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あたしたちは,イザナギを装着し,サイレンサーを発動させた状態で指示された場所に向かっていた。
海に接した工場敷地へは,10メールほどの古びた橋が一本かかっている。
夜の海は,何もかもを吸い込みそうなほど,暗くて深い。
サイレンサーは、イザナギのモーターの動きを最小にし、着地重量のサスペンションによる吸収も最大にするため、行動に伴う音がほとんど発生しない。その分動きはかなり重くなる。
サイレンサー起動時のまとわりつくような自重が、作戦の緊張感を高めていく。
捕縛銃は風間君が担当になった。
射撃の精度は間違いなく一番だからだ。
「潜水艇、浮上します」
「風間、接岸した直後を狙え」
「了解です」
風間君が潜水艇の接岸地点に向けて照準を合わせる。
台風の接近が近づいているのか、少し風が強くなってきた。真っ黒な海面からも強いうねりを感じる。
「潜水艇、接岸!」
夏美ちゃんの声が響くと同時に、風間君が捕縛銃を発射する。一発目の着弾後、すぐさま二発目を装填し、発射する。特殊な鉄鋼繊維を編み込んで作られたロープが潜水艇の両脇に固着し、動きを止める。ロープの末端を風間君がドリル付きの固定器具で地面に固定する。
「制圧するぞ」
小松坂さんがサイレンサーを切り、一気に潜水艇に向かう。あたしと風間君もその後ろを追った。
突然背後から強い光に照らされた。
急遽暗視モードから夜間ライトモードに移行したため、目の順応が追いついてこない。
「うちの潜水艇にずいぶんなことしてくれるじゃないか」
どこかで聞いたことのある声。
「「うちの潜水艇」って言ったか?社長さん」
小松さんが光源の方に向き直る。
「ああ、それはうちの潜水艇だ。警察さん」
橋の向こうの二つの倉庫の上部に設置された大型のライトが埋め立て地全体に広がるほどの強い光を発していた。
逆光でシルエットだけが浮かび上がっているような状態だが、おそらく、あたし達の前に立っている装甲具は……サイクロンだ。
遠くで雷の音が聞こえた。
「悪いが、この潜水艇には、薬物の密輸に関わってる容疑がかかってんだ」
「初耳だ。そんなはずねぇよ。帰ってくれないか?」
「そうはいかねーな。持ち主があんたなら、事情を聞かないといけない。ちょっと署まで来てくれないか?」
「仕事休めないんでね。うちみたいな零細企業は。任意同行ならお断りするよ」
「悪いが、任意じゃないんだ。あんたに容疑が掛かってる」
「逮捕……か」
何? これ?
サイクロンの通信ラインに、虫の羽音のようなノイズが混じり始める。それが次第に強くなっていく。
「逮捕したけりゃ……。力尽くでやってみろよ!」
ノイズが弾けるように大きくなった。
この音は、これまでリミッターを外して暴れていた装甲具から聞こえていた音だ。
「小松さん!あいつ……」
「ああ、クスリを使いやがったな。来るぞ!」
サイクロンのモーター音が一気に上昇する。
「倉庫内から多数の装甲具反応!14体……15……16体!」
夏美ちゃんの声が響く。
「潜水艇から装甲具反応! 3体!」
合計19体!
橋の向こうの倉庫のシャッターが一気に開く。あたしの正面側の倉庫から8体,風間君側から8体。
20対3。
「C級フォーキー8体,B級リキラク4体,コングⅠ4体、アックスⅡ3体、A級サイクロン1体です!」
「課長!敵が多すぎる! 一度撤退し,第一小隊と警備課の増援をまっ」
補佐の声が響いた瞬間。
あたしたちの背後から激しい光と轟音が響いた。
うそでしょ……。
あたしたちが渡ってきた橋が,吹き飛んで崩れ落ちた。
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第一章の最終戦です!
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