第三話:ただの付き添いなのに
王都の北、街道沿いにある小さな森。
そこに巣食うゴブリンの討伐――それが今回の依頼だった。
同行するのは、さっき声をかけてくれた三人組の冒険者たち。
リーダー格で剣士のダグラス。
軽口を叩いていた弓使いのヨルン。
無口な盾役の大男、バルド。
俺は、ただその後ろを黙ってついていくだけだった。
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「……あいつら、ホントに戦うのか……」
森の中を進みながら、俺は三人の背中を眺めていた。
ダグラスが先頭で道を切り開き、バルドが横を固める。
ヨルンは弓を片手に軽やかに森を駆ける。無駄のない動きだった。
それに比べて、俺はただ――
「……よし、くっついてるだけ、くっついてるだけ……」
ひたすら、三人の誰かの背後1メートルをキープして歩いていた。
戦うことは、許されていない。
邪魔しないことが、俺の“仕事”だった。
⸻
「っしゃ! 三匹目のゴブリン撃破!」
「バルド、そっちはどうだ?」
「……片付いた」
ダグラスたちは、鮮やかにゴブリンを蹴散らしていった。
俺はその場で、ただ固まって立ち尽くしていただけ。
だけど――
【経験値獲得:45】
レベルが2に上がりました。
「えっ……?」
唐突に、視界にボードが浮かんだ。
「……マジで……? 俺、何もしてないぞ……?」
ただの付き添い。戦ってすらいない。
それなのに――
【スキル《金魚のフン》が効果を発動しました】
対象:ダグラス
貢献度:極小(距離維持判定:成功)
経験値取得率:12%
「まさか……これ、本当に“くっついてるだけ”で経験値が入るのか……?」
⸻
討伐が終わって、帰り道。
「おい、レグラム。なんか手応えあったか?」
「え、あ、はい……レベルが、1つ上がりました」
「マジで? なんもしてねーのに?」
ヨルンが肩を揺らして笑う。
「やっぱ“金魚のフン”ってすげぇな。ある意味、最強の怠け者スキルかもしれねえ」
「……そうでもないさ」
ダグラスがふと口を開いた。
「あいつ、ずっと俺の背中に合わせて距離を保ってた。
森の中でそれをやるのは、意外と難しい。獣道は狭いし、魔物はどこから来るかわからん」
「え……」
「後衛の足を引っ張らない位置、敵から狙われない角度、そんで回避のラインも邪魔しない。……無意識ならなおさら凄い」
思いもよらない言葉だった。
スキルでくっついてるだけ――でも、そこに“工夫”や“精度”が加われば、もしかして……。
⸻
その夜、安宿に戻った俺は、ステータスボードを開いた。
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【ステータス表示】
名前 :レグラム
種族 :人間
年齢 :16歳
スキル :《金魚のフン》(Lv1)◾️
レベル :Lv.2
HP :54 / 54
MP :28 / 28
EXP :次のLvまであと38
【能力値】
筋力 :14
敏捷 :12
知力 :12
魔力 :10
耐久 :16
幸運 :12
「……やっぱり、“くっついてる”こと自体が、ちゃんと評価されてるんだな……」
まだ弱い、まだ未熟。
でも、俺はもう“ただの農民の息子”じゃない。
「よし……次も行こう」