28 睡眠/毒を持って
宿直室で仮眠を取った。出動に向けての体力を蓄えるためだ。風間君は眠れないと言って,医務課から睡眠導入剤をもらってきていたみたいだった。あんなの飲んだら,かえってだるくなると思うんだけど。あたしはどこでもいつでも寝れる性格なので,こういうときは困らない。
目を覚ました後に,枕元のアラームが鳴った。いつもより少し緊張しているのかも知れない。
制服に着替えて廊下に出ると,小松さんに遭遇した。
「早いじゃんか」
「大事な現場ですから」
「これ,作戦のオペレーションチャート。イザナギにも飛ばしてあるけど,ペーパーも渡しておく」
「ありがとうございます」
小松さんも気合いが入っている。こういうときは,やっぱり隊長って感じがする。
「小松坂隊長」
「ん?何だ?」あたしの改まった言葉に、少し警戒したような表情でこっちを見る。
「やってやりましょうね」
「なんだそりゃ」
小松さんが少し笑う。
「当然だろ」
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一通り書類の確認を終えた。時間が結構かかってしまった。
発砲と,リミッター解除。
この二つは,できれば使いたくないが,必要があれば仕方がない。
ため息をついたところに,冬見ちゃんが近づいてきた。
「リミッター解除から2週間経ってるわね。西園寺」
「基本的には使いたくないよ。あれはやっぱり,装着者への負担が大きすぎる。毎回怪我するし,精密検査が必要だし、記憶が飛んでるのだって変な話だ。本庁は推進派だが……いつか取り返しのつかないことになるんじゃないか」
「……そうね。」
冬見ちゃんも何を考えてるのか。
リミッター解除というのは,考えれば考えるほど不思議な機能だ。もともと人間は,自分の体を自然と守る本能がある。生き物なんだから当然だ。例え機械の力を借りても,自分の限界を超える動きを,脳や神経が許すはずがない。
その越えてはいけないラインを越えさせる,そういった,極めて危険なシステムが,イザナギには組み込まれているということだ。
まるで,酒や薬物でタガが外れた人間のように。
薬物か。
毒を持って毒を制すといったところか。
「そういえば,あれだけ形式にうるさい課長が,リミッター解除に関してはあまり口を挟まないな」
冬見ちゃんの表情が一瞬だけ,確かに引きつった。錯覚だったのではないかと思うほどだったが,間違いない。
「……確かにそうね」
何か知ってるのか,それとも何かに気づいているが,口には出せないのか。
つれないなぁ。
「何にしても,使わずに済めば,それに越したことはないわ」
「その通りだよ」
全くもってその通り。
そして,それは作戦指揮者である自分達の采配による。
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