表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デッドリィ・ストライプ  作者: 鳩峰浦
第一章 デッドリィ・ストライプ
44/58

43 劣勢

 強い風とともに、大粒の雨が降り出した。

 

 「風間!右脇のケーブルを見ろ!」

 

 敵が多すぎる。

 

 風間は想像以上の動きを見せている。

 しかし、6体のリミッター解除状態の装甲具を1体で相手にし続けることなど……。

 「風間!ケーブルを引き抜いて、密集しているところに投げ込め。」


  ******


 黒い奴の蹴りをかわし、がら空きの胸元を張り飛ばす。バランスを崩しながら、黒い奴は何とか倒れずに持ちこたえる。


 すっごい高性能なオートバランス機能。


 でも、これなら何とかなる。


 風間君の状況を映したモニターが一瞬発光する。風間君の前にいた3体の装甲具が地面に倒れる。何か

を使って感電させたんだ。

 小松さんの状況を映したモニターからは、小松さんが2体目のアックスⅡのバッテリーを引き抜く様子が見えた。


 これで小松さんも2対1。


 勝機が見えてきた。


 これならいける。


 そう思った、その時だった。


 「何だこいつ…!」


 小松さんの声が入る。やな予感が膨れ上がる。


 「小松坂! もう一体海の方から来るぞ!」

 

 補佐の声が響く。

 

 一瞬,モニターを小松さんの方に切り替える。

 状況が飲み込めなかった。

 

 

 あの黒い装甲具が,小松さんに迫っていた。

 


 何で? 黒い奴はこの一体だけじゃなかったの?


 「装甲具反応!4体、5体……6体! B級リキラク3体、C級ロードレーバー3体!」


 倉庫から橋を渡って、新たに6体の装甲具が風間君に迫る。


 一瞬モニターに気を取られたあたしの目の前に、黒い奴の右回し蹴りが迫る。かわしきれず、あたしは両腕でガードする。

 鈍い衝撃とともに、モニターに赤字で「左腕損傷率20%」の文字が浮かぶ。

 

 9体の装甲具が風間君に迫る。モニターでとらえられないほどの動きで、風間君が一体のリキラクのバッテリーを引き抜いた。でも、その後ろから、リキラクの拳が、ロッドレーバーの蹴りが、風間君の頭や腰にめり込む。


 小松さんが、黒い奴の蹴りを受け止めた。

 黒い奴の動きがやけに速い。

 

 あっちだ。こないだの奴。

 

 着てる人が違う。

 

 動きが全然違う。

 

 サイクロンが小松さんに体当たりを仕掛ける。小松さんは吹き飛ばされながら、何とか転倒せずにこらえる。

 

 口の中が乾く。


 あれ……。


 ……駄目だ。まずい。


 こんな感じ今までなかった。

 戦力で押されてる。


 このままじゃ,3人とも殺される。


 早く、加勢しなきゃ。


 こいつ、邪魔。

 黒い奴の脇をすり抜けようとする。


 雨で濡れた地面がぬかるんで、あたしの足の運びを鈍らせる。あたしの左腕を黒い奴が掴む。あたしの放った後ろ蹴りを黒い奴がかわし、さらにあたしを引っ張り倒そうとする。大きく左腕を振って、掴まれた手を振り放す。


 「邪魔しないで!」


 あたしの右の蹴りをガードし、そのあたしの右足を掴んで来る。あたしはとっさに右足を後ろに引き、左の回し蹴りを放つ。頭部を狙った蹴りを、黒い奴はガードして、あたしの左肩のあたりを突き飛ばしてきた。


 あたしは、なんとか衝撃を流して、体勢を立て直し、間合いを取る。


 ふと見ると,風間君が凄まじい動きで、9体の装甲具をいなしている。

 

 ……何あれ……信じられない。

 

 ******

 

 何て数だ。

 

 夏美……。


 僕を信用していないな。


 万が一にも、小松坂隊長の助けに入らせないつもりだ。


 リミッター解除状態の装甲具9機。

 油断すれば、僕まで殺されかねない。


 「くそっ!」


 前から迫ってきた2機をかわしざま、バッテリーを連続で抜き去る。


 あと7機。


 僕は何をしてるんだ。


 どうしたいんだ、僕は……。

 

 ナツ。

 

 僕は……。


 拳に力を込めた。

 僕は一体なにをしているんだ。


 1機、2機、3機。


 殴り飛ばし、蹴り飛ばし、バッテリーを引きちぎる。


 あの人は、家族だって言ってくれた。


 4機、5機、6機。


 投げ飛ばし、かわし、押し倒す。バッテリーパックを叩き壊し、引き抜く。


 (私を一人にする気?)


 僕は……。


 最後の1機に向かおうとした時だった。


 身体が一気に重くなった。

 「……ナツ……」


 ウイルス。


 夏美の作った、装甲具強制停止用のプログラムだ。


 後頭部に鈍い衝撃が走る。


 リキラクの頭突きで、吹き飛ばされる。


 全身が鉛の様に重くなる。神経伝達率が低下していく。


 せめて、こいつだけでも。


 体当たりをしてきたリキラクを、全力で受け止める。身体全体がきしむ。


 抱きついたような状態から、リキラクの背部に手をのばす。


 リキラクは力任せに、鯖折りをしかけてくる。 イザナギの胴体が悲鳴を上げる。

 バッテリーパックのハッチに手が届く。開閉口を開ける。


 「おおおおおぉぉぉぉ!」


 残ったわずかな力で、バッテリーを引き抜く。


 ウイルスに犯された視界は、ヌメヌメとしたピンク色に包まれていった。

 薄れていく意識の中で、鉛の臭いがした。


読んでいただいてありがとうございます!

もしよければ評価・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ