43 劣勢
強い風とともに、大粒の雨が降り出した。
「風間!右脇のケーブルを見ろ!」
敵が多すぎる。
風間は想像以上の動きを見せている。
しかし、6体のリミッター解除状態の装甲具を1体で相手にし続けることなど……。
「風間!ケーブルを引き抜いて、密集しているところに投げ込め。」
******
黒い奴の蹴りをかわし、がら空きの胸元を張り飛ばす。バランスを崩しながら、黒い奴は何とか倒れずに持ちこたえる。
すっごい高性能なオートバランス機能。
でも、これなら何とかなる。
風間君の状況を映したモニターが一瞬発光する。風間君の前にいた3体の装甲具が地面に倒れる。何か
を使って感電させたんだ。
小松さんの状況を映したモニターからは、小松さんが2体目のアックスⅡのバッテリーを引き抜く様子が見えた。
これで小松さんも2対1。
勝機が見えてきた。
これならいける。
そう思った、その時だった。
「何だこいつ…!」
小松さんの声が入る。やな予感が膨れ上がる。
「小松坂! もう一体海の方から来るぞ!」
補佐の声が響く。
一瞬,モニターを小松さんの方に切り替える。
状況が飲み込めなかった。
あの黒い装甲具が,小松さんに迫っていた。
何で? 黒い奴はこの一体だけじゃなかったの?
「装甲具反応!4体、5体……6体! B級リキラク3体、C級ロードレーバー3体!」
倉庫から橋を渡って、新たに6体の装甲具が風間君に迫る。
一瞬モニターに気を取られたあたしの目の前に、黒い奴の右回し蹴りが迫る。かわしきれず、あたしは両腕でガードする。
鈍い衝撃とともに、モニターに赤字で「左腕損傷率20%」の文字が浮かぶ。
9体の装甲具が風間君に迫る。モニターでとらえられないほどの動きで、風間君が一体のリキラクのバッテリーを引き抜いた。でも、その後ろから、リキラクの拳が、ロッドレーバーの蹴りが、風間君の頭や腰にめり込む。
小松さんが、黒い奴の蹴りを受け止めた。
黒い奴の動きがやけに速い。
あっちだ。こないだの奴。
着てる人が違う。
動きが全然違う。
サイクロンが小松さんに体当たりを仕掛ける。小松さんは吹き飛ばされながら、何とか転倒せずにこらえる。
口の中が乾く。
あれ……。
……駄目だ。まずい。
こんな感じ今までなかった。
戦力で押されてる。
このままじゃ,3人とも殺される。
早く、加勢しなきゃ。
こいつ、邪魔。
黒い奴の脇をすり抜けようとする。
雨で濡れた地面がぬかるんで、あたしの足の運びを鈍らせる。あたしの左腕を黒い奴が掴む。あたしの放った後ろ蹴りを黒い奴がかわし、さらにあたしを引っ張り倒そうとする。大きく左腕を振って、掴まれた手を振り放す。
「邪魔しないで!」
あたしの右の蹴りをガードし、そのあたしの右足を掴んで来る。あたしはとっさに右足を後ろに引き、左の回し蹴りを放つ。頭部を狙った蹴りを、黒い奴はガードして、あたしの左肩のあたりを突き飛ばしてきた。
あたしは、なんとか衝撃を流して、体勢を立て直し、間合いを取る。
ふと見ると,風間君が凄まじい動きで、9体の装甲具をいなしている。
……何あれ……信じられない。
******
何て数だ。
夏美……。
僕を信用していないな。
万が一にも、小松坂隊長の助けに入らせないつもりだ。
リミッター解除状態の装甲具9機。
油断すれば、僕まで殺されかねない。
「くそっ!」
前から迫ってきた2機をかわしざま、バッテリーを連続で抜き去る。
あと7機。
僕は何をしてるんだ。
どうしたいんだ、僕は……。
ナツ。
僕は……。
拳に力を込めた。
僕は一体なにをしているんだ。
1機、2機、3機。
殴り飛ばし、蹴り飛ばし、バッテリーを引きちぎる。
あの人は、家族だって言ってくれた。
4機、5機、6機。
投げ飛ばし、かわし、押し倒す。バッテリーパックを叩き壊し、引き抜く。
(私を一人にする気?)
僕は……。
最後の1機に向かおうとした時だった。
身体が一気に重くなった。
「……ナツ……」
ウイルス。
夏美の作った、装甲具強制停止用のプログラムだ。
後頭部に鈍い衝撃が走る。
リキラクの頭突きで、吹き飛ばされる。
全身が鉛の様に重くなる。神経伝達率が低下していく。
せめて、こいつだけでも。
体当たりをしてきたリキラクを、全力で受け止める。身体全体がきしむ。
抱きついたような状態から、リキラクの背部に手をのばす。
リキラクは力任せに、鯖折りをしかけてくる。 イザナギの胴体が悲鳴を上げる。
バッテリーパックのハッチに手が届く。開閉口を開ける。
「おおおおおぉぉぉぉ!」
残ったわずかな力で、バッテリーを引き抜く。
ウイルスに犯された視界は、ヌメヌメとしたピンク色に包まれていった。
薄れていく意識の中で、鉛の臭いがした。
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