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11 夢/キノコ狩り/戦争

 また、悪い夢を見た。

 

 あたしは,まだ小さくて,小学校の低学年くらい。

 

 この頃は身体も弱くて,よくお父さんに病院に連れて行ってもらってた。

 いつものように熱を出したあたしを,お父さんが車で病院に連れていく途中だった。

 

 そこにあいつがやってきた。

 

 大きな装甲具。

 

 破壊される車。

 

 あたしをかばって,装甲具に腕を掴まれるお父さん。

 

 あたしは,小さくて無力で,足がすくんで一歩も動けない。

 

 あたしは何にも出来ない。

 

 お父さんを助けられない。

 装甲具がお父さんの腕を引っ張る。

 お父さんの腕が、肩のあたりから引きちぎられる。

 

 嘘でしょって、そう思う。

 

 あたしは何か叫ぶ。気が狂いそうになるくらい叫ぶ。

 

 装甲具がお父さんの頭を鷲掴みにする。

 あたしはもっと叫ぶ。もう声がでなくなる。

 止めて、止めて、止めて。

 

 誰か助けて。

 

 止めてって叫ぶ。

 

 お父さんの頭に装甲具の指がめり込んでいく。

 つぶれてひしゃげるお父さんの顔。

 

 お父さんの口が動いて、何かを話す。

 吹き出す血液。

 

 あいつがお母さんに近づいていく。

 

 絶望感の中で,あたしは目を覚ます。

 

 時計は午前3時14分。

 

 からからに乾いた喉。

 リミッター解除の後に、よく見る夢だ。


 ******


 「佐藤補佐官。報告書読んだわよ。私の不在時に、大変な事件で申し訳なかったわね」

 

 喫煙所で一人,マイセンに火をつけたところだった。

 

 「冬見ちゃん、タバコ嫌いでしょ?副流煙の方が体に悪いよ」

 

 「ちゃん、をつけないで。何度言ったら分かるの?本当にセクハラで訴えるわよ?」


 訴える気なんかないくせに。


 このやりとりが好きで、言っちまうんだけどな。

 まぁ、そんなこと言えないが。

 いや,いつか本当に訴えられるかも。

 

 「失礼しました。冬見補佐官殿」


 冬見ちゃんは,ため息をついた後,タバコの煙で軽くむせた。


 冬美玲子課長補佐官・第1小隊担当。装甲具関連セクションの女性職員の出世頭だ。女性初の特別装甲機動隊員として、数々の重大事件に出動し、成果を上げてきた人間であり,西恩寺や海原など、女性警察官が特装に登用される道を作った日本警察装甲具部隊女性隊員のパイオニアだ。


 「何か気になることでもあった?」


 冬見ちゃんのいぶかしげな視線を,タバコの煙でぼやかす。


 「…狙ったでしょ?」


 「何を?」


 冬見ちゃんはもう一度,大きくため息をついた。


 「…あなた、小松坂と二人で、あの公園、何度かキノコ狩りに行ってるそうね」


 俺はため込んだ煙をゆっくりと吐き出した。


 「良いとこだよ。冬見補佐も、今度一緒に行く?雨が降った次の日は、ポコポコ生えてるよ」


 「止めとくわ。装甲具じゃなくたって,斜面で滑って怪我させられそうだから。」


 俺の口の端に浮かんだ笑みを、冬見ちゃんが確認したのが見えた。


 「まあ、それは良いわ。地形を利用した良い作戦だったもの。落下のショックでサイクロンもだいぶ痛んでいたみたいね。リミッターを外したA級機体を,ほぼ損害0で抑え込んだんだから,100点ね。勉強になったわ。第2小隊も,A級の対応経験が積めて良かったと思うし」


 頭が良いのに,さっぱりしてるところがいい。仕事の相手としては最高だ。


 「四極は、勝手に使って悪かった。二機ともリミッター解除しちまった。減点20ってとこじゃない?」

 「妥当な判断よ。私でもそうするわ。躊躇したら,こっちがやられてたでしょ。」


 冬見ちゃんが目を細める。


 「篠崎さんに、「アマテラス」に集積されたデータを見せてもらったけど,今回のサイクロン,あれは危険すぎる。ただでさえ,光山システム社が無理に検定を通した違法気味のスペックに,リミッター解除なんてね。武器を使わずにあの場で、こちらの損害ゼロかつ生け捕りを考えるなら、こっちもリミッター解除を当てて、残りの2機で抑え込む。他の選択肢はないでしょ。……しかし、あの機体バッテリー駆動時間の長さも変よ。そのまま戦争で使えるレベルなんじゃない?」


 冬美ちゃんが,自分の言葉に対して「そう,戦争ね…。」とつぶやいた。


 同感だ。あれはもう工事用なんかじゃない。兵器レベルだ。


 イザナギと同様に。


 「ところで、西恩寺は大丈夫なの?」

 「おかげさまで、脳波異常もなく、ぴんぴんしてるよ。すこし,右腕を痛めたけどね。軽い挫傷だったよ。来週には復帰できる」

 「良かったわ。大切な,本当に大切な後輩だから」


 冬見ちゃんがまた,ため息をついた。


 「まあ、科学警察研究所の方では,貴重なデータが取れて喜んでるようね。リミッターを外した装甲具同士の力比べなんて,世界的にもレアケースだから。それに…。」

 

 「それに?」

 

 「やはり、薬物なんかで無理矢理リミッターを外しても,解除コードを使った正式なリミッター外しには及ばないっていうことも分かったから。」

 

 「サイドブレーキをかけたまま,アクセルベタ踏みするようなもんだからな。そのせいで,犯人はみんなぶっ壊れちまって、取り調べもできない。」

 

 犯人は3人とも脳と筋肉の神経が焼き切れたような状態になっており,植物人間状態になってしまっている。生命維持装置でどうにか持たせているが,そう長くはないとのことだ。


読んでいただいてありがとうございます!

なるべく毎週数回の更新をしています、もしよければ評価・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!

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