33 ミス/仮眠/おしゃべりクソ親父
「小松坂のミスだ。」
松井さんが静かにそう言った。
「隊長が,先陣を切って追いかけた。あそこで補佐に連絡して,西園寺を即座に動かしていれば,奴の退路は断てた。現場のマップが頭に入っていれば,あんな判断ミスはしない。おまけに、西園寺を単機で危険な場所に突入させた」
「松井,俺の指示ミスでもある。責任はこっちだ」
「いえ,補佐。現場レベルで,砲撃手を見つけて,こいつは真っ先に飛び込んだ。現場のリーダーの動きとしては失格だ。部下への指示のタイミングもミスった。リアルタイムの判断で,こいつは間違った」
「松井さん,あたしが悪いんです、勝手な判断で飛び込んで……」
「英理,良い。補佐も。申し訳ありませんでした」
小松さんが頭を下げる。
違う、嫌だ。そうじゃないと思う。
「小松さんが謝ることないですよ!あたしが勝手に飛び込んだから……」
「違う」
松井さんが大きな声をだす。
「小松坂のミスだ」
会議室が静まりかえる。
悔しい。悔しくてしょうがないけど,何を言っていいのか分からない。おまけに自分の目に涙が浮かびそうでそれがさらに悔しい。
「まだ事件は進行中だ。我々は挽回しなくてはいけない。そして,その方法はまだ残っている。今はそれに力を注ぎたい。責任は俺が被る。異存はあるか?」
佐藤補佐官の問いかけに対する無言は,おそらくは肯定だと思われた。
「西園寺の投げた発信機がまだ生きている。これをたどって連中を追う」
佐藤補佐官が静かに,しっかりとした口調で言った。
「倉庫の火災はニュースになる。ある程度の事情は公になるだろう。連中を逮捕し、事態を完全に収束させられなければ,警察の威信と組織の存続に関わる。すでに本件は薬物課と本省を巻き込んでいる。他省庁マターに発展する可能性も高い」
課長が,会議室の机に肘をついたまま,低い姿勢から全員をじろっと睨みつける。
「それだけではない。犯罪者達に対して,この特別装甲機動課が敗北することはあってはならない。圧倒的な権威として,このマークは存在しなくてはいけない」
特別装甲機動課のシンボル,限りなく黒に近い青と,白の,ストライプを課長は睨みつけた。
課長が一度口を閉じ,そして言い放った。
「これが解決できないようなら、人事は刷新だ。首をかけるつもりで望んでもらう」
******
解散後,会議室を出た小松さんをあたしは追いかけた。小松さんは自販機の前でコーヒーを選んでいた。
「……何か用か? 俺はコーヒーを飲んで短い仮眠をとるぞ。待機はしばらく続くだろうし、お前も次の指示に備えて休め。感電して疲れたろうし,調子悪いだろ」
こっちに目を向けないまま小松さんはそう言った。
「小松さん。あれはあたしのミスです。小松さんに指示を仰いでから動くべきところだったのに……勝手なことをして……」
小松さんは,足を止めてあたしの顔を見て,そしてため息をついた。
「別にそんなに気を遣わなくても良い。慣れないことすると、頭おかしくなるぞ」
「あたしは心底反省して……」
小松さんが自販機のボタンを2回押した。あたしに一本放り投げると、自販機脇のイスに座った。
「松井さんの言葉で、俺がショックを受けてるとでも思ったか?」
「ちょっときつい言い方だったし……何で小松さんばっかり責めるのか……」
「座れよ。疲れるぞ」
小松さんは缶コーヒーを開けて一口飲んだ。
「あれは、松井さんが、気を遣ってくれたんだ」
「あれが?」
「わざときつめに言ったんだ。俺が、自分を責めすぎないように。人にがつんと言われりゃ、それで落ち着くこともある。自分が失敗したのを分かってて、慰められるなんて、最低だからな」
小松さんの口調は、前に鎌倉で話をした時の松井さんに少し似ていた。
「小松さん、松井さんと、昔何かあった?」
「あのおっさん、何か言ったか?」
「ん~、詳しくは何も」
おしゃべりクソ親父、と小松さんはつぶやいた。
小松さんが、もう一口、コーヒーを飲んだ。
「俺は、昔、俺のミスで部下を1人ダメにした。」
ダメ?
「どういうことですか?」
シリアスなところがもう少し続きます……
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