31 アックスⅡ/無茶/遮断
確かに,室温の上昇が早い。CO2の濃度も危険なレベルに達し始めている。
コンテナを飛び降りて,男を追い始めたそのとき,右脇から突進してくる熱源を感知した。装甲具の反応だ。このままの軌道では,走り抜けられない。やむなく速度を落として,熱源に向き合う。
「アックスⅡ」。大型コンテナ等をフレキシブルに運ぶことを目的に作られた,光山システム社製のB+級装甲具だ。
「くっそ!」
左腕の盾を射出し,アックスⅡの体当たりを受け止める。右足のモーターがきしむ音がする。
下手くそ。最悪の受け方だ。倒されでもしたら一気に不利になる。歯を食いしばって押し返そうとした瞬間。
アックスⅡが激しい音をたてて真横に弾きとばされた。
助けられちまった。
目の前にはイザナギ2号機の姿があった。
工場の二階部分の窓に待機していた英理が,クレーンを使って飛び降り,そのまま蹴りを入れてきたようだ。
ゲンさんに見られたら,しこたま怒られそうな動き方だ。着地を失敗すれば,足のパーツがどれだけイカれるか分からない。
「小松さん!大丈夫?」
「当たり前だ! お前が無茶し過ぎなんだ!」
英理がシャッターの方を見ている。
あいつ……。まずいな、テンションが上がりすぎだ。
「あの男を追います!」
******
「西園寺!状況を伝える。今おまえの真下で,小松坂が対装甲具砲を構えていた男を追っている。倉庫内に入って,小松坂に合流しろ」
「待ちくたびれましたよ! 了解!」
二階の勝手口のドアを開けて中に入る。倉庫は2階まで吹き抜けの構造になっていて,二階部分は工場全体をぐるっと回る足場と手すり,所々にコンテナや荷物をつり下げるためのクレーンやチェーンが設置されている。
工場全体の状況が一瞬で目に見えた。倉庫中から火の手が上がっていて,煙が充満している。私から見て左の方では,風間君の3号機がフォーキーのバッテリーを抜き去る所だった。
右手では,松井さんと海島さんが,3体いたフォーキーのうち2体を鎮圧し,もう一体に二人がかりで対峙している。往生際わるく,ぐるぐる回転しながら抵抗しているが,時間の問題だろう。
なぜかあたしの真下のあたりだけ,火の手が回っていない。そして,補佐の言うとおり,男が一人,小松さんの1号機から走って逃げている。
まずい。煙の端に熱源が見える。
光山のアックスⅡだ。このまま走ると,小松さんが体当たりを食らう。右手に階段があるが,あれを使って降りたんじゃ,どう考えても間に合わない。
左手にチェーンが見える。
あれを掴んで飛べば間に合うか。
荒っぽい動きになる。
ゲンさんの顔が浮かんけど,悩んでいる暇はない。
あたしは天井から一階までぶら下がっているチェーンをつかむ。一度,二度引っ張る。イザナギの重量を支えることはできそうだった。
鈍い音が一階から聞こえてくる。小松さんがアックスⅡの体当たりを受け止めている。突然の脇からの体当たりで,体勢を崩しかけている。
あたしはチェーンをしっかり掴み,移動する軌道の計算をイザナギにさせ,二階から一気にアックスⅡに向けて飛びかかった。3秒ほどであたしの右足の蹴りはアックスⅡの左肩に到達し,アックスⅡは吹き飛んだ。
イザナギのオートバランスがあたしをちゃんと着地させてくれる。
「小松さん! 大丈夫?!」
「当たり前だ! お前が無茶し過ぎなんだ!」
助けてあげたのに,無茶し過ぎとはどういうことだ。まったくもう。
文句の一つも言おうかと思ったが,早速アックスⅡが立ち上がろうとしていた。
不意をつかれなければ、あんなの小松さんの敵じゃない。
それより、小松さんはあの男を追っていたはずだ。
ならやることは一つ。
「あの男を追います!」
あたしはすぐに身を反転して,シャッターに向かう。
「英理! 待て!」
小型の車両なら通れるほどの幅のあるシャッターだったが,もう1メートルほどの高さまで降りてしまっていた。あたしはシャッターに向けてスライディングをして向こう側に滑り込んだ。
あたしが通り抜けた瞬間にシャッターが全て降りたのが分かった。イザナギの塗装がかなりはがれただろうなと思ったが,これはもうしょうがない。
右足の裏が壁に当たった。
真っ暗で何も見えない。立ち上がって,両肩のサーチライトを点ける。思ったより広い空間で,イザナギが3,4体は通れる位の広さがある。のっぺりとしたコンクリートの壁で作られた,細長い通路のようだ。通路の先にライトを向けると,走っていく人影が見える。
「補佐! 追いますよ!」
返事がない。
通信が断絶している。電波遮断処理が施されてるようだ。
読んでいただいてありがとうございます!
なるべく毎週数回の更新をしています、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!




