第七話 疑惑は眠りのあとに
この女を取り巻く環境、やっぱりおかしくないか?
ネルヴァに抱き上げられてベッドに横になり、改めて思う。
侍女との話を聞いていた限り、オレスティアはよく貧血で倒れていたらしい。だから慌てず騒がず、とりあえずは執事であるネルヴァを呼びに行った。
そこはまぁ、まだわかる。問題はその後だ。
父親である「旦那様」とやらではなく医者を呼ぶ、その理由が「大事ではない」からだという。
たとえ頻繁に倒れているのだとして、いつもはすぐに目覚めるのに起き上がらないのだから、それだけで充分に「大事」ではないのか。
そもそも、この医者とやらもなかなかにポンコツだった。
まずは額に手を当てる。「発熱はないようですね」と、抱き上げたネルヴァと同じ程度の発言をした。
次には手首をとり、「脈も正常です」との確認をした。
だが、それで終わりだった。
嘘だろう、との感想を禁じ得ない。
熱も脈も異常がない。なのに意識が戻らない。
意識障害を疑い、閉じた瞼を指で開いて、瞳孔の様子くらい確認して然るべきではないのか。
ド素人のオレステスでも考えつく「診察」をやらないなどと、あり得ない。
――もっとも、本当にそうやって瞼をこじ開けられていたら、気絶を装うために全力で白目を剥くつもりだった。ご令嬢にあるまじき顔を晒さずにすんだのだから、結果的にはよかったのかもしれないが。
しかしこの、なにもせずただ横たわっているだけってのは退屈だな。
一応は様子見なのか、医者と従者が部屋に残っているから、起き上がることも目を開くことすらかなわない。
しかもこの、柔らかな布団が難敵だった。
初めに見て想像していた通り、いや、それ以上にふかふかで肌触りも心地いい。これほど上等の寝具に包まれたことなどなかった。
となればやはり、眠気に襲われる。うっかり洩れかけた大あくびを、なんとかかみ殺した。
ああ、でもこの分だといつ身内が来るかもわからねぇな。
さすがに幾日も放置されることはないだろう。数刻もすれば医者か執事が焦れて、「旦那様」に報告に行くのではないか。
ならばそれまで、本当に眠ってしまってもいいかもしれない。
敵地で熟睡するほど愚かではないが、ここに居る分にはさほど、身の危険はないだろう。
また、体力温存も大事だ。
決して、このふかふか、やわやわの布団で眠る心地よさに浸りたい、というわけではない。
――決して。
自分自身に言い訳しつつ、それでも注意を怠らず、オレステスはゆっくりと意識を手放した。