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第二話:冒険者ギルドへ


 翌朝――まだ太陽が地平線を上りきる前に、俺は目を覚ました。


 寝たはずなのに、体がだるいのはなぜだろう。

 ……ああ、そうか。昨日のあれは夢じゃなかったんだな。


「……スキル《金魚のフン》、か」


 ベッドの上で起き上がり、ボードを表示する。

 表示されたステータスには、昨日と変わらず、あのふざけたスキル名が堂々と載っていた。


「……はあ。やっぱり、変わってないか」


 気を取り直して服を着替え、昨日のうちに確認しておいた王都中心部の冒険者ギルドへと向かう。



 王都ギルドは、見上げるような大きな建物だった。


 冒険者だけでなく、物資の仲介や情報の流通、クエスト掲示など、すべてがここで動いているらしい。

 地方では見たこともないほど立派な石造りの建物。扉を開けた瞬間、熱気と喧噪が押し寄せてきた。


「うお、にぎやかだな……」


 男たちの笑い声。武器の金属音。カウンターに張られた依頼票の山。

 俺のような新参者など、誰も気に留めていない。


「……ま、そりゃそうだよな」


 そっと息を整え、受付に向かう。


 カウンターの向こうには、無表情だけど少し目元が柔らかい女性職員が座っていた。

 声をかけると、彼女は手早く登録用紙を出してきた。


「ギルドへの登録ですね。お名前と生年、スキルの申告をお願いします」


「……レグラムです。年齢は16。スキルは……《金魚のフン》です」


 ちょっとだけ、女性職員の手が止まった。


 だが、何も言わず、淡々と処理を続けてくれた。

 少なくとも、昨日の神晶殿の巫女や、貴族の子供たちみたいなあからさまな笑いはなかった。それだけで少し救われた気がした。


「……登録完了です。こちらがギルドカードになります」


 彼女は銀縁のカードを手渡してくれた。

 裏面には、俺の名前とスキル、そして等級【Fランク】と書かれていた。


「最初に受けられる依頼は、生活支援系や雑用が中心です。戦闘を希望するなら、先輩冒険者と組む必要があります」


「戦闘……できないと、レベルは上がりませんか?」


 俺の問いに、受付の彼女は少しだけ首を傾げた。


「いえ、“貢献が認められれば”経験値は得られます。ただし、スキルによっては判定が厳しい場合もあります」


「……なるほど」


 貢献、か。

 《金魚のフン》は、戦わずに“誰かにくっついてる”だけだ。

 つまり、“うまく誰かの後ろに付いていければ”、経験値がもらえる――はずだ。



「……なあ、そこの新人。お前、スキルなんだ?」


 カウンターを離れて依頼掲示板を見ていた俺に、横から声が飛んできた。

 見るからに場慣れした雰囲気の三人組パーティー。装備は軽めだが、剣や弓を背負っていて、Fランクとは思えない貫禄がある。


「……え、あ、スキルですか? その、金魚のフンです」


「……はっはっはっ!! 本当にあんのかよそんなスキル! マジで存在するんだなそれ!」


 一人が腹を抱えて笑い出す。だが、別の一人――一番年上らしき男が、ふと真面目な目でこちらを見た。


「……お前、どっかのパーティーに入ってるか?」


「……いえ。登録したばかりで……」


「なら、うちの荷物持ちとしてついてこい。今日はゴブリン掃討の依頼がある。楽じゃないが、くっついてりゃ何かにはなるだろ」


「え……いいんですか?」


「戦力には数えねぇけどな。まあ、運が良けりゃレベルくらいは上がるかもな」


 ──それが、俺の《金魚のフン》としての“初陣”だった。

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