鑑定の儀式
王都の東端、「神晶殿」と呼ばれる神聖な施設。
高い天井、白銀に輝く柱、浮遊する結晶の光――
そこは、“スキル鑑定の儀”が執り行われる、神聖なる空間だった。
「次――レグラム」
無表情な巫女が名前を呼ぶと、少年は一歩を踏み出した。
年は十六。農民が着るような服に、ボサボサの黒髪。
この国では十六になると、誰もが“生得スキル”を鑑定される。
それは、人生を左右する運命の儀式。
戦士としての資質。魔導士としての才能。治癒師、鍛冶師、聖職者、盗賊。
すべての始まりは、この鑑定から始まる。
「ここに立ちなさい。神晶の前へ」
レグラムは静かに玉座の前、巨大な水晶の前に立った。
それは、世界の理を映す“神晶核”と呼ばれる神具。
その中に、本人の魂が刻んできた“可能性”が映し出されるという。
「手を置いて、精神を鎮めよ」
巫女の声に従い、レグラムはそっと右手を水晶に添えた。
――その瞬間、水晶が音もなく輝き始める。
金。赤。青。紫。さまざまな光が混じりあい、やがて一つの形を結んだ。
「鑑定、完了」
水晶から現れた文字を、司祭が読み上げる。
「スキル名――《金魚のフン》」
――神殿内が静まり返った。
司祭の手が止まる。巫女が目を見開く。
後ろで順番を待っていた貴族の少年たちが、くすくすと笑い始めた。
「き、金魚の……フン……?」
「は、ははっ! マジかよ、それって“誰かの後ろにくっついてる
「それ、スキル名として成立してんのか?」
俺――レグラムは、地面を見つめたまま動けなかった。
王都の近くの村に産まれ、農業をしている両親の元で十六まで暮らしていたが、当たり前に両親と同じ農業を継ぐ将来が嫌になり、十六で村を出た。
王都で冒険者になって、有名になって、金を稼ぎ、好きな物を食べて、欲しいものを買う、そんな生活をしたくて村を出た。
だからその為にも授かるスキルに賭けていたのだ。
「・・・終わった。」
その言葉を呟いた後、神晶殿から出て王都に着いてすぐに取っていた、一番安宿に戻る事にした。
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部屋に戻り、ボロボロのベッドに腰を掛け、一息ついた後念のためスキルの確認をする。
「・・・ステータスオープン」
名前 :レグラム
種族 :人間
年齢 :16歳
スキル :金魚のフン(レベル1)◾️
レベル :Lv.1
HP :48 / 48
MP :25/ 25
EXP :次のLvまであと19
【能力値】
筋力 :13
敏捷 :10
知力 :11
魔力 :9
耐久 :15
幸運 :10
「はぁ。やっぱステータスに表示されてるや。金魚のフンがスキルで間違いないな…。」
目の前に映しだされた透明なボードにはそれぞれのステータスが表示されていて、もちろんスキル欄には金魚のフンが表示されている。
「…とりあえず今日は色々疲れたからもう寝よう。明日冒険者ギルドで俺でも出来る仕事を探すか。」
俺はまだ辺りが暗くもなっていない安宿の硬いベッドで横になり、現実を忘れる為眠る事にした。