表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デッドリィ・ストライプ  作者: 鳩峰浦
第一章 デッドリィ・ストライプ
32/58

31 アックスⅡ/無茶/遮断

 確かに,室温の上昇が早い。CO2の濃度も危険なレベルに達し始めている。

 

 コンテナを飛び降りて,男を追い始めたそのとき,右脇から突進してくる熱源を感知した。装甲具の反応だ。このままの軌道では,走り抜けられない。やむなく速度を落として,熱源に向き合う。

 

 「アックスⅡ」。大型コンテナ等をフレキシブルに運ぶことを目的に作られた,光山システム社製のB+級装甲具だ。

 

 「くっそ!」


 左腕の盾を射出し,アックスⅡの体当たりを受け止める。右足のモーターがきしむ音がする。


 下手くそ。最悪の受け方だ。倒されでもしたら一気に不利になる。歯を食いしばって押し返そうとした瞬間。

 

 アックスⅡが激しい音をたてて真横に弾きとばされた。

 

 助けられちまった。

 

 目の前にはイザナギ2号機の姿があった。

 

 工場の二階部分の窓に待機していた英理が,クレーンを使って飛び降り,そのまま蹴りを入れてきたようだ。

 

 ゲンさんに見られたら,しこたま怒られそうな動き方だ。着地を失敗すれば,足のパーツがどれだけイカれるか分からない。

 

 「小松さん!大丈夫?」

 

 「当たり前だ! お前が無茶し過ぎなんだ!」


 英理がシャッターの方を見ている。

 あいつ……。まずいな、テンションが上がりすぎだ。

 

 「あの男を追います!」


  ****** 


 「西園寺!状況を伝える。今おまえの真下で,小松坂が対装甲具砲を構えていた男を追っている。倉庫内に入って,小松坂に合流しろ」


 「待ちくたびれましたよ! 了解!」


 二階の勝手口のドアを開けて中に入る。倉庫は2階まで吹き抜けの構造になっていて,二階部分は工場全体をぐるっと回る足場と手すり,所々にコンテナや荷物をつり下げるためのクレーンやチェーンが設置されている。


 工場全体の状況が一瞬で目に見えた。倉庫中から火の手が上がっていて,煙が充満している。私から見て左の方では,風間君の3号機がフォーキーのバッテリーを抜き去る所だった。


 右手では,松井さんと海島さんが,3体いたフォーキーのうち2体を鎮圧し,もう一体に二人がかりで対峙している。往生際わるく,ぐるぐる回転しながら抵抗しているが,時間の問題だろう。


 なぜかあたしの真下のあたりだけ,火の手が回っていない。そして,補佐の言うとおり,男が一人,小松さんの1号機から走って逃げている。


 まずい。煙の端に熱源が見える。


 光山のアックスⅡだ。このまま走ると,小松さんが体当たりを食らう。右手に階段があるが,あれを使って降りたんじゃ,どう考えても間に合わない。


 左手にチェーンが見える。


 あれを掴んで飛べば間に合うか。


 荒っぽい動きになる。


 ゲンさんの顔が浮かんけど,悩んでいる暇はない。

 あたしは天井から一階までぶら下がっているチェーンをつかむ。一度,二度引っ張る。イザナギの重量を支えることはできそうだった。


 鈍い音が一階から聞こえてくる。小松さんがアックスⅡの体当たりを受け止めている。突然の脇からの体当たりで,体勢を崩しかけている。


 あたしはチェーンをしっかり掴み,移動する軌道の計算をイザナギにさせ,二階から一気にアックスⅡに向けて飛びかかった。3秒ほどであたしの右足の蹴りはアックスⅡの左肩に到達し,アックスⅡは吹き飛んだ。


 イザナギのオートバランスがあたしをちゃんと着地させてくれる。


 「小松さん! 大丈夫?!」

 「当たり前だ! お前が無茶し過ぎなんだ!」 

 

 助けてあげたのに,無茶し過ぎとはどういうことだ。まったくもう。

 文句の一つも言おうかと思ったが,早速アックスⅡが立ち上がろうとしていた。

 不意をつかれなければ、あんなの小松さんの敵じゃない。

 

 それより、小松さんはあの男を追っていたはずだ。

 ならやることは一つ。

 

 「あの男を追います!」

 

 あたしはすぐに身を反転して,シャッターに向かう。

 

 「英理! 待て!」

 

 小型の車両なら通れるほどの幅のあるシャッターだったが,もう1メートルほどの高さまで降りてしまっていた。あたしはシャッターに向けてスライディングをして向こう側に滑り込んだ。

 

 あたしが通り抜けた瞬間にシャッターが全て降りたのが分かった。イザナギの塗装がかなりはがれただろうなと思ったが,これはもうしょうがない。

 

 右足の裏が壁に当たった。

 真っ暗で何も見えない。立ち上がって,両肩のサーチライトを点ける。思ったより広い空間で,イザナギが3,4体は通れる位の広さがある。のっぺりとしたコンクリートの壁で作られた,細長い通路のようだ。通路の先にライトを向けると,走っていく人影が見える。

 

 「補佐! 追いますよ!」

 

 返事がない。

 

 通信が断絶している。電波遮断処理が施されてるようだ。


読んでいただいてありがとうございます!

なるべく毎週数回の更新をしています、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ