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デッドリィ・ストライプ  作者: 鳩峰浦
第二章 ハルシネーション・モンキーズ
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2 解析/口づけ/袋小路

 補佐の連絡で、第二小隊全員がミーティングルームに集められた。


 部屋の中には、補佐と矢島さん、それから夏美ちゃんが座っていた。


 「解析結果は、チンパンジーとゴリラ」


 矢島さんは白い手袋をした手で、ピンセットを使って器用に、一本の茶色い毛をつまみ上げる。


 「おおー、俺の推理、当たり?」

 「小松さん、動物園って言っただけじゃないですか」

 「だから、あれだろ、装甲具着た飼い主が、猿をいっぱい放ったんだろ」

 「何でそんなことするのよ」

 「餌代に困ったんじゃね?」


 く、くだらない……。

 矢島さんの目もどんどん細くなっていく。興味の無くなるほど、矢島さんの目は消失する。


 「この毛から、装甲具のオイルが検出されました」


 夏美ちゃんが、ミーティングルームのモニターに映したグラフをを指差す。


 「飼い主の装甲具のオイル?」

 「こちらの動画を」


 夏美ちゃんが人差し指を右回りにくるりと回すと、モニターで動画が再生される。

 倉庫の裏手の通りか、木箱や鉄パイプ等の資材が雑多に置かれている。映像は不鮮明だが、何かがもの凄いスピードで駆け抜けていった。


 夏美ちゃんが人差し指をゆっくりと左回りに回した。同じ動画がスローモーションで再生される。


 人間の動きじゃない。

 四つ足で駆け抜けていく。


 「ええっ?!」

 あたしは思わず声を上げた。


 小松さんも憮然とした表情。 あれは、自分の推理が外れていじけているっぽい。

 風間君は……何かちらっと夏美ちゃんを見たような。 

 男性陣は放っておこう。


 「装甲具を着た……猿?」

 「はい、正解。 第二小隊に伝わって良かった」


 矢島さんが本当にほっとしたような顔をした。 めちゃくちゃバカにされたような気がするが……。


 「なんなんですか? これ? 動物用の装甲具なんて……」


 「そうです。 少なくとも日本にはありません。 ただ、旧EUの一部で、研究をされていたというデータがあります」


 えー、気持ち悪い。 動物に装甲具って……。 


「西園寺、今日は冴えてるじゃないか」


 私が暗い表情をしたのを、佐藤補佐が感心したように見つめた。


 「……兵器転用ですよね」


 「そうです」


 考えただけで、気分が悪い……。 よくもそんなこと思いつく。


 「人間よりも筋力や運動機能に優れた動物に、人間を標的にするようしつけて、装甲具を着せて攻撃させる。 実際に戦場で用いられた記録もあります。 ただ、数回の着用で脳神経が破壊されたり、そう、それこそリミッター解除状態で暴れて、身体がちぎれて死んでしまったり……そもそも動物の身体に合わせた装甲具を開発するのもコストが高く、その割に扱いづらいということで、廃れていった研究です」


 うぅ~……綺麗な顔で夏美ちゃんが話すと、絶妙にグロい。気分悪くなってきた……。


 「で、日本でその研究を続けてるやつがいるってことですか?」


 お、小松さんが復活した。


 「そうなるな。そして、篠崎の話のとおり、これは危険な技術だ。 飼い主の技術者が、なぜこの倉庫を荒らさせたのか、動機は不明だが、装甲具を着た動物に襲われたら、生身の人間なんて瞬殺だ」


 確かに、あんなバカみたいなスピードで動くやつに飛びかかられたら、下手したら腕とか首とかもげるんじゃないか。


 こわっ!


 「一応、この出没地域には、危険な野生動物の目撃証言ありっていう注意喚起情報を出してる。装甲具着てるとか言っても話しがややこしくなるだけだからな」


 「周辺の全防犯カメラ映像と、アマテラスの衛星記録画像と全て組み合わせて、可能な限り行き先を補足した結果がこれです」


 夏美ちゃんがモニターに向かって人差し指を二回振ると、中央区と新港区の境の埋め立て地のあたりがゆっくりとアップになる。


 「この一体、あの大地震の後、地盤がぼろぼろで廃工場地帯になってるんです」

 「うわ……秘密のアジト的な?」

 「と、言うことで、仕事の内容は分かったかな?」

 補佐の問いかけに、あたしは小松さんと風間君とアイコンタクトをして、うなづいた。


 ***


 餌はばら撒いた。

 廃工場に誘い込んで、チャーリーとリンダと、今回はフレディでいこう。


 「レナ、どうだいこの計画は」

 「そうね、ちょっと待って」 


 僕の渡したデータを、レナは速やかに点検する。廃工場の地形と、チャーリー、リンダ、フレディの配置を、少しずつ修正していく。

 「研究協力者からもらったデータで、少し修正したわ」

 「さすがだね、ありがとう」


 レナは、計算も完璧だ。

 賢く、気高く、美しい。

 完璧な女性。


 「あなたの役に立てるなら、それより嬉しいことはないわ」

 レナが僕に向けて微笑む。

 艶やかな金色の髪、薄い水色の瞳、白い素肌に良く映える赤い唇。


 「あ……だめよ。 もう……チャーリー達のメンテナンスを…」

 僕は彼女の胸元に触れながら、その唇にゆっくり口づけをした。

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