続きを促すように俺に合図した。すっげえナイスアシスト。


「ルミナ、すごっ。くう~、いいところ取られたっ」

 

 ミルマリらしい率直な負けん気は微笑ましい。

 

「『流気』という、生命活動の効率化を行う技能です。平たく言えば、筋力や魔力などの使用負担を軽くすることができます」

「そんなことが……いえ、出来るからこれだけの人数が集まっているのですね。なんて素晴らしい」

「姉上、見聞は終わりましたし、もう戻りましょう。こんな場所に長居は無用です」


 セラフィナはノエルが吐き捨てるように言うのも意に介さず、何やら真剣に考えている。やがて彼女は俺に向けて、翠の瞳を輝かせながら(のたま)った。


「ケイ、でしたね。わたくしも明日からこの部活動に参加いたします。構いませんか」

「光栄です。きっとお役に立てるかと」


 二つ返事をするなり、ノエルが叫んだ。

 

「んなああ───っ! 何を言い出すのですか姉上っ。こんな下賤(げせん)に教わることなど何も無いでしょうっ」

「それはあなたが決めることではありません」

 

 セラフィナがバシッと(たしな)めてくれたものの。

 この王子、クラスのみんな「王女が部活にっ」って色めきだったのに、一瞬にしてぶち壊した。何より自分の発言がここにいる全員を(おとし)めるとか、少しも思わないのかね。


「んぐぐ……下賤(げせん)がっ、もう許せんっ」


 ノエルは制服のジャケット内側から白い布を取り出すと、俺に叩きつけた。よく見るとそれは、手袋だった。クラス中に恐れのざわめきが起こる。


「明日の放課後、演習場へ来いっ。僕が勝って即、この学園を追い出してやるっ」

「ケイ、受けてはなりませんっ。わたくしの名において、これは無効です」


 ああこれ、決闘申し込みの作法か。回りくどくて面倒な人種だ。


「俺が勝ったらどうしてくれるんだ。報酬も無いのにやらんぞ」

「万にひとつも下賤(げせん)ごときに勝ち目はないっ。だが聞くだけ聞いてやるっ」

「では、セラフィナ様。以前にも少し申し上げましたが……あなたと俺、二人きりで話す時間をいただけませんか」


 俺は胸に手を当て、礼の姿勢を取る。セラフィナは目を丸くして、耳が真っ赤に。

 その瞬間クラス中から、なぜかわからんが歓声が湧き上がった。


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