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デッドリィ・ストライプ  作者: 鳩峰浦
第一章 デッドリィ・ストライプ
49/58

48 天使

 黒い奴の全身から力が抜け,右拳の光りも消えた。

 

 崩れ落ちる黒い奴の脇をすり抜け、2号機に向かう。炎の中を全力で駆け抜ける。

 

 放り投げた黒い奴のバッテリーが地面に落下し,乾いた金属音が響き渡った。

 

 2号機の横に座り、どうにか右手で2号機の上体を起こし、右肩にもたれかけさせるように起こす。

 「もうちょい……」


 ほとんどの機能が停止したイザナギは、巨大な金属の固まりだ。

 火の勢いが増している。


 死なせない。


 俺はあの時の俺じゃない。


 2号機の右腕を掴んで背中に背負う。

 損傷率が一番ましな、ローラーの回転数を一気に上げる。

 火の海の中を駆け抜ける。


 爆炎を突き抜け、火の手から離れた敷地に転がり込む。


 周囲の安全を確認し、2号機を地面に降ろす。


 切り抜けた。

 生命反応は……。

 ある。


 英理は生きている。


 後は早く救護班に治療してもらおう。


 横で倒れている風間も,生命反応は正常だ。


 ふと見ると、俺のイザナギの神経伝達率は、まともに動ける限界値をはるかに下回っていた。

 何で動いてんだ、俺とこいつは。


 ありがとう。


 終わったか。


 全身が、鉛のように重くなった。

 その瞬間。



 俺は目の前に迫ってきたサイクロンに体当たりされ,倉庫の壁に押し付けられた。



 サイクロンは,バッテリーのショートを念頭に置いた,最新型の予備電源タイプ。



 前に佐藤補佐官が言ってたじゃないか……。

 

 最低のミスだ。

 

 予備電源が生きていた。

 

 壁に押し付けられ,身動きが取れない。

 

 体を押し付けたまま,サイクロンが右拳で俺の腹の辺りに打撃を加える。

 

 下肢の神経伝達率が30%を切る。

 警報が鳴り響く。


 分かってんだけどさ。

 どうすんだよ。ちくしょう。


 サイクロンの右拳がもう一度俺の腹の辺りにめり込む。

 胴体の神経伝達率が10%を切る。


 「ちっくしょう……」


 サイクロンが、俺の頭を鷲掴みにした。

 万力のような力で、ぎりぎりと圧迫されていく。


 ******


 小松坂さん。

 助けなきゃ。

 小松坂さんを守らなきゃ。

 「小松坂さん・・・!!」


 ******

 「篠崎,後を頼む。第1小隊も距離的に間に合わん。俺が予備の装着具で出る。」


 部隊を守る。そのためには,もう他に手がない。


 「補佐! 自殺行為です! サイクロンは、装着具の出力で太刀打ちできる相手ではありません!」


 「上手くすりゃ,予備電源のコードくらい切れるさ……」

 一発食らったら即死だけどな。

 

 ま,俺はこんなとこで死なないぞ、と。


 司令室を飛び出そうとした、その時だった。


 「2号機,リミッター解除!?」

 

 なんだこれは。


 「どうなってる篠崎……」


 西園寺の脳波,心拍,神経伝達率,いずれもモニターができない。


 「分かりません……。生命保持モードも強制解除されています。プログラムが制御不能です…。リミッターがロックされていません」

 

 リミッター解除の許可は降りてない。

 

 なにより、システム上,リミッターが解除されるはずがない。

 

 短時間でのリミッター解除の影響なのか,脳波や神経伝達率がモニター不能の値になってる。


 脳神経が壊れるぞ。


 「補佐権限で強制コード発出指示。バッテリーの強制停止コードを打て!」

 「バッテリー停止コード発出……拒否?!」


 ******


 ゆらりと立ち上がった2号機は,次の瞬間,俺を抑えつけていたサイクロンを後ろから抱き上げて投げ飛ばした。


 2号機の回線から,チューニングのずれたラジオのような激しいノイズが流れ込んでくる。


 しかしそのノイズは,不快なものではなかった。信じられないが,眠気を誘うような,心地よさがある。


 まるで,子守唄のような。

 俺を包み込むような。

 天使のような。

 こんな時なのに、温かさで涙が出てくるような。

 

 数メートルも吹き飛んだサイクロンに向けて,2号機が突進していく。


 2号機は,サイクロンの背中にある予備電源用のバッグパックをつかみ,力づくではがし,回線ごと引 きちぎった。

 

 サイクロンから激しく火花が散る。

 

 もういい、もう大丈夫だ。

 

 イザナギのローラーは2号機に近づく途中で停止し,おれはよろけながら、抱きしめるようにして、2号機を地面に押し倒した。

 

 2号機は,ぐったりと地面にうつ伏せになって,動かなくなった。


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