38 ナツ/クマ
「小松坂隊長を、殺す?」
「別にあなたに手を下せと言ってるわけじゃないわ。ただ、余計な手を出さないで」
「英理さんを追いつめれば良いんじゃなかったのか?」
「命令通り、粛々とやるだけよ。分かってるでしょう」
ナツは、口をつぐんだ。
「もう一歩で「アマテラス」の鍵が手にはいるの。私たちのずっと求めていたものよ。そうでしょう?」
「でも……ナツ……」
「何? 情でも移った?」
「小松坂さんの命を奪ってまで……そこまでして……」
「いまさら一人や二人,何だってのよ!今までの全てを無駄にするの?!」
ナツが叫ぶ。
「ずっとずっと、探していた答えよ。私たちが何なのか。どこで産まれたのか。誰が産んだのか。どうして施設に預けられたのか。私たちは知らないといけない。それを知ることで、やっと私は全てを始められるの。あなたも、そうでしょう。私は……」
ナツが下を向く。
「私は嫌よ。自分が何なのかも分からずに、このまま政府の犬として生きるなんて。あいつらが持っているあたしたちの情報を手に入れる。そして……」
突然、ナツが僕の襟元を両手で掴んだ。
「全部取り返して,そして,めちゃくちゃにしてやる。そうでしょ?!」
ナっちゃんの爪が僕の首に食い込む。
「私を一人にする気? あたしより、小松坂や西園寺を選ぶの? 約束したじゃない。一人にしないって……」
「ナツ……僕は……」
ナツは、僕の胸元を両手で突き飛ばし、背中を向けた。
「組み手も現場も、気をつけなさい。松井さん、あなたの本当の力に気づきかけてるわよ。それから、あの変なファンクラブのチラシ、止めてくれる? 定期集会の連絡、別の暗号にして。気持ち悪い」
******
「どうした、風間。体調でも悪いのか? 俺の栄養ドリンク飲むか?」
あなたはいつもそうだ。
自分だって疲れてるくせに。最初に部下のことを気遣う。
何も知らないで。
「大丈夫です。少し緊張が続いてるので、顔色に出てるんです。小松坂隊長こそ、大丈夫ですか?」
「隊長だからな」
「答えになってませんよ」
「やっぱり何かあったのか。篠崎に冷たくされたか? ああいう美人は、難しいからな。今回の件が終わったら、飲みに行くか」
「隊長……」
小松坂隊長の目の下には、うっすらクマができていた。
「隊長は怖くないですか。現場で戦うこと。装甲具と渡り合うこと」
「怖いさ、死ぬかも知れない。でも、誰かがやらなきゃいけないことだ」
体調が僕の肩を叩いた。
「ま,お互い,残念ながら向いてるみたいだし,やるしかないさ。それに,お前らのことは俺が守る」
隊長が笑う。
「前も言ったろ。部隊は、家族みたいなもんだからな」
家族。
心臓を鷲掴みにされたように苦しくなる。
「なーに、そんな顔すんな。まじでやばくなったら自衛隊呼んでくれるみたいだし。ま、お偉いさんは絶対にやりたくないだろうけどな」
隊長はそう言って笑った。
一人になるのは、怖いことだ。
幼いころの自分が少し顔を出す。
装甲具を着たときの、鉛の臭いがしたような気がした。
小松坂隊長。
僕は……。あなたを殺す手伝いをするんです。
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