42 黒い装甲具
「了解!」
何でか分からないけど、急いで橋に戻る。
後ろからワラワラと装甲具5体がついてくる。
古びた鉄製の橋は、装甲具の重みでぎしぎし揺れる。
「西園寺、急いで渡りきって橋を見ろ。データを転送するから、その画像データに表示された橋のポイントを、出力最大にして、思い切りぶん殴れ」
「了解でーす!」
よく分からないけど、話はシンプル。こういうときは従うのみ。
結構なスピードで5体の装甲具ががちゃがちゃと後ろに迫ってくる。あたしはもう一段ギアを上げて、一気に橋を渡りきる。
「西園寺! 今だ! 急げ!」
あたしは橋を渡りきった足の勢いで一気に反転し、橋の方を向く。腕一本分の距離まで、先頭の装甲具が迫っていた。あたしをぶん殴ろうとする装甲具の腕が伸びてくる。
その映像に重なって、赤い三角のポインターが橋の上に点滅する。
「ぉおおおおぁ!!」
あたしが右の拳を振り下ろした瞬間、目前に迫っていたC級装甲具の腕が、轟音とともに消え去った。崩落していく橋とともに、水路に流れ込む海水の中に5体の装甲具が飲み込まれていく。
全身が浸水し、安全装置が働いて、5体の装甲具は活動を停止し、海水の上をぷかぷかと浮いていた。
こんなに老朽化してたんだ。
「西園寺、風間のフォローに回ってくれ」
「あっちの橋は落とさないんですか?」
「あっちはまだ新しい。多分無理」
5体乗せて、一撃で壊せるのがあたしの方だったのか。
モニターを切り替えると、風間君が橋を渡りきり、追ってきたコングⅡの拳を左手の防護盾で弾いたところだった。少し風間君の体勢がぐらついている。C級の力じゃない。
風間君が一歩下がって間合いを取る。追い打ちをかけてきたコングⅡのわき腹に、あたしは跳び蹴りを放って飛び込んだ。
******
サイクロンが振り下ろした腕をかわす。勢い余って地面に直撃した打撃によって、地震のような振動が起きる。
あんなもん食らったら潰されちまう。
背後から迫ってきたアックスⅡの腕をかわしざま、体を反転させて、アックスⅡの後ろを取る。バッテリーハッチに手をかけようとしたその時。
ずっと視界に入れていた、あの黒い奴が消えた。
背中に悪寒が走る。
装甲具反応。
確認する間もなく、横っ飛びでその場を離れる。
アックスⅡが、黒い奴の回し蹴りで弾け飛んだ。
敵も味方もない。理性ごとぶっ飛んでる。
スピードも、イザナギの自動追尾モニターを、一瞬振り切るレベルだ。
黒い奴を再度ロックオンし直す。
まずい。
アックスⅡ2体とサイクロンが壁になる。
こちらを向いていた黒い奴が背を向けた。
「風間! 英理! 黒い奴だ!」
******
瞬間移動じゃあるまいし。
一瞬、イザナギのレーダーから消えた。
信じられない、さっきまで小松さんの方にいた黒い奴が、風間君の背後に迫っていた。
「風間君!」
黒い奴が腕を振り回す。とっさのところで反応した風間君がガードを固めるが,あっさりと吹き飛ばされ,工場の壁に叩きつけられる。
あたしは風間君の方に向かおうとしたコングⅡの背中に蹴りを入れて地面に倒す。そこに黒い奴が突進してくる。あたしは大きく距離をとって黒い奴をかわす。
今度は橋を渡りきったリキラクが風間君に近づいていく。
邪魔だ邪魔だ。
やばい,焦る。
「風間君! 動いて!」
「っ……。すみませ……!」
風間君の顔を黒い奴が踏みつぶそうとする。すんでのところで、風間君は左に転がり、その勢いで立ち直る。
殴りかかってきたリキラクの右腕を両手で挟み、そのまま間接を決めて投げ飛ばし、地面にうつ伏せにする。流れるような動きで、風間君がバッテリーを引き抜く。
すごい!やるじゃん!
てか、風間君、そんなんできたの?
感動してる間に、あたしに黒い奴が飛びかかってくる。風間君には、残りの6体の装甲具が群がっていく。
……きつい。
黒い奴の右手が発光した。
「何回もそんなの食らわないし!」
後ろに飛んで、ローラーでさらに距離をとる。でもこれじゃ、風間君と小松さんからどんどん離れちゃう。早く加勢しないと……。
黒い奴が飛び込んで来る。でも、何故かこないだほどの迫力がない。
2回目だから、あたしが慣れたのか? 前回のデータもあるからか?
何にせよ、これなら何とかなりそう。
「倒す!」
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