第七話:背中から、外される日
森を抜けた先の渓谷で、俺たちは魔獣の群れと遭遇した。
飛びかかる獣を、俺は《鉄壁》で受け止め、《剣術・一ノ型》で押し返す。
その隙をヨルンの矢が抜け、バルドが盾でとどめを刺す。
……かつては、ただ戦いが終わるのを見守っていただけだった。
それが今は、戦闘の“流れの一部”として、自然に俺が組み込まれている。
誰かにくっついて動くのではなく、自分の判断で動き、支え、斬る。
「……上達したな、レグラム」
バルドが短くそう言い、ダグラスが軽く笑った。
「いやほんと、いまや一人で十分に動けるもんな。あの《金魚のフン》が、こんな形になるとは」
ヨルンも、肩をすくめて言った。
「もう“くっついてるだけ”なんて言わせねぇな。――ってか、そろそろ本気で困ってるんだけど」
「え?」
「いや、だからさ……立ち位置だよ。前も後ろも横も、お前がいけるせいで、マジでかぶるんだわ」
俺は少しだけ、笑ってしまった。
確かに、今の俺には“誰かの背中”が必要じゃなくなってきていた。
それが、嬉しくて――でも、ほんの少しだけ、寂しかった。
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その日の帰り道、ダグラスが口を開いた。
「レグラム。ちょっと話がある」
「……はい」
その声の響きで、何となく察していた。
そして、案の定――ダグラスは言った。
「次の依頼から、お前は――別行動にしてもらう」
言葉は、優しかった。
でも、それでも、“突き放された”ような感覚があった。
「……戦力的に、もう俺たちのフォーメーションじゃ狭すぎる。正直、窮屈だ」
ダグラスは、俺の目を真っ直ぐに見て続けた。
「お前の力はもう、“背中にくっつく”だけじゃもったいない。……だから、お前だけの戦い方を、見つけてきてくれ」
ヨルンも、バルドも、黙ってうなずいていた。
否定ではない。追い出すのでもない。
ただ――優しさからの“卒業”だった。
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夜、ステータスを開く。
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【ステータス表示】
名前 :レグラム
種族 :人間
年齢 :16歳
スキル :《金魚のフン》(Lv2)
《剣術・一ノ型》(Lv1)
《影歩き》(Lv1)
《鉄壁》(Lv1)
レベル :Lv.12
HP :108 / 108
MP :51 / 51
EXP :次のLvまであと44
【能力値】
筋力 :22
敏捷 :24
知力 :19
魔力 :14
耐久 :26
幸運 :17
どのステータスも、かつてとは比べ物にならない。
けれど、“何か”が欠けていた。
それは――「誰かの背中」という、俺にとっての“居場所”だった。
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翌朝。パーティから一歩離れた位置で、俺は一人、準備をしていた。
ダグラスたちは、いつも通りだった。
笑って、冗談を言い合って、準備を整え、出発する。
でも、俺にはその輪の外にいる“感覚”があった。
「レグラム」
出発前、バルドが一言だけ告げた。
「……また、戻ってこい。力じゃなく、“背中”でつながっていたあの頃みたいに」
ヨルンが手を振る。
「なんなら、たまには“お前にくっつかせて”くれよな!」
ダグラスは、ひとつ頷いて言った。
「じゃあな、“金魚のフン”卒業生」
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俺はその日、初めて一人でギルドに向かった。
くっつく相手のいない《金魚のフン》。
けれど――それでも、どこかでまた誰かとつながるために、俺は歩き出す。