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あたしが黒い奴に手こずっている、ほんの数分間の出来事だった。
9機の装甲具を、風間君が一掃したのは。
信じられない光景だった。
最後の一機のバッテリーを引き抜いてすぐ、風間君は倒れこんだ。
どうして?
立ち上がらない……。
「風間君!」
通信が繋がらない。
「うぁあぁぁぁぁ!」
小松さんの頭を、2機目の黒い奴が両手で掴んでいる。
「こっの……くそ……」
稲光が宙に浮いた小松さんの身体を照らす。
「小松さん!」
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
まただ。
またあたしは、目の前の奴を倒せない。
子供みたいに、無力。
雨と風が一層強くなる。
力が欲しい。
嫌だ。
小松さん。
死なせたくない。
あたしは昔のあたしじゃない。
力が欲しい。力が欲しい。あたしに力を……。
「……補佐!」
「……西園寺。頼む」
******
信じられない動きだった。
あれが風間の本来の力なのか。
しかし、その風間が応答しない。
感電した? いや,そんなデータじゃない。
状況が全く分からない。
いずれにせよ、あの状態で襲われればひとたまりもない。
小松坂のダメージも深刻だ。
全滅する。
第一小隊の到着まで,あと10分。
他に選択肢はない。
「課長代決権行使! 西園寺のリミッターを解除!」
「了解です」
待ち構えていたように篠崎が動き出す。
「2号機のリミッターを解除します」
気のせいだろうか。
ほんの一瞬だったが,モニターの光りに照らされた篠崎の目に,喜びのような輝きが宿ったように見えた。
「リミッター解除。解除限界時間1分30秒です。」
****
さぁ。
この先を。
リミッター解除の2段階目に進もう。
小松坂を生贄にして。
****
世界の動きが遅くなる。
雨粒がゆっくりと落ちていく。
遅くなった世界の中で,あたしだけが自由になる。
雷光みたいに。
黒い奴の蹴りが止まって見える。
蹴りをすり抜けて,駆け抜けざまに,黒い奴のバッテリーを力づくで引き抜く。
倒れた風間君に襲い掛かろうとしていたリキラクのバッテリー部分を蹴り飛ばし,バッテリーごとバックパックを破壊する。
解除限界時間1分20秒。
風間君に向かおうとしていた6体の装甲具があたしに群がってくる。殴りかかってきたアックスⅡをカウンターの張り手で弾き飛ばし、ロッドレーバー3体のバッテリーを次々に引き抜いていく。
地面に落ちているケーブルが放電して火花を放っている。あたしはケーブルの根本を掴んで、残りのアックスⅡに投げ込む。感電して倒れる装甲具。
小松さんを掴んでいる黒い奴に向かう。
サイクロンがあたしの進路に飛び込んでくる。あたしがかわした先に急激に方向転換して踏み込んでくる。それもかわす。サイクロンの後ろに回りこむ。
コワシテヤル。
力任せに,バッテリーの入ったハッチを殴りつける。サイクロンの装甲がひしゃげるが,バッテリーまでは破壊できず,サイクロンがよろけながらもこっちに向き直る。
限界時間1分10秒。
サイクロンの頭部に右足で上段蹴りを入れ,よろめいたところに,あたしはコマのように回転して左足で回し蹴りを重ねる。サイクロンが吹き飛ぶ。
それでもすぐにこっちを向き,立ち上がろうとする。
じゃましないで。
限界時間1分。
サイクロンに飛び掛り,地面に押し倒す。馬乗りになって,頭部に打撃を重ねる。
補佐の声が聞こえた気がした。
もう良いとか、そんな言葉。
良いわけないじゃない。
こいつら、小松さんを殺そうとした。
限界時間45秒。
あたしはサイクロンから離れた。
小松さん小松さん。
小松さんを助けなきゃ。
黒い奴の両手が、小松さんの頭部にめり込んでいくように見える。
その後ろからアックスⅡが小松さんに迫る。
あたしはさらにその後ろからアックスⅡに接近し,一気にハッチを破壊してバッテリーを引き抜く。
「残時間30秒」
「小松さんを離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
黒い奴の脇に回り、薙払うように左の蹴りを放つ。黒い奴は小松さんを掴んだ手を離して蹴りをかわす。
黒い奴が間合いを詰めてくる。
黒い奴の右手が放電しているのがよく見える。
右手の打撃をかわす。
自由になった小松さんが横から黒い奴に蹴りを入れ,黒い奴がよろめく。あたしはそこに畳み掛けてさらにとび蹴りを入れる。黒い奴は両手でガードしたが,そのまま吹き飛んで地面に倒れる。
「残時間15秒。」
警報が大きくなる。
頭が痛い。
うるさいうるさいうるさい。 うるさい。
はやくこわす。
黒い奴の上に馬乗りになる。またさっきみたいに拳を振り下ろす。
腕でガードされる。しつこい。
じゃまだ
じ ゃまだ。
「ざん 時間 8 びょう。」
あったま いたい…。
ガードの すきまに右腕を振り下ろ す。黒い奴の 両腕 が左右に はじけ る。
続け てもう一発 左 腕を 振り下ろ す。
「ざんじ間3びょう。」
あた ころす
まが
いたい。
ころす
み ろす。
た す
「ざん じか ん0。」
ころ す
し こrす そ
ま r。
あ




