第五話:半年後、《金魚のフン》Lv.2──そして最初の剣
王都で冒険者としての生活を始めてから、半年が経った。
今も変わらず、俺は“くっついて”いる。
ダグラスの背後を。
ヨルンの横を。
バルドの足元を。
ただ、以前と違うのは、その“質”だった。
風の流れに応じて立ち位置を変え、
視線ひとつで彼らの動きを予測する。
岩陰に身を隠し、魔物の位置を読み、あえて邪魔にならないよう呼吸を合わせる。
「……くっついてるだけじゃねえな、もう」
ヨルンの軽口にも、少しだけ敬意が混じるようになった。
ダグラスも、バルドも、何も言わないが、目の端で俺を気にする仕草が増えた。
それが、なによりの答えだった。
⸻
そして――その日が来た。
峡谷に現れた盗賊団の討伐任務。
俺たちは、崖沿いの細道を進みながら、敵の襲撃に備えていた。
「……右上から来るぞ」
ダグラスが低く呟く。
その瞬間、岩陰から飛び出す影。
すかさずダグラスが前に出て、斬撃を繰り出す――
「《剣術・一ノ型》!」
重みのある一撃。見慣れた、だが研ぎ澄まされた斬撃。
その瞬間。
【スキル《金魚のフン》がLv2に成長しました】
◆条件達成:追従時間・累計300時間突破/信頼度:安定
◆新効果解放:対象スキル“獲得”
▶︎ 条件対象:ダグラス(剣士)
▶︎ 習得スキル:《剣術・一ノ型》を正式獲得しました
視界に浮かぶ光の通知。
それを見た瞬間、俺は……無意識に、腰の剣に手をかけていた。
「――っ」
盗賊の一人が、ダグラスの死角から迫る。
俺の足が、自然に動いた。
これまで一度も、前に出たことのなかったこの足が。
「はぁっ!」
剣を抜き、踏み込む。
見様見真似だった“あの動き”が、今は“俺の技”として繋がる。
斜めからの一閃――
「……っ!?」
盗賊がよろめき、距離を取る。
手応えがあった。間違いない、“斬った”という感覚が、手のひらに残っていた。
⸻
戦闘が終わったあと。
ダグラスが、俺を見つめていた。
「……お前、今の……」
「……はい。たぶん……《剣術・一ノ型》が、俺にも使えるようになりました」
「スキル模倣じゃない、獲得……か?」
俺はうなずく。
「《金魚のフン》が、スキルLv2になって、対象のスキルを“覚える”ようになったみたいです」
しばしの沈黙のあと、ダグラスはふっと鼻で笑った。
「……半年、黙って俺たちの後ろにいただけの奴が、今や俺の技を使って前に出るとはな」
「いや、あの……すみません、勝手に」
「……バカが。何が悪い。誇れよ、それは“お前が得た力”だ」
その言葉が、妙に胸に響いた。
⸻
その夜。安宿に戻り、ステータスを開いた。
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【ステータス表示】
名前 :レグラム
種族 :人間
年齢 :16歳
スキル :《金魚のフン》(Lv2)
《剣術・一ノ型》(Lv1)【NEW】
レベル :Lv.9
HP :91 / 91
MP :43 / 43
EXP :次のLvまであと22
【能力値】
筋力 :18
敏捷 :20
知力 :17
魔力 :13
耐久 :21
幸運 :15
――ああ、ちゃんと俺の中にある。
模倣でも、借り物でもない。
半年間、誰よりも“背中”を見つめ続けたからこそ得られた、自分の剣。
「……次は、もっと上手く、振れるようになりたいな」
そう呟いて、俺は剣を大事に、鞘に納めた。