表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

第四話:二ヶ月間、ただくっついて


 王都で冒険者になって、あっという間に二ヶ月が経っていた。


 俺の毎日は、変わらない。


 ダグラスたちのパーティーにくっついて、森へ、遺跡へ、谷へ、洞窟へ。

 ひたすら彼らの背中を追い、邪魔にならないように、静かに歩き、静かに佇み、戦いが終わるのを見届ける。


 そして──

 戦闘が終わったタイミングで、ボードが表示される。


【経験値獲得:39】

【経験値獲得:52】

【経験値獲得:41】


 それだけだ。


 スキル《金魚のフン》は、**“くっついているだけで経験値がもらえる”**という異質な能力。

 だがその代わり、戦闘には一切関与できない。攻撃も、防御も、補助も、なに一つない。


「……ほんと、地味なスキルだよな」


 ある日の依頼帰り、ダグラスがぽつりとつぶやいた。


「けど、くっついてるだけで、ちゃんと成長してるんだろ? レベル、もう5とかか?」


「はい。今日で6になりました」


「はえぇな……まあ、こっちは命張ってるのにな!」


 ヨルンが笑いながら突っ込んでくる。


 それでも、前みたいな嘲笑ではない。

 この2ヶ月の間、俺は“ちゃんと離れずについてくる奴”として、少しだけ認められ始めていた。



 ある日の依頼。

 森の奥、湿地地帯にて。


 足元が悪く、視界も霞んでいる中、魔物との小規模な交戦が起きた。


「……っ、くそっ! 足が滑った!」


 バルドが転倒しかけ、敵の矢が迫る。


 その瞬間、俺は――思わずバルドの背にしがみついた。

 いや、ただ《くっついていた》だけだった。だが──


 そのタイミングで、矢が俺の頭の上をすれすれで通過し、後ろの木に突き刺さった。


「……助かった」


「えっ……俺、何も……」


「……後ろにいたから、倒れすぎずにすんだ」


 それは偶然だった。俺の判断じゃない。ただの結果だ。

 けれど、バルドはその一言を、ちゃんと“感謝”として言ってくれた。



 夜。安宿のベッドで、俺はステータスを開く。



================

【ステータス表示】


名前   :レグラム

種族   :人間

年齢   :16歳

スキル  :《金魚のフン》(Lv1)


レベル  :Lv.6

HP    :74 / 74

MP    :39 / 39

EXP    :次のLvまであと63


【能力値】

 筋力   :16

 敏捷   :18

 知力   :15

 魔力   :12

 耐久   :19

 幸運   :14


能力値も少しずつ上がってきた。

 だが、未だスキルは“経験値獲得”にしか使えない。支援も、補助も、ない。


「……でも、いい。今はこれでいい」


 くっついているだけ。されど、それを“完璧に”やるために、俺は地形を記憶し、視界と距離感覚を鍛えた。


 いつかきっと、《金魚のフン》は……この先に、何かを見せてくれる。

 そんな気がしていた。



 その日、ギルドの受付嬢――リーネさんに、声をかけられた。


「レグラムさん。最近、よく戻って来られてますね。生還率が高いです」


「あ、はい。ありがとうございます」


「……その、“金魚のフン”ってスキル。冗談だと思ってましたけど、本当に有効なのかもしれませんね」


 笑いながらも、どこか認められたような気がした。



 次の依頼も、その次も、俺はまた三人の背中を追う。

 ただの金魚のフン。それでも、二ヶ月もくっついていれば、見えてくるものがある。


「……次のレベルまで、あと63。もう少しだな」


 どこまでも地味で、目立たない。


 でも、これは俺だけの戦い方だ。

 “動かない勇気”と、“黙って見つめる根気”――それが、今の俺のすべてだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ