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デッドリィ・ストライプ  作者: 鳩峰浦
第一章 デッドリィ・ストライプ
24/58

23 こ綺麗な/お洒落/一人で行きますからね

 「なんだ,ずいぶんこ綺麗な格好して。お前、スカートなんか持ってたのか。て言うか、少し短いんじゃないか。膝出てるぞ?」

 

 「は?何なの一体? 研究室にお邪魔するんだから,身なりぐらい整えるでしょ? て言うか,このぐらいで短いとか……変な目で見るの止めてもらえます?」

 

 白い半袖のブラウスに茶色の膝丈くらいのプリーツスカートで、落ち着いた装いである。

 それに対して全く本当にうるさい。だから一人で来たかったんだ。とは言え、佐藤補佐官からも「せっかくだから新しい装甲具の知識でも仕入れて来なよ」との指示が降りてしまった。その結果,半ば業務命令になったので,小松さんと報告書の分担ができるのはラッキーと言えばラッキーだった。


 「いやー,しかし……今の私立大学ってのはきれいなもんだな」


 新東京の都心の一角とは思えない,広大な敷地に豊かな緑。赤煉瓦を多用した講義棟が立ち並び,行き交う学生達もみな小ぎれいな格好をしている。サークルの勧誘をしている女子に声をかけられ,慌てて断った。


 「ふふぅ。学生に見られちゃうかぁ」

 「雰囲気がガキだってことだな」

 いちいちうるさいので,軽く蹴りを入れておく。


 「小松さん,あんまりキョロキョロ女の子見てると,わいせつ罪で逮捕されますよ」

 「見てねーよ。全く興味ない」

 どーだかね。全く……。

 まぁ、でも小松さんは年上が好きなんだっけか。誰かにそんな話聞いたような。

 じゃあ、まぁ興味ないか。


 北島教授の居る工学部棟は,敷地の東端にあった。


 「!」


 見たことのないタイプの装甲具が工学部棟の方からローラー走行で移動して来る。白を基調とした流線型のデザイン。所々スケルトン素材が使われていて,内部の配線が見える。かなり体にフィットした形状で装甲は薄い。とにかくデザインにこだわっているのだけは伝わってきた。  

 

 「お待ちしてましたよ」


 目の前に停止した装甲具の顔の部分が開く。

 北島教授だ。


 「珍しい装甲具ですねー。初めて見ました。」

 「うちの研究室で開発中の,シティ用装甲具ですよ。綺麗でしょう。」

 「……シティ用?」

 なんじゃそりゃ?

 

 「これからは,装甲具も洋服の用に,お洒落に着こなす時代が来るんです。その先駆けとして作成中の物です。立ち話も何ですから,研究室に行きましょう。付いてきて下さい」

 そういって,北島教授は颯爽と身を翻し,工学部棟の方へ向かっていった。


 「……お洒落な装甲具……ね……」

 小松さんが訝しげな顔をしている。

 「……ま,まぁ,あれじゃない?イザナギも結構デザイン良いし,機能美とか,そういう話なんじゃ……」

 と言いつつ,あたしも少し,というかかなりの違和感を抱いていた。


 武田重工の装甲具のコンセプトは,「質実剛健」だ。これは町工場だったころから変わらない。だから武田重工の装甲具は基本的に無骨で精密で,そして高い。

 そんな会社のアドバイザーの言葉にしては,ちょっと不思議だった。


******


 うーん,何か違う。

 工学部の実験棟施設を一通り見せてもらった。のだが……。

 装甲具の実験室というよりは,どこかの美術大学の造形コースみたいな感じだった。学生達はみな,CGでデッサンを描いたり,やたら華奢な装甲具の型の作成などに執心していた。


 「このカラーリングなんて,最高でしょう」

 「え,ええ……まぁ……」

 頑張って相づちを打つあたしの後ろで小松さんが大あくびをしているのが見え,肘で小突く。

 

 ぐるりと工学部棟を見て回った後,研究室にて質問の時間となった。研究室も,どこかのカフェにでも入ったような雰囲気の部屋で,やたら高そうなスツールやテーブル,オーディオ機器などが目についた。


 「最近,都市部では高出力のB級機体も増えてますが,今後も工事用装甲具の高出力化は進むと思われますか?」


 「工事用ねぇ……。馬力を出せば良いってもんでもないだろうしね。今後は出力よりもより繊細な動きができるような方向に進化していくんじゃないかな」


 「そうすると,犯罪の性質ももっと複雑になるかも知れないですね」


 「どうかな。犯罪を起こすような人間なんて,そもそも単純な奴らだから,最先端の装甲具の機能を使いこなす頭なんてないだろうさ」


 小松さんは何かを言いかけて,そのまま口を閉じたようだった。


 「より,繊細な動き,ということは,今よりももっと神経系との接続効率を上げたりする,ということですか。」

 「それも一つの方向性だろうね。例えば……」


 わっ。


 突然北島教授があたしの手をつかむ。


 「こうした触感や,人間の五感なんかも研究対象にしていてね,これを装甲具を通して増幅したりする,というのも,新しい装甲具の可能性として考えているんだ」

 

 ……。ちょっと,きもい。

 けど、振り払うのも失礼か、学術の話をしてるんだろうし……。

 

 言い終えた後,少し経ってから北島教授があたしの手を離す。

 

 「今日はいろいろ勉強になりました。英理,そろそろ帰るぞ。明日の勤務もあるからな。どうもありがとうございました」

 「え? あ,はい……」

 すっと席を立った小松さんの後を追って,あたしは研究室を出た。

 

 ******

 

 「ちょっと急過ぎません? もう少し話を聞いても……」

 

 「無駄無駄。ろくでもない話しか聞けねーよ。それより、あちこち触られるだけだぞ」


 「あ,何それ。別にそういうやらしい意図じゃないでしょ? 例えとして手を……」


 「知るか。とにかく,研究関係も見て分かったろ。うちらの実務には関係ない。お洒落な装甲具なんて,何の役にも立たん。俺は報告書,書くことねぇからな。補佐官には口頭でそう言っとく。お前は何か書きたきゃ、適当に書いておけ」


 何かめっちゃカリカリしてるなぁ。


 「小松さん,なに怒ってんの? 超不機嫌」


 「怒ってねぇよ。俺はお前と違って,オヤジ好きじゃねぇだけだ。良かったな,憧れの教授の話が聞けて,手も繋げて」


 「何その言い方! ちょっと……」

 あたしはあんな人全然タイプじゃないんだけど、と言おうとしたところで、あたしの携帯が鳴る。

 

 北島教授だ。

 

 「はい。あ,すみません。先ほどは急にお暇して……」


 小松さんをじとーっとにらみつける。


 「いやいや,忙しいところ来て頂いてありがとう。ところで,今日ご紹介した他に,是非見せたい最新の装甲具のデータがあるんだけど……今度見に来ない?」

 最新の装甲具かぁ。興味はあるなぁ。

 とはいえ,一人で行くのはなぁ。

 小松さんも一緒に行ってくれないかな。


 「小松さん,北島教授から,最新の装甲具のデータを見ないかってお誘いだけど……」


 「一人で行け。俺は良い。」


 機嫌わるっ。何なの? まったく……。

 「わかりましたよ,一人で行きますからね!」

 

 ******


 「へぇ,そうなんですか,北島教授,ね」


 「何だ,篠崎,なんか知ってるのか」


 「ええ,研究所では有名な人でしたから」


 「科学総合研究所でも有名人なのか。ナイスミドルの天才ってか」


 篠崎がうっすら笑う。


 「逆ですよ。あの人,若いころいくつか派手な論文書いて,それが企業広告に使われてもてはやされたせいで,すっかり調子に乗っちゃって。その後はテレビやネットメディア等で稼ぐタレントみたいな感じですから。有名になってからは、中身のある論文も書けてないし,いい加減な話しかしないから,最近はもう、業界の本流は相手にしてないですよ。イザナギの社会的な認知度を上げるために、コンサルと広告会社が選んだ学者の中に入っていて、警視庁の研究の監修したみたいな話が表に出てますけど。それより……」

 

 篠崎が近づいてきて,耳打ちをしてくる。

 

「女癖がすごく悪いんですって。大学でも研究所でも,結構な数の被害者がいるみたいですよ。お金とか圧力とかでかなりもみ消してるみたいだけど……」

 

 ちらりと俺の目をのぞき込む。

 

「西園寺さん大丈夫かしら。そういうの慣れてなそうだし…。」

 

 ******

 

 「あれ,篠崎と風間しかいないのか。小松坂はどこ行った?」

 

 「佐藤補佐官。今日は小松坂さん,早めに帰られたみたいですよ」

 「ん……そうか。珍しいな。西園寺も少しだけ時間休だったしな……ん? もしかして?」

 「さぁ,どうなんでしょう。」


読んでいただいてありがとうございます!

なるべく毎週数回の更新をしています、もしよければ評価・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!

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