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デッドリィ・ストライプ  作者: 鳩峰浦
第一章 デッドリィ・ストライプ
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27 湾岸倉庫/戦乙女/明朝

 捜査第5課の矢島さんの顔がいつになく緊張しているので,こっちまで胃がきりきりしてくる。

 

「じゃあ,その港湾倉庫にかくまわれている可能性が高いんだ。矢島ちゃん」


 「高いっていうよりは,もう間違いない。こっちの動きをかぎつけでもしない限り,そこにいるだろう。」


 捜査第5課の調べで,この間のバイクの容疑者が特定された。

 外国人の密売グループの一人として,警視庁本庁の薬物班からマークされていた人間だったようだ。

 

 「第6埠頭のこの建物が,このカタバ物流の倉庫兼事務所になってる。どうも実体が怪しい会社で,ずっと地域課と薬物班がマークしていたんだ。この会社は,以前からちょっとチンピラっぽいのを積極的に雇っていたんだが……」

 

 「密輸?」

 

 補佐がぼそっと言う。

 

 「前からタレコミはあったんだけどね。その温床になっている様子がある。もう令状は取ったから,後は「おはよう」で踏み込むだけの状態」


 「向こうの想定されうる武装は?」


 夏美ちゃんが資料を取り出す。


 「港湾の荷物運び作業用として登録されている機体が5体。C級の「フォーキー」3体,B級の「コングⅡ」2体です。」


 「フォーキーって,あのフォークリフト機能のあるやつでしょ?」


 「まぁ,使いようによっちゃあ,武器になるからな。運ばれて海にでも落とされたら大変だぞ」


 お,さすが小松坂小隊長。その発想はなかった。


 「コングⅡは馬力があるし,俊敏だ。それに,こいつらが今回の薬物を密輸していたなら,全機リミッター解除でおそってくることも考えられる。危険性は高い。それに、薬物に関わるような連中だ。非登録の機体を保有していることも十分予想される。加えて,装甲具用砲弾の保有も疑われる」


 補佐が腕を組んだまま一息つく。


「並べていくと,かなり厄介な現場だ」


 補佐の顔がいつになく引き締まっている。向こうの戦力を想像するだけでも,難しい現場になるのは間違いなかった。


 「諸条件を勘案して,第1小隊との共同作戦としたい」


 「第1小隊としては,松井小隊長と海島を派遣します。四極は緊急時要因として待機。なお,作戦実行時に非常出動が必要であれば,私と四極が出動します」

 

 おお,冬美補佐の出動だ。それ,見てみたいなぁ。研修所ではいくつもの重大事件の事例が紹介されていたけど,そのほとんどに冬美補佐が絡んでいた。


 戦乙女(ワルキューレ)に例えられたこともあったと聞いたし、松井さんも自分より格上みたいなことを言っていた。

 本当は現場で,「天才」が生で動くところを,一度で良いから見せて欲しいと思う。


 「冬見補佐。俺は行かせてくれねーんですか」


 「四極。緊急時にはあなたの力が必要なのよ。当然でしょ?」

 

 了解,と言って薄い笑みを浮かべて四極さんは黙った。みんなが苦手にしているこの人も,冬見補佐はあっさりと使いこなす。本当に惚れ惚れする。

 

 「装甲具,5機投入ということだな?」


 ずっと黙って聞いていた課長が口を開いた。


 「そうです」


 「では本庁決裁案件になる。許可が降りるまで待つように。」


 矢島さんが目を見開く。


 「迅速な突入が必要です。タイミングを外すと,犯人の逃走のおそれが高まります。今晩深夜,遅くとも早朝が決行のリミットです」


 「だめだ。A級以上装甲具の5機以上の同時投入は,法律上,監督行政官庁の許可が必要だ。作戦計画も私の手元に上がっていない状態で,今晩の突入など認められん。正規の手続きを踏むことに異論があるのか」


 「しかし,現在は緊急時と思料します。緊急時であれば事後届け出が可能でしょう」

 矢島さんに対し、課長が完全にガンをつけた。しかし矢島さんは動じず、さらに口を開こうとしたその時、冬見補佐が話し出した。

 

 「相当な殺傷能力を持つ爆薬や兵器とも言えるような武器を持った容疑者を逮捕するチャンスです。今は形式よりも実効を優先すべき時でしょう」


 課長は少し驚いたような表情を浮かべた。基本的に冬見さんはまじめな人で,規則や省令の厳格な適用を心がけている。その冬見さんが援護したのは,かなり大きい。

 会議室の雰囲気が変わったのが肌で分かるほどだった。

 

 「この状況であれば,上も課長の御判断を歓迎すると思いますよ。武器と薬物と,脂っこいところを一発ですからね」


 佐藤補佐がとどめのくすぐりを課長に投げた。見ているだけで,課長が陥落寸前なのが分かった。


 「成功すれば,の話だ。失敗は許されない。5機投入で,オーバー8を使用して,取り逃がしや,失敗があれば,課の人事につながるぞ」


 「課長。ご存じのように,あたし達,対装甲具戦での敗北は一度もありません」

 「西園寺。この間の意識を失った件は,結果として現場を納めたからいいものの,上層部の懸案事項になっているぞ」


 あ,ミスった。


 ミスったという表情で、思わず小松さんに視線を送ると,小松さんが何かフォローをしようと口を開きかけた。がそれに被せて全然別の方向から声が聞こえてきた。


 「私と小松坂,小隊長2名が同時に現場に出るんです。これ以上の布陣はありません。ご安心を」


 これはみんなびっくり。


 松井さんが会議で上司に進言するなんて珍しい。


 課長がため息をついた。


 「自信がある,ということだな」


 小隊長二人がうなづく。


 「矢島,捜査第5課の配置人員も後で書面で報告するように。本庁の薬物課には内議済みなのか? そもそもが薬物課マターなんだろ? 情報だけもらって,こっちが全部ホシを上げるようなことをしたら,後々遺恨を残すぞ。根回しして薬物課の係員も現場にかませろ。他課の手柄まで横取りするような形にはするな。両課長補佐官も,早急に書面で作戦計画書を上げろ。確認後に緊急許可を得る。今晩には間に合わない。作戦決行は明日早朝にしろ。それから……」


 課長が全員を睨みつける。


 「現場の論理だけで動くことは,危険も伴う。形式的な手続きには,それ相応の意味がある。それを軽視する組織は,破綻する。忘れるな。以上だ」


 課長が席を立ち,会議室を出ていった。


 小松さんが,いぶかしげな顔で松井さんを見ている。


 「明朝がベストなタイミングだと思っただけだ。第2小隊だけに行かせるのは不安だしな。私と海島の足を引っ張らないで欲しいものだな」


 松井さんがそう言って会議室を出ていった。


 小松さんは何か言いたげだったが,結局何も言わなかった。


読んでいただいてありがとうございます!

なるべく毎週数回の更新をしています、もしよければ評価・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!

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